温度が上がってもう一度、リケと息を合わせて斧の形を作っていく。多少くぐもってはいるが、派手な音が再び森の中へと吸い込まれる。
やがて、鋼は斧の形になった。誰が見ても斧にしか見えない。まだ刃はついていないが、この状態でもそれなりには木の幹に食い込んでくれそうだ。
まぁ、つまりはスッパリと木を断ち切ってしまうには力不足である、ということでもあるのだが。
相手が硬くて脆いなら、こいつをぶつければそこから割れてくれるかも知れないが、残念ながら木は柔らかいし、それならそもそも俺とリケが手にしている鎚で殴ればカタがつく。
俺は木漏れ日に斧をかざす。
「どうかな?」
「良い出来ですね! この環境での急拵えとは思えないくらいです」
リケは興奮気味にそう言った。彼女のお眼鏡にかなっているなら、問題は無さそうだな。
「よし、じゃあ焼き入れと焼き戻しをしたら研ぐか」
「はい!」
俺とリケが頷き、休んで貰っていたリディに合図をして、火を使う最後の作業に取りかかろうとしたところで、別の声が響く。
「ご飯ができたわよ!」
自信満々のディアナの声だ。斧をかざした木漏れ日から太陽の位置をよくよく見れば、中天をかなり過ぎていた。
「おっと、こんな時間か。あれだけ作業してりゃ、そりゃ時間も過ぎるか」
「日が落ちるまでには間に合いそうですけどね」
「そうだな」
後の作業はそこまで難しい話ではない。焼き戻しのときにちょっとした調整はいるだろうが、柄は取りあえずのものがつけられれば良いし、特に厄介なものではない。
チートの手助けがあればすぐに終わるくらいの話だろう。
俺は斧を脇に置いてから立ち上がる。
「よし、じゃあ飯を食って備えよう。腹が減っては戦ができぬ、だ」
ディアナの声で作業を中断した俺たちのところへ来ていたリディがクスクスと笑いながら言った。
「北方の言葉ですか?」
「まあね」
そう言ってニヤリと笑う俺。やはり笑いながらリケが言った。
「北方には良い言葉がありますね」
「だろ?」
俺たち3人は再び笑い合う。
魔物のところへはアンネが呼びに行ったようだ。そっちの方から呼ぶ声が聞こえてきている。
「じゃあ、行こうか」
『はい』
そうして、ディアナたちのいるところへ行こうとして、俺ははたと気がついた。
「よくよく考えたら、伯爵家令嬢と皇女殿下に料理任せるってとんでもないことなんじゃないのか?」
「え、今更ですか?」
目を丸くするリケ。俺は空を仰ぎ見る。
「普段は俺が作ってて意識しないからなぁ。ま、建築だのなんだのやらせておいて料理やらせたのが問題になるってことはないだろうし、何より……」
「何より?」
「アンネ曰く、ここは『エイゾウ工房出張所』らしいからな、いつもどおりならやってもらっても不思議じゃない」
「勿論です!」
ドンと胸を叩くリケ。俺はその肩を軽く叩いて、ディアナの待つ出張所の食卓へ向かうのだった。