できたばかりの斧を両手で構えてみる。頭――刃身があるほう――が重く、ずしりとした手応えが伝わってくる。そちらを重くしたのはある程度は狙い通りで、振り回した時に遠心力で勢いがつきやすいと考えてのことだ。
まぁ、材料が少なくてあまり調整がきかないのも理由としてはあるのだが。
家に帰ったら柄のほうにカウンターウェイトをつけて、もう少しバランスを良くしたほうがいいだろうな。
「よーし、やるぞ」
俺は誰もいない虚空に向かって、前の世界のプロ野球選手のようにスイングする。
力いっぱい過ぎると振り回されて、体のあちこちを痛めそうなので、ほどほどの力だ。
そこまで力は込めていなかったのだが、斧は遠心力を得てブゥンと低い唸りを立てた。
スイングする間、振られる感覚は多少あるが、特にフラフラとする感じはない。これなら狙ったところに当てられそうだ。
「どうだった?」
審判のように俺のスイングを見守ってくれていたリケに聞いてみる。
「綺麗に振れていたと思います。問題はそもそも振り回すのに力がいることですね。親方は力があるので大丈夫ですが」
「例えばリディだと無理そうだな」
「そうですね。私ではとても」
役目を終えて休んでいたリディが頷いた。そう、そもそも扱えるかどうかが問題だ。
リディも全く筋力がないわけではない。ある程度の筋力がなければ畑仕事も厳しいし、弓をひくこともできないからな。
とまれ、リディくらいの筋力では無理、それなりに力はあっても多分ディアナも厳しいだろう。
つまり、ディアナとリディの2人はこの後、樹の魔物を直接倒す役目にはあてられないということだ。
「よし、あいつをぶっ倒す算段だ。すまんが呼んできてくれ」
俺が言うと、リケとリディは頷いて駆けていった。俺はその後姿を見ながら、少しばかり痛めた肩をグルグルと回した。
「おお、いい出来じゃん」
「急造品にしては、な。うちの製品だというにはちょいと野趣が溢れすぎる」
やってきてヒョイと持ち上げたヘレンの言葉に俺は苦笑した。装飾をするかはともかく、もう少し製品ぽさは持たせてやりたい。
「それじゃあ、作戦会議だ」
「おう」
やはり軽々と斧を振り回していたヘレンが斧を置いて、みんなが集まっているところへ駆け寄ってきた。
「今あいつはどうなんだ?」
「何も変わらない。ウネウネはしてるけどそこから動く気配もなし、大きくなったりする兆しもなし」
肩をすくめてサーミャが言った。
「じゃあ、ウネウネしはじめた以外の動きはないのか」
「だな」
今度は頷くサーミャ。俺もそれに頷き返す。
「それじゃあ人選だが、少数精鋭で行きたい。あいつの周りは多少の空間はあるけど狭いし、何より効きそうな武器が限られてるからな」
「弓矢は意味なさそうですからね」
俺の言葉にリディが相槌を打つ。矢が10本や20本刺さったところで意味はないだろう。場所を考えると火矢はNGだろうし。
ヘレンが手を挙げて言う。
「直接攻撃できる武器を持っていて、それが『切る』武器なのがいいな」
「となると、俺とディアナ、ヘレンか」
俺は腕を組んだ。ヘレンは頷く。
「うん。で、アンネに斧をやってもらう」
「え、わたし?」
アンネが目を丸くして自分を指差した。ヘレンは再び頷いてから言った。
「エイゾウとディアナとアタイがウネウネの対応と、万が一の後詰めだ。アンネはアタイたちがウネウネを払ったところで突っ込んで斧をぶっ込みゃいい」
ヘレンは指折りながら続ける。
「うちでアタイ並みに力があるのはサーミャとアンネ、あとエイゾウだけど、この中で重量のある武器を振り回すのに慣れてるのはアンネだけだから」
「なるほど……」
アンネは少しの間考えていたが、すぐに頷いた。
「わかった、やるわ」
アンネの目には少しばかりの決意が見て取れる。
「ま、アタイたちがついてるし、サッサと片付けて今日は終いにしようぜ」
ヘレンが言って、皆頷く。
こうして、魔物討伐部隊は編成され、俺たちは決戦の場へと歩みを進めていった。