「うーん、どうすっかな……」
ラティファさんを落ち着かせたあと、ウネウネと動く6本のツタを前に、ヒュンヒュンと器用に剣を振り回しながら、ヘレンが考え込んでいる。
あれは多分準備運動も兼ねてるんだろうな。稽古の時もよくやっているし。
「今んとこ動くツタが増えそうな気配はないけどな」
俺は足を伸ばしながら言った。まだ〝薄氷〟の鞘は払っていない。激しく動いてアキレス腱が切れるような事態は避けたいからな……。
そういえば、この世界ではこの部位のことをなんと呼ぶことになるんだろうな。アキレスはいないだろうが、似たような逸話を持つ英雄はいてもおかしくないから、その人の名前がつくんだろうか。
「本体も今のところ動く気配はないわね」
「そうねぇ。そうなると手に負えない可能性もあるわね」
こちらは互いに引っ張り合って脇のあたりを伸ばしているディアナとアンネである。お嬢様コンビだからかは分からないが、どことなし姉妹感もあるなぁ。
「ま、3本はアタイがやるか。2本はエイゾウに任せた」
「おう」
「残りの1本はディアナな」
「わかったわ」
ヘレンの指示に、俺とディアナは頷いた。
「切って何かあったら……」
くるりと手の中の剣を回すヘレン。
「そりゃそんときだ」
そう言ってニヤッと笑う彼女に、俺たちは若干の苦笑を含んだ笑顔を返す。
「ツタが短くなったらアンネはすぐ突っ込んで、ぶっこめ」
「承知」
ドシンと肩に斧を担ぐアンネ。皇女らしさは一欠片もないが、美人がああいうことすると妙に迫力あるんだなぁ、と俺は少しズレたことを考える。
「ようし」
チャキッとヘレンの剣が鳴る。俺はスラリと〝薄氷〟の鞘を払い。ディアナも剣を抜いた。
「行くぞ!!」
怒号のようなヘレンのかけ声で、俺たちは一斉に放たれた矢のように駆け出す。
ウネウネと動くツタに近づく。今までは多少伸びても届かないところにいたわけだが、ツタの「間合い」に入った途端、それぞれが俺たちを狙って動いてきた。
斧を叩き込むアンネは少し後方にいるから、前衛の俺たち3人にそれぞれ2本ずつだ。どうやら几帳面な性格らしい。
正直、生理的に気味が悪い部分はあるのだが、俺は肌が粟立ちそうになるのを抑えて、自分に向かってくる2本に狙いを定める。
結構な勢いで向かってくるので、ツタ自体で打擲するつもりなんだろうか。俺が失敗したとき、拘束されて非常によろしくない絵面になるよりはマシか。
「フッ」
貰った戦闘能力が上手く働いてくれて、スッパリとツタが切り落とされる。
見れば瞬く間にヘレンは自分に向かっていた2本を切り落とし、ディアナに向かっている2本のうち片方を切っていた。
〝迅雷〟という彼女の二つ名を思い起こさせる素早さだ。感心していると、ディアナも自分に向かっているツタの片割れを鮮やかな剣筋で切り落としていた。
あれなら2本ともディアナでも良かったかもしれないな。そう思う俺の横を、アンネが駆け抜けていく。切られたツタはまだ多少動いているが、かなり鈍っている。
重戦車のように突進していったアンネは、大きく振りかぶった斧を、どことなし凶悪そうな顔がついているように見える木の幹に叩きつけた。