「よい……せっ!!」
皇女殿下としては些かはしたない気合いのかけ声一発、アンネが振りかぶった斧を振り下ろす。地面と接しているからだろう、コーンと抜けるような音ではなく、若干こもったようなスコンという音が響いた。
ヘレンが木に足をかけて力を入れると、木は身じろぎするように揺れた。これで切り分けたところが一応は丸太になった。
「デカいにはデカいけど、デカすぎなくて良かったよ」
俺は丸太のサイズを見て言った。これなら全部まるまる乗せても持ち運べるだろう。荷車とクルルの力があってこそだが。
「クルルルル」
クルルが目を輝かす。不思議と頑張れるときには嬉しそうなんだよな。今までもクルルのそんな性格にはなにかと助けられてきた。
頑張りすぎないように気を配る必要があるが、そこは「親」としてやって当然のことだろう。
「枝は打っていいよな?」
「ああ、頼む」
スッと剣を抜いたヘレンに俺は頷いた。当代随一の速さと力を持った傭兵がハードに使っても大丈夫に作ってあるあの剣なら、木の幹ならともかく枝打ちくらいは余裕でこなせる。
「フッ」
短い気合いとともに、目の前からかき消えるかのような勢いで丸太に斬りつけると、鮮やかに枝が幹から切り離された。
その間にアンネが新しく幹を切り分け、ヘレンがその部分の枝を払っていく……と、まるで機械のようにその作業が繰り返されていき、あっという間に幹は数本の丸太へと姿を変えた。
「ツタを考えたら枝はそのままでも良さそうだな」
「そうですね。幹が本体でしょうから」
バラバラと散らばる枝を見て言った俺に、リディが頷いた。
もし、あの枝一本一本が魔物になったら大変そうだが、あの大きさなら魔物になったところで、この森の動物たちが仕留めて終わりだろうし。
「あ、はい。多分大丈夫です。木の魔物は大きくて無理でしたけど、あれくらいならもし魔物になっても、私でもなんとかできます」
ラティファさんも太鼓判をおしてくれたので、俺たちは互いに頷きあって次の作業にうつる。
次の作業は……と、俺が声をかける前にサーミャが大声で言ってくれた。
「よっしゃ、積んでいこうぜ」
「私も一緒に運ぶけど、気をつけてね」
サーミャとリケが力を合わせて丸太を運び、荷車に載せる。リケのほうが身長が低いので、先に荷台に載って引き上げる形で積み込んでいく。
他の部分は皆で手分けして転がしたり担いだり(担いだのはヘレンだけだったが)して、あっという間に荷車の空いたスペースは丸太でいっぱいになる。
「何か珍しいものを見つけたら積んでいくつもりだったけど、これじゃ厳しそうだなぁ」
「生木だけど、燃やす?」
「うーん……」
ディアナに言われて俺は首を捻る。伐ったばかりの木は水分が多くて燃料としては適さない。なので、しばらく乾燥させてから使うのだが、今回はデメリットありまくりでも背に腹は代えられないか。
「そうだな、調理に使うのは臭いが移るといけないから避けて、その他はなるべく魔物の木を使うようにするか」
「分かった。皆にも言っておくわね」
「頼んだ」
ディアナが皆集まっているところに向かう。俺はその後ろ姿を見ながら、この後のお楽しみの準備に思考を巡らせるのだった。