「というわけで、お疲れ様会をします」
俺はそう宣言した。わー、と少々バラバラではあるが歓声があがる。
まだなんとか移動が可能な時間ではあるが、色々と疲れているし、早めにお疲れ様会として夕食をとり、今日はここで一泊の予定だ。
〝黒の森〟の外まで辿り着くという目的は達成しにくくなるが、何が何でも辿り着かなければならないものでもないし、今後を考えればここでちょっと休むのが正しい選択だろう、うん。
お疲れ様会にはラティファさんも参加することになった。最初は「大したことはしていないし、ものを食べるわけではないから」と辞退していたのだ。
しかし、ラティファさんの様子からすると、気にはなっているようだったので、ずっと魔物を見張っていたのも働きとしては十分だし、雰囲気だけでもどうかと誘ったところ、「それでは」と参加を承諾してくれたのだ。
「家なら食材も色々あったんだが、今日はいつも通りのメニューだな」
「そればっかりはどうしようもないですからねぇ」
ディアナ達が頑張ってくれた昼食の残りを前に、俺はため息をつき、リケが頷いた。
今は火を入れて、沸くまで待っているところだ。
家であれば、香辛料もかなり豊富に使えるのだが、今は荷車に載せてきたもののみで、凝ったものは無理だ。
食材も同様で、ちょっと豪勢にするときに出す肉を焼いたようなものも難しいだろう。
なので、せめてもと無発酵パンをほんのちょっと豪華――と言っても分厚めにしただけ――にしておいた。
家ではなく外であるということで酒はなし。リケなら恐らくいつもどおりに振る舞えるのだろうが、万が一も考えるとここは諦めてもらうしかなかった。
帰ったら好きなだけ呑んでほしいところである。
「それじゃあ水だけど、魔物退治を祝して乾杯!」
『乾杯!』
木のカップがぶつかる音が響き、中に入っている水を俺はグイッと呷る。
ワイワイと、今日の出来事に話の花が咲いていく。俺たちの中心には焚き火があり、少々派手めに煙を上げながら(幸いにして煙くてしかたない事態にはならなかった)燃えているのは、話題に上がっている木の魔物である。
その炎を見ながらヘレンが呟いた。
「しかし、木も魔物になるんだな」
「滅多にないですけどね。私は皆さんよりもだいぶ長生きですが、かなり珍しいと思います」
木の精霊だからなのか、それとも気を使って合わせてくれたのか、くぴくぴと水だけ飲んでいるラティファさんが答えた。
ちなみに、伐った木で残った部分、つまり切り株はしばらくは彼女が管理することになるらしい。
一度魔物になった木が再びなりやすいという話があるわけではないが、念のため「健やかに育つか見守る」のだそうだ。
それは彼女達、木の精霊にとってはいわば通常業務だということのようなので、お言葉に甘えて任せることになった。
「しかし、皆さんお強いですねぇ」
どこかしみじみとした口調のラティファさんに、俺は少しばかり微笑んで言った。
「まぁ、〝黒の守り人〟ですから」