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森の友

 水場の近くに少し開けた場所を見つけた俺たちは、そこで昼食をとることにした。

 空を見上げると太陽はまだ中天より低い位置にいる。

 普段はちょうど中天にさしかかる頃か、やや通り過ぎたくらいに昼食にしているから、いつもよりかなり早い時間ということになる。

 だが、俺も含めて胃袋が抗議の声を上げているので、早くても問題ないだろう。

 朝飯を抜いて、その時間を移動に使った分かなり進めたようだし。


 準備はもう皆手慣れたもので、ここまでに使った水を補給したり、石を見つけてきて手早くかまどを組んだり、食材の下準備をしたりといったことを何言わずとも作業を分担してテキパキと進めており、俺がすべきことと言ったら、ちょっと食材を切り、スープの味付けを頑張ることくらいのものだった。


「もうあと2~3日くらいかな」

「そうだな」


 俺がサーミャに聞いてみると彼女は頷いた。


「今はもうだいぶ北のほうにさしかかってきてるから、そこを突っ切れば森から出る」

「しかし噂に違わぬ広さだな……」


〝黒の森〟がこの世界で有数の広さを誇る森であることはインストールも教えてくれていたので分かってはいたが、やはり知識として知っているのと、実際にそこを歩いて体感するのとでは大きく違うものなのだなと、俺は感心する。


「この森が〝黒の森〟と呼ばれるのは、木々が黒いことや、昼なお暗いこと以外にも、『入ったら出られないくらい広い』ことも由来だって聞いたことがあるわね」


 スープを飲み込んでからあたりを見回してアンネが言った。〝黒の森〟は帝国にもその名が轟いているようだ。それも、割と正しい認識込みで。

 となれば、北方でも概要くらいは伝わっているのだろう。いや、カレンがいるな。彼女が北方に戻れば、〝黒の森〟が実際どうなのかについて詳しく伝わるか。


「こうしてるぶんには、そんな恐ろしいところだって思わないけどね」


 ねー、とルーシーに微笑みかけながらディアナが言った。彼女の言うとおり、時折茂みが揺れたりはするものの、風が気持ちよくそよぎ、そこでのんびり昼食をとっていると、命を落とすことすらある(それもまかり間違えばなどと生易しいものではなく、割と頻繁にだ)場所だとは思えない。


「ま、アタシらは強いからな。狼たちは避けるし、熊もどうかな、これだけいたら避けるはず」

「ああ、それでちっとも姿を見ないのか」

「うん」


 ここまでほとんど狼や熊を見ないなと思っていたが、どうやら「強い」俺たちを警戒して姿を見せなかったようだ。

 ありがたいような、ちょっと寂しいような、複雑な気分だ。

 ディアナとヘレンも俺と同じようなことを思ったらしい、2人で顔を合わせて眉根を僅かばかり寄せている。

 熊は厄介だが、狼は手を出してこない限りは可愛い部類に入るからな。


 うーん、狼あたりにはどこかで出会えないものか、彼・彼女らがどこまで分布しているのかも気になるんだよな、と考えているとルーシーがスンスンと鼻を鳴らし、茂みを見つめた。


 唸ってはいないので恐らく危険な相手ではないのだろうが、気になるようでじーっと見つめたままだ。


「どうしたんだ?」


 と、俺がルーシーに声をかけると、茂みがガサリと揺れた。全員が身構え、ルーシーもクルルもスッと立ち上がり、ハヤテとマリベルはクルルの背中にそっと姿を隠した。


 緊張が場を支配する。しかし、次に聞こえてきたのは、可愛らしい、聞いたことのある声だった。


「ぷきゅう」


 それは、そんな声を出して、ガサリと茂みから出てきたのだった。


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