俺たちは黒の森を進んで行く。森の友人である狸を加えて、だ。
狸は時折スンスンと鼻を動かしては、トコトコと草の生えているところへ歩いていく。
そして、草の匂いを嗅ぐと、
「ぷきゅう」
と立ち止まる。その草をリディに確認してもらうと、大体は何らかの効果のある薬草だった。
「これは切り傷に良く効きますね」
「これは火傷です。こっちは……うちだと出番はあまりないかも知れません。腹痛に効きます」
などなど、色々な効果をリディが説明していってくれる。
元々今回は普段手に入らないような素材があれば、それの確保もしようということになっていたので、こうして狸がその場所を教えてくれるのはありがたい。
ありがたいと言えばもう一つ。
「ぷきゅう」
「ワフ」
「ぷきゅきゅ」
「ワンワン」
見つけた草の前で狸とルーシーが会話を交わす(ように見えた)。その後、狸が草の匂いを嗅ぎ、ルーシーも草の匂いを嗅ぐ。
「見分け方を教えてもらってるみたい」
とはマリベルの言葉で、俺たちは皆頷いた。リディの話では、あの狸が魔物化しているということはないそうだが、それが頭をよぎるくらい、あの狸は賢い。
これも〝黒の森〟の自然がなせる業なのだろうか。森狼だって魔物化していなくても相当に賢いらしいし。
「これで狩りの時にルーシーが薬草を教えてくれるかもしれないな」
「いやぁ……」
俺の言葉に首を捻ったのはヘレンだ。
「ルーシーも最近はだいぶ大人っぽくなってきて、どうも仕事をちゃんとしないといけないと思っている節があるからなぁ」
「狩りの時は狩りにだけ集中する、と?」
「うん」
ヘレンは頷いた。
猟犬ならぬ猟狼としての任務に集中していたら、薬草探しどころではないのは確かにそうか。
俺だって鍛冶仕事の間に宝石を探せと言われても無理だもんな。
「ま、それならちょっとお出かけの時とかに、ついででもいいな」
「だな」
ヘレンが再び頷いた。別に狩りの時に効率よく採取してくるとかでなくとも、珍しい薬草を察知できるのであれば、それはありがたいからな。
なにせ医者も来られぬ森の中だ。何か病気をしたときの対処は基本的に自分たちでできなくちゃいけないわけだし。
今は基本的にリディに頼んでいるが、それこそ彼女が病に伏せったときに騒ぐだけ騒いで何もできないという状況も回避できるように考えないとなぁ。
俺がそんなことを思っている間に。狸によるルーシーへの授業は終了し、俺たちは再び歩き始める。
ちなみに、最初はクルルとハヤテも狸から学ぼうとしていたようだったのだが、どうも二人とも匂いでは区別がつかなかったらしく、早々に諦めていた。
森の端へと移動する間、この授業は繰り返され、そのたびに我が家の薬草ストックも順調にその数を増やしていくのだった。