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街からの知らせ

 昼飯までの間、俺たちの作業は澱むことなく進んでいった。

 俺が〝高級品〟を打ち、リケとサーミャが〝普及品〟を打つ。ディアナとリディが炉の様子を見つつ鉄石や炭を補充し、出てきた鋼を型へ流し込むのはヘレンとアンネの力がある2人だ。


 最近はサーミャも〝普及品〟なら出回っても問題ないくらいのものができるようになってきていて、実際納品物にもサーミャの作ったものも入っている。

 初めて一緒に納品したときは、サーミャも中々緊張していて、無事全数を納めた時は相当に胸をなで下ろしていたものである。


 ちなみに、できたサーミャの製品のチェックは主にリケが担当している。


「妹弟子の面倒を見るのは姉弟子の役割ですから」


 と胸を張って言ってくれているので、お言葉に甘えて彼女に見てもらっている。

 サーミャは俺が直接教えているわけでもないので、妹弟子というのも厳密にはおかしいのだろうが、本人達が良しとしているので、敢えてそれを止めるようなことはしていない。


 ともあれ、そんな姉妹弟子の助けを借りつつ、俺が作った〝高級品〟は大体2日ぶんくらいで、このまま4日ほど続ければ納品するには十分な数が確保できる。

 その後は〝普及品〟を作っていけば、リケとサーミャが作ったのと合わせてカミロが文句が言えない納品数になるはずだ。


「しばらくは大急ぎの仕事もないし、次の納品が終わったら、ちょっとのんびりするか」


 今日も天気が良かったので、テラスに出ての昼食時、俺はいつものスープ(春になって畑の食材がちょっと増えた)を飲みつつ皆に言った。

 本来であれば、避難経路の確認が緊張感を持つにせよ、ある程度それを兼ねていたはずだったのだが、なんだかんだと盛りだくさんになってしまい、ちょっとした休みという感じでもなくなってしまったからな。


 ここらで完全に羽を休める時間を設けたほうが良いだろうと考えたのだ。


「そうねぇ。結構バタバタしたものね」


 うんうん、と頷きながらディアナが言った。


「異議なーし。なんも考えなくて済む時間ってほとんどなかったしな」


 とディアナに続いたのはサーミャである。他の皆も頷いているので問題はないらしい。

 それじゃあ、何をしようかと考えようとしていると、上から鳴き声が響いてきた。


「キュイッキュイッ」


 この工房でもよく聞く声。だが、うちでこの声を出すハヤテは俺たちの側で肉をついばんでいる。

 ということはつまり……。


「アラシが来たのか」


 テラスから出て上を見ると、ちょうど森が途切れている、うちの上空を見慣れた姿がくるりと輪を描いている。

 その頭が俺の方に向くと、一直線にその影が俺の方に向かって降りてきた。


 俺は警戒しないし、ヘレンやハヤテが割り込んでくる気配もない。思った通り、影はアラシだ。

 アラシはそのまま俺が差し出した腕に止まると、


「キュイッ!」


 と高らかに一声鳴く。


 その脚には手紙が入っているのだろう筒が括り付けられていて、俺はゴクリと生唾を呑み込んだ。

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