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鎖帷子について

「聞いている話だと、格好だけでも鎖帷子をつけていれば、加護がそれに合わせてくれそうな気はするんだよな」


 たまたま鎖帷子の一番硬い部分に刃先が当たるとか、なんかそんな感じのことが起こるんじゃなかろうか。

 それが偶然なのかどうかは俺たちも含めて判断は不可能なのだ。

 顎をさすりながら、カミロが言った。


「鎖帷子と言っても、本人に合わせる必要はあるわけだろ?」

「そりゃ、ある程度はな」


 俺は頷いた。袖はつけずにベスト状にするにせよ、丈が長いと上着の裾からペロンと出てしまうし、肩幅がぶかぶかで動きづらいとかいったことが起きてしまう。

 身体の厚み方向も間違えると色々問題があるだろうし、最低限合わせる必要はあるはずだ。

 とはいえ下に着込んでおいて、防御がなされればいいのだ。

 それならば多少チートで頑張ればなんとかなりそう、というのが俺の予測である。


「まあ、身体の大きさは知ってるし、それなりに格好がつくようにはできる」


 俺がそう言うと、カミロは神妙に頷く。

 そこへ少し低い声で、ディアナが言った。


「加護が目減りするってことはないのかしら」

「どうだろうな。考えにくいとは思うが……」


 そんな制限があるのなら、加護をくれたときにジゼルさんから例えば「3回までですよ」などと忠告があっただろうが、そんな説明は受けていない。

 リージャさんやディーピカさんも、ジゼルさんが加護をくれた話をした時には「災厄除けは加護の中でも最上級だ」とは言っていたが、「そのぶん効き目がなくなるのも早い」とか、そういう話はしていなかったように思う。


 あるとすれば、加護は発動するのに魔力を消費するので、メギスチウムに篭められた魔力が十分な間は問題ないが、枯渇すると再び魔力を充填するまで加護が得られなくなる、といったことだと思う。

 だが、これもあらかじめ都の友人に渡す指輪だと言ってあるし、ジゼルさんがそのあたりを伝え忘れるような、うっかりさんかと言われたらそれも少し違うように思う。

〝黒の森〟は魔力が強いので、それでよそもそうなのだと思っている可能性はあるが。


「一応、帰ったら聞いておこう。あと1回耐えればいいなら、その1回くらいはもたせられるものを作ればいいし」

「うん……お願いね」

「おう。任せとけ」


 俺はどんと胸を叩いた。

 家族の兄で、俺の親友の身を守るものだ。1回こっきりでもその1回を確実に防ぐようなものは作ってみせる。


「ときに材料は鋼だよな?」

「そうなるな」


 カミロはしっかりと頷いた。


「ミスリルがあれば良かったんだが」

「今回は特に派手さはいらないぞ?」

「いや、単純に軽いからな。着たときに楽だ」


 ミスリルは羽毛のよう、とまではいかなくとも、相当軽い。そして、その軽さに見合わず硬くて丈夫に作ることができる。

 ある意味、鎖帷子を作るための素材と言っても過言ではないくらいだ。


「珍しい鉱石なんかはお前に売りつけられるから、探しちゃいるんだが」

「おいおい、売りつけるって……いや、買うかもな」

「だろ?」


 俺とカミロはそう言ってニヤリと笑う。背後からの視線がやや冷たいが、頭から追いやる。


「冗談はさておき、このところ手に入りにくくてな」

「相手さんの妨害工作か?」

「いや」


 カミロは今度はかぶりを横に振った。


「純粋にあちこちで需要がある。これは確認させてるが、どうも共和国のほうで大規模な遺跡群が見つかったそうだ」

「へえ」


 遺跡――前の世界のゲーム風に言うならばダンジョンだ――は一攫千金を夢見る人達、それとその領地を治める領主のギャンブルである。

 賭け金代わりに良い装備を揃えれば、それだけ奥まで進むことができ、金目のものをゲットできる可能性が上がり、装備がそれなりならその逆、というわけだ。


 勿論、そもそも何も残っておらず、装備もへったくれもない、なんてことも日常茶飯事らしいのだが。


「そんなわけで、共和国では貴族のお坊ちゃん達がいい装備を揃えようとしているらしくてな」

「なるほど。まあ、それはそれでカミロに儲けてもらうとして」


 俺は椅子から立ち上がり、ぐるりと肩を回した。


「それじゃあ、鋼で頑張るか。工房は近くにあるのか?」

「おう、待て、今案内させるから」


 番頭さんが部屋を出て行く。違う工房と言えば、以前にエイムール家の鍛冶場に行ったきりかな。

 不安とワクワクが入り交じり、俺は案内の人がやってくるのをソワソワと待つのだった。

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