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〝竜の息吹〟のある日常

「エイゾウは今日どうするんだ?」


 テラスのテーブルに並べた昼飯を頬張りながら、サーミャが言った。行儀が悪いとディアナとアンネに言われ、口を閉じてもぐもぐと動かしている。


「そうだなぁ……」


 常であれば新しい製品の試作、家や施設の補修、侵入者向けトラップの開発設置、〝黒の森〟を様子見がてら散歩、娘たちと遊ぶなどなど選択肢は色々あるが、今日のところは必須の要件が1つある。


「今日は〝竜の息吹〟の様子を見ないとだから、遠くへ行くのはなしだな」


 どのみち今日は昼食が遅くなったので、出歩くにしても遠くへ行くのは無理なんだけど。


「そうなると……。あー、クロスボウを設置できる台座の試作はしておきたいかもだ」

「バリスタとは違うんですか?」


 不思議そうにリケが言った。俺は頷く。


「設置場所は外になるだろうから、ほぼ固定のバリスタよりは、取り外しして単独で使えるほうがいいかと思ってな。普段は射撃可能な状態にしないわけだし」


 うちにバリスタを設置したとして、大規模な侵入が見込まれるときのみ射撃可能にするわけだが、その段になってあれこれ確認や手入れをするよりは、普段からこまめに手入れができる方が良いだろう。

 単独でクロスボウとして使えるなら、普段遣いもできるし予備をいくつか作っておけば不測の事態にも対応できそうだし。


 もちろん、そのぶん使える矢は細くなるし、射出速度も遅くなるので、威力としては落ちるはずだ。

 だが、そもそも我が家には筋力自慢が多い。機械式も検討するとしても、自分の力だけでセッティングできれば発射頻度に違いが出てくる。


 それに、どちらかといえば〝黒の森〟の中でも端に近い我が家であっても、クロスボウが貫通しないような鎧をまとって、ここまでやってくるのはほぼ無理なように思われる。

 たとえば馬を用いたとしても、〝黒の森〟を抜けてこなければいけないのだ。馬が入りたがらない可能性もある。


 そんなこんなでやってこれたとしても、かなり疲労しているはずで、ヘレンが相手の動きが悪いから手加減するかと言ったら、答えはノーなのだ。


「小さければ設置場所の自由度も高いし、普段外しておけば万が一の事故も防げる。特にクルルやルーシー、ハヤテにマリベルと、この森の動物たちになにかあってほしくないからな」

「なるほど」


 今度はリケが頷いた。


「こういうのは実際のダメージ云々もあるけど、どちらかと言えば怖いと思わせるのが目的な面もあるからな……」


 ヘレンもうんうんと頷きながらそう言った。どうやら、俺の考えが全然話にならないというわけではなさそうだ。


「知っているよりも多く、クロスボウの矢が飛んできたら、それを『誰か把握していない者が射ったのか?』『なにかの機構でそう見せているだけか?』の判別は難しいし、事実としては当たったら死ぬかもしれない矢が飛んできたってことだからな」


 ヘレンが続けた。その言葉には実感がこもっているように俺には思える。実際に何度か危ない目にあったのだろう。


「まあ、本格的に設置するのは先になるし、今日は検討だけだから、みんなはいつも通りに過ごしてくれていいぞ」


 俺がそう言うと、皆から了解の声が返ってきた。

 さて、これを平らげたら、早速始めるとしますかね……。

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