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自由研究な午後

 鍛冶場の中には俺とリケの2人。ディアナとヘレンは娘たちと遊ぶらしい。サーミャとアンネは、リディの畑の手伝いだ。


「まずは方向性からだなぁ」


 刀の練習をしてみると言うリケを横目に、俺は腕を組んで、絵の描かれた紙を置いたテーブルに向かっている。

 紙(一応植物性のもの)に描かれているのは、2つのクロスボウのラフだ。

 一つは力だけではなく歯車を用いて弦を引くもの。こちらは純粋に力のみや、テコなどの補助具を使うよりも強く弓を引くことができる、謂わば威力型。

 もう一つは前の世界で古い時代にもあったという、箱の中に矢を納めたものを弩の上に据え付け、レバーを引くと弦を引き、矢が自動的にセットされるもの。素早く動作させるため、弓の強さは程々に抑えた、こちらは連射型だ。


 両方の間にあたるのが今うちにある力で引くタイプになるだろうか。これも弓の強さや補助具などである程度は威力寄り、連射寄りにできる。


 威力型は一発の威力が大きいことがメリットだ。特に今回のように台座に設置して、初撃をワイヤートラップとして使うなら一発の威力が大きいほうが良いだろう。

 脅しとしても、目の前の木に深々と矢が突き刺さっていたら、いかに〝黒の森〟を進んできた剛の者でも尻込みくらいはするだろうし、有効だと思う。


 連射型は初撃は大したことがないが、台座から外して運用する際のメリットが大きい。最初はたいしたことないと思っても、それがいくつも飛んできたら話は変わってくる。

 正確な人数もつかみにくいかも知れない。思ったよりも人数が多そうだぞ、となれば諦めることもあるかもだし、単純に手数が多くなるのはメリットだ。


 いずれも一長一短である。射程については〝黒の森〟は基本的に木々が多くて射線がすんなり通らないことも多いから、度外視しても問題はないだろう。防衛機構としては家の周囲に届けばいいのだし。


「だとすると連射のほうか?」


 俺はそうひとりごちた。〝黒の森〟を進んでくるに当たって重装ということも考えにくいし、それならば手数で押せるほうを優先したらいいように思える。

 ただ、やはり一撃の威力は捨てがたい。当たりどころで大ダメージになるのと、どこに当たろうが大ダメージになるのとでは、撃つ方もとにかく当てればいいほうが精神的にも楽だ。練習も程々でいいわけだし。


「一旦頭を冷やしに行くか」


 このままだと堂々巡りになりそうなので、俺はリケに声をかけてから、鍛冶場を出た。


 外に出ると、庭で娘と遊んでいたディアナが俺に気がついた。


「あれ、どうしたの?」

「ちょっと考えがまとまらないんで、頭を冷やすついでにカリオピウムの様子を見に行こうかと思って」

「なんだ? アタイで分かることなら聞いてくれていいぞ」


 さっきまで娘と遊んでいたヘレンがいつの間にかそばに来ていた。

 ものが武器の話だし、ヘレンに聞いてみるのが一番良さそうだ。


「実はな……」


 俺がさっき考えたことを2人に説明すると、最後にヘレンが目を丸くして言った。


「どっちも作りゃ良いんじゃないのか? どこに置くかは考えないとだろうけど」

「ああ、それはそうだ」


 俺はポンと手を打った。どっちでもメリットとデメリットがあるなら、どっちも作って補うようにすればいいのだ。


「頭を冷やしに来て正解だった。ありがとうな、ヘレン」


 俺が感謝をヘレンに伝えると、彼女は、


「お、おう」


 とだけ言って、満面の笑みで走り回ってボールを追いかけている娘たちのところへ戻る。


「私にも分かることがあったら聞いてね」

「そりゃもちろん。わからないことだらけだし、聞きたいことなんて今後いくらでも出てくるさ」


 ディアナに言われて、俺は素直にそう返す。彼女もニッコリと笑うと、娘たちのところへ戻っていった。

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