いつも通りにテラスでの昼飯を終え、手紙をハヤテに託す。
うちから送ることはそんなにない(逆にカミロのところからは〝新聞〟がちょくちょく来る)が、流石に何度か送っているうちに儀式感は少し薄れてきた。
「キュイッ」
脚に筒を括り付けたハヤテが一声高く鳴く。
「クルルルル」
「ワンワン!」
「がんばってー」
娘達が応援の声を上げると、ハヤテは素早く羽ばたき、矢のように空を駆けていった。
「ハヤテもすっかり慣れたなぁ」
ハヤテも最初の頃はちょっとこのあたりを回ったりしていたように思うが、今はもう迷うことなくカミロの店を目指しているようだ。
頼もしいと素直に思うのだが、若干の寂しさも覚える。
「お姉さんだもの、妹たちに良いところを見せたいのもあるんでしょ」
ハヤテが飛び去っていった方向を眺め、ディアナがそう言った。
言われてみればハヤテはうちの娘達の中では最年長だったな。
いや、正確には遙か昔から生きていた(?)マリベルが最年長にはなるんだろうが……。
「頑張れお姉ちゃん」
ともあれ、サーミャがそう言うと、家族の皆がもう見えなくなったハヤテにエールを送った。
「さて、それじゃあお姉ちゃんに負けないように俺たちも頑張るか」
『おー』
気合いを入れ、俺たちは鍛冶場に戻った。
鍛冶場に戻りはしたが、俺は少し手伝って早々に夕食の準備をすることにした。今夜は少しだけ豪華にするので、多少の仕込みをしておきたい。
一応家族には先に仕事を上がる旨伝えておいたが、食事の準備と聞いて引き留める者は皆無だった。
さて、まずは肉を下処理しないとな。サーミャが仕留めた樹鹿の肉はいいものだが、塩漬けの肉とあっては下ごしらえも必須だろう。
「えっと、香草は……」
棚を探っていると、リディが育てた香草がきれいに束ねられて保管されているのが目に入る。
香草の類も結構な種類が揃ってきた。その都度リディにどういうものか聞いているのだが、前の世界にあったのとかなり近いものもあるので、使いではありそうである。
「あ、そうだ」
香草を準備している途中、ふと思いついて保存してあるキノコを倉庫へ取りに行ったりもする。アレを入れれば、更に美味くできそうだ。
そうして台所仕事に没頭していると、外から元気な声が聞こえてきた。
「ボクもお手伝いするー!」
見ればマリベルが窓から顔を出していた。
「頼みたいけど、鍛冶のほうはいいのか?」
「うん! みんながあっちを手伝ってきていいって」
「そうか」
皆がそう言うなら、ありがたく手を借りることにするか。炎の精霊の火をこんなことに使って良いのかとは思うが、本人がやりたいと言っているのだ、わざわざ遮る必要もあるまい。
「よし、それじゃあ火加減は頼んだぞ」
「任せて!」
こうして、祝いの夕食の準備は着々と進んでいった。