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小さな宴

「キューゥ」


 夕食の準備もほぼ終わった頃、外から聞き慣れた声が聞こえた。

 俺は火を出す仕事を終えたマリベルと顔を見合わせて、すぐ2人で外に出る。


 すると、仕事を終えたハヤテが降りてくるところだった。


「ハヤテ、ご苦労さん」

「キュッ」


 ハヤテは俺を見ると、そのまま肩にやってきた。反対側にはマリベルだ。


「よしよし」


 肩に留まったハヤテが頭を擦り付けてくる。俺はその頭を撫でてやった。

 お姉ちゃんとは言っても、頑張ったら褒めて欲しいところはまだまだかわいい娘だな。


「マリベルもありがとうな」


 マリベルも夕食の準備を手伝ってくれたし、少々厳しい姿勢になるが、その頭を撫でてやった。

 彼女も、


「きゃー」


 と言いつつ喜んでいたので、問題ないだろう。こうさせてもらえる間はさせてもらおう。いずれ嫌がる時期が来るかも知れないし。


「おっ、もう帰ってきたのか」


 そこに鍛冶場から出てきたサーミャが声をかけてきた。後ろには他の皆もいる。


「ちょうど今帰ってきたところだよ。なあ?」

「キュイッ」


 ハヤテはピッと姿勢を正した。〝ママ〟たちの前では少々気恥ずかしいようだ。


「早かったわね」


 ハヤテはディアナの肩に移る。頭を擦り付けはしないが、ディアナはその頭を撫でている。


「そっちも仕事が終わったところか?」

「はい。明日の納品分も十分できたので」


 リケが答えてくれた。うーん、もう俺がいなくても普通の納品なら問題ないような……。

 いや、高級モデルの数がちょっと少ないんだったか。うちでもリケくらいしかできないからな。


 何があるかは分からないし、俺がいなくてもなんとかなるならそれに越したことはない。いずれ俺なしでも十分に回るようになれば良いのだが。


「よし、それじゃあ風呂が終わったら飯にしよう!」


 俺がそう言うと、家族全員が賛成した。


 そして家族の風呂が終わり、テラスには夕食が並ぶ。いつもなら普段のスープに無発酵パン、焼いた肉くらいだが、今日はインク完成のちょっとしたお祝いなので、肉が香草焼きに、スープは香辛料を利かせたものにランクアップした少し豪華版である。


「肉を焼くときの火加減はマリベルが頑張ってくれたからな」


 塊のまま焼いた肉だが、マリベルのおかげでしっかりと中まで火が通り、さりとてパサパサになってもいない。


「おいしい!」


 そのマリベルは自分が手伝ったこともあってだろう、満面の笑みを浮かべて肉を頬張っているし、娘達もこちらは味付けを一切していないが、それぞれの鳴き声で喜んでいた。


「うん、マリベルが焼いてくれたからか、美味しいわね」


 アンネもそう言って肉に舌鼓を打っている。他の皆も言葉が違うが、それぞれにマリベルの頑張りを褒めていた。


「今度から、こう言うときにはマリベルに手伝って貰おうかな」


 俺がそう言うと、マリベルは目を輝かせて、


「いいの!?」


 とはしゃぐ。こうなってはママ達がダメと言うはずもない。


「ああ、頼んだぞ」

「まかせて!!」


 大声で胸を張るマリベル。そんな彼女を見て、家族の間に穏やかな笑い声が広がるのだった。

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