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 数日が過ぎてカミロの店に納品をした後。

 クルルのおかげで昼頃には家に戻ってこられるため、いつもであれば家族が各々の時間を過ごすことになっている。


 だが、今日は皆で1つ試すことがあった。


「よいしょ」


 俺はショベルで土を掘り起こす。炭を焼くための準備だ。

 家族は木の枝を立てて並べている。隙間が大きくなりすぎないように、山の形――前の世界で言えばピラミッド型――で並べていく。


「土を掘るのも久しぶりだな」


 最後に掘ったのは温泉の時だったか。柱を立てる時なんかにもクルルの手助けを借りて掘るが、最近は新たな建築物もないからな。


「よし、これぐらいかな」


 木の枝を積み上げ終わり、サーミャたちが立てた枝組みを見る。さほど大きくはないが、試作としてはこの程度で十分だろう。


「次は藁と土だな」


 用意していた藁を、皆で枝組みの表面に乗せていく。これは空気を遮断するためのものだ。藁の上からはさっき掘った土を被せていく。


「うまく燃えてくれるといいんだが……」


 ちょっとした山のようになったそれを眺めて、俺は言った。

 その山の山頂と麓には穴が空いている。山頂の穴は煙突……のようなもので、麓の穴は点火口兼通気口だ。

 これで火をつけて燃やし、あるところで全ての穴を塞げば良い。

 ただ、黒の森の木は魔力の影響で水分が少なく、通常の木とは性質が違う。前世の知識がそのまま通用するかは分からない。


「とりあえず、やってみないと分からんか。マリベル、お願いできるか?」

「もっちろん!」


 エッヘンと胸を張ったマリベルが、下部の通風口に近づき、手をかざすとあっという間に火がついた。流石は炎の精霊である。

 さあ、ここからが本番だ。


「交代で見張りをしよう」


 俺が言うと、サーミャとヘレンが頷いた。


「最初は白っぽい煙が出る。これは木の中にある水が抜けていってる証拠だ。その後黄色っぽくなって、最後に青っぽい煙になる。青い煙が出始めたら、炭が出来てきてるって合図なんだよ。そうなったら穴を塞がないといけない」


 と、なぜかチートが教えてくれたことを俺はそのまま皆に伝えた。教えてくれたのは鍛冶に関係あるからかも知れない。俺の説明に、家族全員が興味深そうに聞き入る。


「でも、魔力のせいで普通の木より水分が少ないから、白い煙の時間は短いかもしれないな」

「なるほど。だから試作なのね」


 アンネが理解したように頷いた。


 夜になり、家族交代で火の番を続けた。娘達は既に寝ている。空を見上げれば、初夏の星が瞬いていた。

 リディの順番の時、俺も様子を覗きに来ると、予想通り白い煙の時間は短かったらしく、既に黄色みを帯びた煙に変わっていた。魔力の影響は確実にありそうだ。


「これは面白いですね」


 リディが煙を観察しながら言う。


「煙に少し魔力が混ざってます。もしかしたら、できた炭にも魔力が残るかもしれませんね」

「そうなのか」


 もし魔力を含んだ炭ができれば、鍛冶の作業にも影響があるかもしれない。これは予想外の発見だった。


 朝方、いつもの水汲みを終えて戻ってくると、ちょうど青みがかった煙が出始めたところだった。

 俺たちは通風口を完全に塞ぐ。あとは中の温度が下がるのを待つだけだ。


「楽しみですねぇ」


 リケがワクワクして言った。俺は頷く。

 今回のは良い経験になった。たとえ失敗に終わっても、得られた知見は大きい。


「今回はいい勉強になったな」


 俺が言うと、今度は皆が頷いた。


 しばらくして、冷めた窯を開けてみると、予想以上に良質な炭が出来ていた。表面は青みがかった光沢があり、明らかに通常の炭とは違うように見える。


「これは使えそうだな」


 試しに火床で使ってみると、通常の炭より少ない量で高い温度が出せることが分かった。

 リディとマリベルに聞いてみると、この炭だと魔力を篭めることもできなくはない、らしい。

 つまり、〝黒の森〟以外でも多少なら鍛冶ができる目処がついた、ということでもある。


「本格的な窯は作らないけど、必要になった時のために覚えておこう」


 その結果を伝えると、家族全員が大きく頷く。これで、もしもの時の準備がまた一つ増えたのだった。

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