それに気がついたのは、俺ではなくリケだった。
俺とリケ以外の家族が皆狩りに出た次の日、狩った獲物(この日は鹿だった)を解体している時である。
「あれ?」
リケが怪訝そうにそう呟いた。
「どうした?」
ドンドンと解体が進み、肉と化していく鹿をよそに、俺は聞いた。
「いえ、気のせいですかね。少し切れ味が落ちているような……」
「どれどれ」
リケが差し出したナイフを見てみる。このナイフは俺が作ったもので、特注品と同じだけの魔力が篭もっている。
なので、そうそう切れ味が落ちることはない。勿論、全く落ちないわけでもない。使い込めば多少傷むことはある。
だが、リケはさほど特注品仕様のナイフを使わない。切れすぎるので、加工に使うのはちょっと難しい、と言うこともあるらしい。
俺はチートで加減をしやすいので、木材の加工には良く使っている。使った後には手入れをしていて、特に切れ味が落ちたと感じることはない。
「あー、これは……」
もちろん、リケも手入れを怠ることはない。だが、確かに見てみると僅かばかり切れ味が落ちていることをチートが伝えてくれた。
「確かに落ちてるな」
原因もこれまたチートが教えてくれる。ほんの少しだけ魔力が抜けているようだ。
俺はそれをリケに伝えた。
「魔力が、ですか」
それを聞いたリケは考え込む。だが、ちょうどそのタイミングで解体が終わってしまい、肉を片付けていくため、その場ではうやむやになってしまった。
バタバタと一日を過ごした夜。夕食も終わり、片付けようかという頃、リケが切り出す。
内容は勿論、切れ味のことだ。
「魔力が抜けて、切れ味が少し落ちている気がするのよ」
「魔力が、ですか」
最初に反応したのはリディである。エルフの彼女は魔法や魔力に詳しい。それでだろう。
取りあえず、身に着けているナイフを皆出してテーブルに並べる。
ズラリと並んだナイフはそれぞれの表情をもって佇んでいた。かなり使い込まれているのはサーミャのだろう。
何かと使っているし、俺が一番初めに作ったやつだし。
小ぎれいに見えて酷使されたらしい跡が僅かに窺えるのがディアナのだ。逆に全体は酷使されているようでいて、刃の部分が綺麗なのはヘレンのものである。
いずれも刃そのものは使い込んだ割には綺麗で、見る人が見ればすぐに普通のものではないことが分かりそうだ。
だが、今見るべきはそこではない。
「これは……」
「間違いないようですね」
俺とリディは顔を見合わせて、頷いた。
俺もこの世界に来た当時なら分からなかった可能性があるが、ここへ来て一年を少し過ぎた俺の目には分かる。
分かるが、自分の成長を喜ぶわけにも行かない結果がそこにはあった。
ナイフはそれぞれ、少しずつ、ほんの僅かにだが最初に篭めたはずの魔力が失われているのだった。