「昨日確認したとおり、俺が作ったものの魔力が抜けていることは間違いない」
俺はズラッと並んだナイフと剣、刀を前にそう言った。
昨晩は結局、それを確認してすぐに床についた。長々と議論していられるような時間ではなかったし、衝撃的なことが起きたときは判断も鈍る。
動揺していてもそれに気がつきにくいからな。今は冷静に判断できる第三者はいないのだし。
本来ならば今日はいつもの作業を粛々と行うだけなのだが、欠点がどういうものかを把握せずに作業を続けるのはよろしくなかろうと言うことで、鍛冶場に集まってのミーティング中だ。
「問題はそれがどれくらいの期間で起きて、完全に抜けるとどういう影響があるのかだな」
「一般的なものはほとんど影響がないと思います。あれは元々魔力が入っていないも同然でしたし」
リケの言うとおり、一般モデルと俺が呼んでいるラインの製品にはあまり魔力が入っておらず、そもそもいつまでも使えるという類のものではない。
そのぶん魔力が抜けたとしても大きく問題にはならないだろう。使用する上で避けられない劣化に紛れてしまう程度の話だ。
リケ曰くはそれでも他所の製品よりもかなり耐久性が高いらしいのだが。
「うん。一般のはひとまず置いておけるとしても、一番の問題は……」
俺は目の前にある、二振りの剣を見つめた。鋼に挟み込まれたアポイタカラが静かに青く輝いている。
俺が打ったヘレンの剣だ。こういった特殊なものでも、ナイフと同じことが起きているとしたら……。
リディを見ると、彼女はそっと微笑んだ。
「アレは大丈夫だと思います。用途を考えれば、もしアレの魔力が抜けているようなら、とっくに連絡が来ているはずですし」
リディが言っているアレ、とは「エルフの宝剣」である。命を捧げることで、ため込んだ魔力を解放することができる、一種の魔力電池のようなものだ。
いざと言うときに使うものなので魔力が抜けはじめていたりすると、いざと言うときに思ったほど役に立たないだろうし、それは文字通りの死活問題になってくる。
だからこそ、リディが言うように異常があれば言ってくるだろうというのも分かるのだ。
「アレについては、この後カミロに手紙をやって一応確認して貰おう」
「分かりました。でも、あまり気に病まないでくださいね。何事もないと思いますし」
リディの言葉に、俺はそっと頷いた。
エルフの宝剣はミスリル製で、一般的な鋼とは異なるので、魔力が抜けていないことはあり得る……というか、その性質を見込んでの選定かも知れない。
そして、目の前のヘレンの剣はというと、
「これは抜けてないな」
「そうですね」
今度はリディが頷く。ヘレンの剣は鋼でアポイタカラを挟み込む構造なのだが、どうやら魔力は維持されているらしい。
「特殊な鉱物は大丈夫なのかも知れないな。鋼のほうも抜けてないのが分からないが……」
「親方のカタナはどうですか?」
「俺の〝薄氷〟も抜けてないみたいだ」
ヘレンの剣のように、薄く青く光る刀身を見て俺は言った。これも刀身はアポイタカラ製だ。
やはり、特殊な鉱物だと魔力が保持されるのかも知れない。
そういえば魔族のニルダはどうしているだろうな。彼女には刀を打ったことがある。一度手入れに来てくれれば説明できるのだが、生憎とカミロを含めても魔界には伝手がない。
「マリウス達の守り刀は抜けているかどうか分かるにはまだ早いか」
「そこまで時間は経ってないしね」
ディアナが頷いた。彼女の兄であるマリウスと、その奥さんには結婚祝いとして守り刀を渡した。まだ1年も経っていないので、魔力を確認できるかは微妙なところだ。
いずれ訪問した折に確認させて貰おう。
「よし、特注品は少しずつ確認を進めるとして、一般と高級をどうするか、だな」
俺は皆を見回してそう言った。さて、ここがエイゾウ工房の正念場だな。