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対策を練る

「それじゃあ頼んだぞ」


 俺はハヤテに手紙を託した。彼女は「キュイッ」と一声鳴くと、素早く羽ばたきカミロの店へ向かって飛んでいく。

 あれはあれで今後の俺たちについてを運んでいるのだ。そう考えると、ハヤテが思っているだろうよりも、かなり重要なのだが、娘に気負わせるのも本意ではないな。


「さあて、それじゃあ続きだ」


 俺が言うと、皆頷いた。続きと言っても、作業のではない。今後についての話し合いの続きだ。

 俺たちはゾロゾロと、鍛冶場に戻っていった。


「今後の対応としては、可能なら魔力が全く抜けないようにすること、その次は抜けにくい方式を考えることかな」

「ですね」

「でも、それって難しいんじゃないのか?」


 俺の言葉にリケが頷き、サーミャが疑問を出した。実は彼女もはじめ「鍛冶のことはわからない」と言っていたが、この工房の今後についてであること、こういう時に考える頭は一つでも多い方が良いことを説明すると、参加してくれた。

 ディアナやヘレン、アンネも似たような感じだったが、リディだけは少し違った。


 リディは魔法や魔力に詳しいので、今回のような事態では参加して貰わない選択肢はなかった。半ば強制ということになるが、ありがたいことにリディは乗り気になってくれたのだった。


 サーミャの疑問には、そのリディが答えてくれた。


「ミスリルなど『そもそも魔力を貯める性質』がある場合はいいのですが、普通の鋼でそういうものはエルフの村にもありませんでした」

「ってことはつまり」

「私が考えるに激ムズです」


 元々その傾向はあったのだが、リディもサーミャやヘレンとよく話すので、言葉遣いがかなり俗っぽい。

 エルフのイメージからはちょっと外れているのだが、ディアナやアンネが俗っぽい言葉を使うのとはまた違ったかわいらしさがあるなと、それどころではないのにも関わらず、そんなことを考えてしまう。


「ひとまずは魔力が抜けないような方法を考えてみるか。こっちは応用できれば妖精さんたちの役にも立つし」


 この〝黒の森〟には妖精さんたちが住んでいるのだが、彼女たちの中には、身体から魔力が抜けていく奇病に罹る者がまれにいるらしい。

 その時の治療には、魔宝石を使うのだが、これはしばらくすると崩壊してしまうのだ。


 今回の問題で、魔力が抜けない方法が確立されれば、それを魔宝石なり、あるいは可能そうなら妖精さんの身体に直接施せば、その病気については解決できる。


 そういう意味でも、今回は中々に大事な局面のように思う。


「何かアイデアはあるか?」


 俺は見回すが、皆一様に首を傾げている。


「そもそも、抜けるのはなぜなの?」

「ああ、そこからだよな」


 ディアナに問われて、俺は気がついた。そもそも抜ける理由を探る必要がある。

 簡単に言えば、留まっていないからなのだろうが、なぜ留まらないのか、と言うことだ。


「魔力は基本的に流れるものですからね。澱んだ魔力は別ですが。どんな人が何をしても抜けていくものなのかも知れませんよ」

「ふむ」


 そもそもがそういう性質だから、と言うことなのか。それならそれで、例えば揮発性のものの表面に食品用ラップを巻いてなるべく防ぐ、みたいなことができても良いんじゃなかろうか。

 だが、生憎チートもインストールも、それが出来るという知識を教えてはくれない。

 実際にあったとして、自分たちで思いつかないとダメなのだろう。中々にハードモードである。


 この世界にも有名な刀剣、それも魔剣と呼ばれるようなものはきっとあるだろう。その中に普通の鋼や鉄でできているものがあれば、一度見てみたいものだ。

 今すぐにそれをして参考にすることは出来ないが。


「よし、完全に抜けない手段は置いといて、まずはしばらくは維持出来るような方法を考えるか」


 思い付かないのであれば仕方がない。今後に向けてまず具体的な方針を固め、その上でタイムリミットが来るまで最善策を模索することにしよう。


 そして、俺たちの間に、再び思考の沈黙が訪れるのだった。

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