「そもそも魔力が抜けないのが良いとしても、1年ほどでこれだけしか抜けないのであれば、何かしらで継ぎ足せないものですかね……」
おとがいに指を当て、リディが言った。俺は彼女に尋ねる。
「水が減った瓶に水を足すみたいに?」
「ええ」
頷くリディ。彼女はそのまま言葉を続けた。
「『使う』場所以外に大きな魔力を篭めておいて、そちらから一定量だけ魔力が『使う』場所に流れるようにすれば……」
「実用上は減ってないのと同じになるな」
つまり、魔力タンクのような箇所を作っておき、そこからナイフなら刃のほうにジワジワと滲み出すように流していけば、減った分が補える。
そうしておけば、一般モデルなら魔力が抜けきるよりも前に、刃がダメになってくれるだろう。
「もしくはその魔力をより多く貯めているところから先に抜けるように細工しておくかだな」
「なるほど、その方法もありますね」
俺のアイデアに、リディが再び頷く。このアイデアはチートによるものでも、インストールによるものでもない。
前の世界での知識である。大きな船舶では、犠牲管と言ってわざと錆びやすくしてある管があり、他が錆びるのを防ぐ役目をしている。
それに似たように、先に魔力が抜けることで、他の場所から抜けていくのを防ぐようにすれば良いのではないかと思ったのだが、外れていなかったようだな。
「やっぱり、エイゾウって妙に物知りだよな」
「北方にいた頃は学者でもしてたのかしらね」
「あー、あるかも」
そんなサーミャとディアナの会話、それを聞いて「ありそう」と笑っているヘレンの笑い声は聞こえなかったことにして、俺は次の課題を口に出す。
「問題はどちらも『どうやればそれができるか』が分からんことだな……」
一箇所にだけ魔力を多く篭めることができそうなのは感覚的に分かる。だが、それが他の場所に流れるようにしたり、そこから先に抜けていくようにしたりといったことができるのかについては皆目見当がつかない。
やることが特殊すぎるのか、チートもインストールもそれができるかは教えてくれない。いざ始めればいつものように手助けしてくれるのかも知れないが。
「とりあえずやるしかないんじゃねえの」
頭の後ろに手をやっているサーミャが言った。それもそうだな。
「確かにサーミャの言うとおりだな。取りあえず、一箇所だけ魔力が多く篭もっているのを作ってみよう。それと同時に、普通、高級、特注の3つも作って観察してみないとな」
俺は立ち上がって続けた。
「鍛冶場に火を入れるぞ」
「ボクの出番かな!」
ドン、と胸を張るマリベル。待ってましたとばかりにヘレンが拍手をした。
あまり娘に頼るのはどうかと思うのだが、やる気を削ぐのもよろしくないので、張り切っている娘に任せることにした。
マリベルが気合いを入れると、火床に、そして炉に火が入る。俺は火床に送風の魔法を使って、風を調整する。
さて、今日の鍛冶仕事を始めるとしますか。