「まずは普通のから作るぞ」
俺はそう言って、火床の具合を見た。温度は十分だ。マリベルが火床と炉の温度を手配してくれているので、すぐに作業に取り掛かれる。
「リディ、魔力の様子を観察してくれ。リケは俺の作業を見ててくれ」
2人は頷く。最初は一般モデルだ。そう多くの魔力は篭めない。いつもと同じように作ればいい。
ただ、今回は記録が必要なので、一工程ずつ丁寧にやっていく。前の世界のようにセンサーをパソコンに繋いでログが取れればいいが、そういうわけにもいかないからな。
まず、皆が見ているところで魔力を僅かに篭めてナイフを打っていく。これまではチートに頼る部分も多く、あまり意識せずに作業していたが、篭める量をキッチリ意識して進めていく。
「綺麗に見えますね」
リディが呟く。リケはメモを取りながら作業を見つめている。
鋼を打ち、形を整えていく。刃の部分には少しだけ多く魔力を篭める。これが一般モデルの基準だ。
完成してすぐの魔力の様子をメモしてもらい、次は高級モデルの製作に移る。
「このくらいの魔力かな」
今度は一般モデルの倍くらいの魔力を篭める。いつもの感覚だが、こちらも今回は意識的に量を調整する。
「私もだいぶ見えるようになってきました」
「おっ、リディとの練習のおかげかな」
「ですね」
「いえいえ、リケさんの飲み込みが早いんですよ」
作業しながら会話を交わす。流石と言うべきか、魔力や作業の様子はリケが喋りながらも記録してくれている。
これができるのもなかなかの能力だな。ドワーフのしきたりで一度帰ることになっているはずだが、リケがそれをいつ言い出しても、俺は許可することしかできなそうだ。
最後は特注モデルだ。これは限界まで魔力を篭めての作業になる。
「おー」
後ろで作業を見ていたサーミャが感嘆の声を上げた。毎日作業をしていて、僅かでも魔力が見えるなら、余裕で分かるくらいの量だということだな。
これもリディが観察し、それをリケに伝えて、作業の様子と共にメモが取られた。
「全部できたな。これを観察していこう」
「定期的に確認して、どのくらいの速さで、どれくらいの量の魔力が抜けるか調べましょう」
リディの提案に皆頷いた。克明に分かるのは俺とリディ、次に分かるのがリケで、サーミャ達がそれに続く形だが、いずれ三本のナイフを並べて置き、魔力の様子を記録する。これから定期的に確認していくことになる。
長期になるかも知れないが、これは必要な作業だ。
その間の生産については、カミロの返事次第で相談が必要だろう。
「一段落したのなら、お昼にしましょうよ」
ディアナが声をかけてきた。外の様子を見ると、太陽の具合から鑑みて確かにもう昼すぎだ。作業に熱中していて時間が過ぎてしまったな。
ディアナもあまり根を詰めすぎないようにと声をかけてくれたのだろう。
俺はつとめて笑顔で言った。
「ようし、それじゃあ一旦昼飯だ」
皆で昼食を取り終えて片付けをしていると、「キュイッ」という声が聞こえる。
ハヤテが戻って来たのだ。おそらくはカミロからの返事を持って。
「よしよし、えらいぞ」
ハヤテの脚の筒には珍しく返事が入っていた。俺たちは家族全員で顔を寄せ合い、ごくり、と唾を飲み込んでそれを開いていくのだった。