「これで大丈夫かな」
工房にはちょっとした設備が出来上がっていた。
鋼を延ばして作った容器に温泉から持ってきた水を入れ、その上に置かれた網に試作品のナイフが並んでいる。
容器の下の炭は赤々と燃えて(ずっと加熱しているので火おこし以外でマリベルの手伝いはなしにした)、蒸気がナイフを通り抜けるように上がっていく。
「周囲から吸収させるアプローチを試してみよう」
俺が言うと、リケとリディが頷いた。
魔力を押しとどめる方法も考えてはいるが、朝露を集めるように、周囲から僅かな魔力を集めて吸収させる方法も有効かも知れない。
そのためにはまず、恐らく実績のある温泉の湯気で実験してみる、と言うわけだ。
「これで魔力が吸収されるようなら目がある。留めておくのが思ったよりうまくいかなくても、吸収で補完する仕組みにすれば長持ちするだろうし」
俺はリディを見た。
「周囲から魔力を吸収しても問題ないか?」
「魔法を扱う人がほんの僅か困るかも知れませんが、いずれ放出されるのであれば影響はほとんどないと思いますよ」
「ああ、そりゃそうか。抜ける分を補填するのが目的だもんな」
「そこまでキチンと制御できるかという問題はありますが、どのみち入りきらなければそれ以上の吸収もされないでしょうし、枯渇するなんてことはないと思います」
俺が頷くと、リディは満足そうに微笑む。大きく問題にならなそうであれば、あとは実験の結果を待たないとな。
その後は皆でいつもどおりの作業を進めて昼。昼食の時間だが、その前に
「さてさて、どうなってるかな」
温泉を継ぎ足し継ぎ足しして維持していた蒸気に晒され続けたナイフの様子を見る。
俺の隣では、リケとリディの2人も同じようにしてジッとナイフを見つめた。
「うーん、温泉の魔力でちょっと分かりにくいですね」
「確かに」
リディの言葉に俺は大きく頷く。湯気が魔力を含んでいるので、ナイフの魔力もそれに紛れてしまいそうだ。
「あっ、親方、あれは……」
「おっ」
リケがナイフの一部を指差した。相変わらず湯気の魔力で見えにくい部分があるが、そこには確かに魔力の煌めきが見えていた。
「よし、周りから吸収させること自体は可能っぽいな」
「一歩前進ですね!」
俺とリケは顔を見合わせ、見えて来た希望に顔をほころばせるのだった。