昼食を手早くすませて午後。
「さて、魔力を吸収させられることは分かったわけだが」
湯気で蒸している状態だったナイフを前に、俺は腕を組んだ。ナイフはどれもキラキラと輝いていて、本体の出来はそこそこまでで抑えてあるのに、入っている魔力は不相応に多いという状態になっている。
「やっぱり、この方法を常に使うわけにはいかんなぁ」
湯気に当てるということは、つまり常に水分に晒すことになる。鋼の部分に良くないのはもちろんだが、鞘や持ち手も湿ってしまうのは良くないだろう。
まあ、それ以前に大問題が一つある。それはサーミャが指摘してくれた。
「みんながみんな温泉持ってるわけじゃないだろ」
「それなんだよなぁ」
俺は腕を組んだまま、ガックリと肩を落とす。普通の温泉ならまだしも、〝黒の森〟で湧いているような、魔力をふんだんに含んだ水や湯となると、この世界中を探してもそうはない。
もしかすると魔界ならなんとかなるかも知れないが、我が工房の製品が出回るのは魔界以外が多い……はずである。
カミロのことなので、しれっと魔界にパイプが繋がっていても何らおかしくない。
ともあれ、もとよりこの方法でなんとかしようとは考えていなかったが、最後の手段としても厳しいのは間違いないので、他の方法が必須になってくる。
「何らかの形で魔力を吸収しやすい構造を作れればいいんだが……」
俺が首を捻っていると、リディが言った。
「温泉の湯気に含まれる魔力がナイフに吸収された。つまり、少しだけ魔力が集中するようにすれば、少しずつでも補充されるかもしれません」
「集中、か。それは良さそうだな」
魔力が集中するようにしておけば、それが補充される、というアイデアは良さそうだが、どんな形状がいいだろうか……。
「朝露をイメージしたらどうでしょう」
俺がうんうん唸っていると、リケが言った。
「朝露?」
「はい。朝露は小さな水のしずくが集まって出来るんですよね? 同じように小さな魔力を一つのところに集まるような形にして、集中させれば少しずつの魔力でもなんとかなりませんか?」
「ふむ……。いや、そうか。魔力を集める溝を彫ればもしかして……」
俺は早速、新たな試作品の作成に取り掛かった。刃の形状はそのままに、柄や鍔の部分に細かい、葉脈のような形をした溝を彫り込んでいく。
作業はチートの手助けを借りて、魔力が集まるよう、水の流れもイメージして作業をしていく。
「どうかな?」
俺は出来上がった1本のナイフをリディに見せてみる。
「確かに、魔力の流れが違うようには見えますね」
「でも、本当に効果があるかは時間をかけて観察しないとわからないわね」
ディアナが言った。その通りだ。すぐに結果が出るわけではない。しかし、これは確実に一歩前進だった。
「まずは試作品を増やしていこう。溝の形や深さを変えたものをいくつか作って、どれに効果があるか比べるしかないな」
俺はそう言って、再び作業に取り掛かった。 魔力が抜けるという問題は、完全には解決していない。
だが、少しだけ明かりが見えたような気がして、心なしか鎚が軽い気がした。