翌朝。納品するものに改良の余地はあるし、すべきことも沢山あるのは確かだが、ひとまずは決着をつけることができた。
ので、いつもであれば今日は作業をする日なのだが、休日ということにした。
このところ改良に集中していて休みらしい休みもとってなかったしな……。
昨日に引き続いてなので、1日半ほどの休みである。
俺は少しやりたいこともあるので、ピクニックとかではなく、めいめい好きなことをして過ごすことにした。
「うーん、色々目処がついたら、もうちょい長い休みをとるべきかな」
鍛冶場に入り、神棚に手を合わせた俺はそう独りごちる。
そもそもはのんびりと過ごしていきたいのである。作ったものに責任を持たなすぎるのはどうかと思うので、瑕疵の対応しないとだけれども。
前に半分は旅行のような感じで〝黒の森〟を抜けるルートを確認したことがある。ちょっとした息抜きにはなったが、旅行が目的ではなかったので、ちゃんと旅行を目的とした旅行も少しやってみたいものである。
だが、そうなると我が家で問題なのは魔力を必要とする面々――リディ、クルル、ハヤテ、マリベル――だ。彼女らは魔力がないと困ったことになる。
しばらくの間は魔力が無くてもなんとかなるし、クルルとハヤテはせいぜい食べる量が増えるだけなのだが、リディとマリベルは如何ともしがたい。
それに俺たちには一つの約束がある。
妖精族には突然魔力が抜けていくという原因不明の病があり、それを治療するには高濃度の魔力が必要なのだが、我が工房は、その「高濃度の魔力」の塊である魔宝石を生成できるのである。
なので、緊急時には魔宝石を提供することになっている。
つまり、妖精族の皆さんにとって我が家は救命センターというわけであり、あまり長く家を空けると手遅れになる妖精さんが出るかも知れない。
それでは魔宝石を渡しておけば、とは思うのだが、魔宝石は一定時間が過ぎると崩壊してしまい、使うことが出来なくなる。
要するに在庫できないので、必要であれば都度作る必要があるのだ。
逆に言えば、できた魔宝石を維持する方法があれば、妖精さんたちにはそれを渡しておくことができる。
そうすれば、何かあったときにしばらくの間、家を空けることも出来るし、妖精さんたちもいざというときに我が家に駆け込んでくる必要もない。
そして、家族全員で森を離れても影響が出にくくなる。
今回の魔力漏れ騒動で知ったことがある。
それは、温泉の湯気に鋼を晒すと魔力が補充されることだ。
「さて、どうなるかな」
俺は「魔力炉」と呼んでいる鋼の板を組み合わせて箱状にしたものに鎚を振り下ろす。
こうして魔力を篭める作業を繰り返すと、中の魔力の濃度が上がり、やがて魔宝石が生成されるのだ。
「よしよし、出来てるな」
しばらく鎚を振り下ろし続けた後、鋼の板で出来た箱を開けると、仄青く光る結晶がそこにあった。これが魔宝石だ。
俺はそれをそっと摘まみあげると、
「こっからは急がないとな!」
そのまま鍛冶場を飛び出すのだった。