確認したいことがあるので、都合がいい時に訪ねて欲しいとジゼルさんあてのメッセージを伝言に残しておく。
もちろん、カッコつきで悪いことではないと添えてある。
「よし、これでいいな」
俺は少しだけ新しくなった「いつもの作業」をしに、鍛冶場に戻る。すると、
「お、戻ってきたな。よぉーし、始めるか」
とサーミャが掛け声をかけて、作業が始まった。
新たな工程が増えて、1本あたりにかかる時間が増えたものの、数としては順調に進める。カミロの店に卸し始めてからもう1年以上になるのか。
カミロの販路がどこまで広がったのかは知らないが、無限に売れ続けるものでもないし、競合他社というものも数多あるだろう。
それを考えれば、下取りに目処がついたら、普通のものの生産数は絞らせてもらい、なにか他の……高級モデルと特注品の間のような、セミオーダー的なものに主軸を移すのもありかも知れない。
たとえば「はがねのつるぎ」はそれはそれであるとして、刃の長さを身体を測って適切な長さを決めたり、細かいデザインの注文を受けたりして、それを打つのだ。
ただ、これをやるにはサイズを測ったりするため、カミロの店に負担を強いるか、たまに俺たちが出向いてやるかになる。
出向いてといえば、普通モデルくらいなら魔力を篭めた板金を持参して、その場で作るのもありか? いや、火床の問題があるな。
結構な高温になるし、ガス炉みたいにコンパクトにできるわけでもないから無理か。
さておき、昼食も挟んで、この日の作業を終えて夕食時。結局今日ジゼルさんは来なかった。毎日来ているわけでもないし、急ぎというわけでもないので来たら話すとして、当面である。
「今日は作れなかったけど、明日は魔宝石を作って保存しておくか」
「いつ必要になるかわからないですしね」
俺が言うと、リケが頷いた。
「じゃあ、魔宝石を置いておく場所をしっかり作ろう。獣が魔宝石を持っていくとまずいから、鉄のカゴで囲むようにするか。あまり目が荒いと魔宝石が流れていってしまうので、細かめかな」
「あんまり細かいと水が通りにくくなりますね」
「そうだなぁ。そこはいい塩梅で作るよ」
ディアナが心配そうに言う。
「カゴごと持っていかないかしら。虎は大きいし、狼も持っていけそう」
「ああ、それもあるな。じゃあ鎖で繋いで……」
「妖精族は自分で使えるようにもしなきゃダメなんじゃないか?」
今度はヘレンの提案だ。武器じゃないときはあまり口を挟んでこなかったヘレンだが、こうやって意見を言ってくれるようになったんだなぁ。
そんな感慨を覚えながら、俺は返事をする。
「うん。かんぬきのようなものをつけておこう」
そういえば、カゴやザルに入れて湯につけておく、というものに違和感がないなと思ったが、魔宝石が卵ならまんま温泉卵だな……。
あれって生食できない卵でも作れるもんなんだろうか。ちょっと怖いので試そうとは思わないのだが、もし可能ならちょっと気になるところではある。
ちょっとした俺の懐かしさをよそに、俺達は、
「妖精さんが来るならカゴは可愛くしたほうがいいんじゃない?」
「かんぬきは軽いとダメですけど、妖精族ってどれくらいの重さなら平気なんでしょう」
などなど、ああでもないこうでもないと、カゴについて意見を出し合うのだった。