いつもどおり、皆より先に床について、ぐっすりと眠った翌朝。
水汲みを終えて朝食をとり、準備を済ませたら作業開始だ。
午前中は納品物を優先することにした。カゴ(と鎖)作りはチートの手助けがあればすぐにできそうだが、終わる時間を気にしつつ、場合によっては慌ててしまうよりは、決まった作業をこなして、多少後ろが伸びても平気なようにしたかったのだ。
皆は「いや、延びたら延びたで、その分午後の時間も使えばいいじゃない」と言ってくれるだろうが、そういうわけにもいかんよなぁ、と思うのは前の世界の癖が抜けていない証拠かな。
つつがなく午前の作業を終え、のんびりとした昼食を挟んで午後、俺はカゴ作りを開始した。
作業の動作そのものは午前やっていることと変わりない。鋼を熱し、鎚を振るう。チートの手助けで、カゴとして成立するくらいの太さの棒が次々と出来上がる。
以前にチェインメイルを作った時はもっと細い針金を作る必要があったので大変だったが、今回はアレより遙かに太くて問題ないので、その分は楽だ。
同じように鎖にするもの、閂というかちょっとした鍵というか、とにかくそれにするものも一緒に作った。
材料が一揃いしたら、細めの棒をキッチリ熱してくっつけてカゴと鎖を組み立てていく。
ここもチートに手助けして貰って、サクサクと形が出来ていく。
とは言え、作業量としてはそこそこあるので、時間はそれなりにかかっているのだが。
そして、もういくらかしたら日が沈み始めるだろう頃に、カゴが完成した。
これで一段落はしたが、まだ完成とは言えない。
俺はカゴの魔宝石を入れる部分の開け閉めや、閂の操作がスムーズにできるかを確認する。
「これでカゴは完了かな」
こうして、パッと見た感じ、閂型の鍵と鎖がついた虫かごである。
まぁ、用途的には似たようなもん……か?
さておき、俺は早速温泉の排水溝にカゴを設置した。中を湯が通り、流れを大きく妨げてしまうようなことは無さそうだ。
簡単に開けられもしなそうだし、鎖も排水溝の縁に固定してあるので、森の動物達が持って行こうとしてもできないだろう。
そういえば、外に道具を置いてあったり、畑があったりするが、それらが何らかの被害に遭ったことは今のところないな。
もしかすると、このあたりにある「濃い魔力」のせいかも知れないが。
「ようし、それじゃあ、仕上げといきますか」
俺は鍛冶場に戻り、魔宝石を作る。何度か作っていて、もう慣れたものである。
素早く作った魔宝石を慌ててカゴのところまで持ってきて、中に放り込む。
そのまま様子を見ると、いつもなら崩壊してしまう時間になっても、輝きは変わらずしっかりしている。魔力の減衰はなさそうだな。
「これで妖精族も少しは安心できそうだ」
今までは少し離れるときにも、妖精族の奇病についてどうするかを考えないとダメだったが、今度からはその心配が減る。
少なくとも一回はここにある魔宝石で事足りるからだ。
もちろん、それと分からないくらいジワジワと魔力が減っていき、気がつけば消えていた、なんて可能性も捨てきれないので、入浴の時にでも継続して確認していくことが必要だろうが。
「おっ、そうだ、2つ一緒に入れても大丈夫だったりしないかな」
俺はその思いつきを試すべく、橙色に染まっていく森の中を鍛冶場へと小走りに駆けていった。