慌てて鍛冶場に戻った俺は、ついさっきまで使っていた魔力炉の前に座る。
そいつを魔力を篭めながらガンガン叩いてやると、中に魔宝石が生成されるのである。
元は叩くと形が変わってしまうメギスチウムに魔力を篭めるために考案したものだったが、高濃度の魔力は固まる性質があるらしく、
「あれ、さっきのダメだったのか?」
魔力炉をガンガン叩いている俺に、サーミャが声をかけてくる。音が響いているので大声だ。
俺は振り返らず、そのままサーミャと同じくらいのデカい声で返す。
「いや、アレは大丈夫そうだけど、ちょっと試したくてな!」
「ふぅん」
サーミャはそれで興味を無くしたのか、炉(鋼を溶かしている方だ)の片付けに戻っていった。
そしてそれから程なくして魔力炉を開けると、さっき見たのと同じ形、同じ輝きの魔宝石が鎮座している。
「よし、これを……リディ!」
俺は魔宝石を摘まみあげると、リディを呼んだ。彼女はパタパタと駆け寄ってくる。
「すまんが、ちょっと実験に付き合って欲しい」
「片付けはあらかた済ませましたし、大丈夫ですよ」
リディは微笑んでから頷いてくれた。
「よし、それじゃあ急ぐか」
「はい」
俺とリディは頷きあうと、揃って鍛冶場を飛び出した。
温泉はうちからほど近い。渡り廊下で繋げられているくらいなので当たり前と言えば当たり前だが。
すぐにカゴを設置した場所まで辿り着くと、俺は手にした魔宝石をそこに追加した。
「リディにも確認して欲しいんだが、これで2つとも維持できるかどうか気になってな」
「なるほど。2つあれば随分と助かりますね」
「だろ?」
そう、俺が思い付いて確かめようとしているのは、「このカゴにいくつ貯めておけるか」である。
前に一度救ってから、今まで一度も来ていないということは、頻度的に罹患するのはごく稀なことなのだろうと思うし、感染性は強くなさそうなのも確認しているが、それは同時に複数人が罹患しないことを保証してくれるものでもない。
とりあえず2人ぶんもあれば、そのあまりに稀な状況にも対応できるとなれば、俺たちにも妖精さん達にもメリットがある。
基本的にはあって困るようなものでもないし、2つがいけたらちょっとずつ、周囲に影響しないギリギリの数を見つけたい。
そのあたりを考えて、複数入れたときにどうなるのかを専門家に詳しく見てもらうため、リディにも来てもらったのだが……。
「これは来てもらうまでもなかったかな。すまん」
「いえ、必要になった場合を考えたら、やはり私がいた方が良いと思いますし」
リディはそう言ってくれたが、魔宝石は2つ目を入れてから、両方ともの輝きが見るからに薄れている。
このまま消えてしまいそう、というほどではない。それに、どの程度魔宝石に魔力があれば有効なのかはわからないので、これでもいいっちゃ良いのかも知れないが、チートならぬ前の世界での経験が「これはまあ良くないね」と判断をしていた。
「狭い範囲に複数の魔宝石があるとよくないとかなのかな?」
「そのあたりも追々調べていったほうが良いかも知れませんね」
「だなあ。とりあえず今入れたのは回収してしまうか」
俺は湯の流れに手を入れて、今しがた入れたばかりの魔宝石を取り出す。
すると、残った1つの輝きが元に戻った。
「どういう理屈かはわからんが、やっぱり影響はしてたか」
輝きを取り戻した魔宝石とは対照的に、俺の手の中にあるほうの魔宝石はドンドン輝きを減じて、すぐに崩壊し文字通りに雲散霧消する。
「よし、色々気になるが失敗ってことで飯だ飯」
「ええ、そうですね」
俺が前の世界で習得した「起きたものは仕方ないのでさっさと切り替える」スキルを発揮すると、リディはクスリと笑って、2人で家へと戻っていった。