その日は「休日」で、のんびりと……とは言っても以前に行った〝黒の森〟探索の復習も少しだけ兼ねた感じで、確認したルートに大きな変化がないかを見て回りつつのハイキングのようなものを家族でしていた。
昼飯を途中の川辺で摂り、再び歩き出してそろそろ戻り始めるかという頃、最初にその変化に気づいたのは勿論というか、うちでは魔力の専門家のリディだ。
「何か……おかしいですね……」
「? 樹の様子はおかしくないけどな」
サーミャが言って辺りを見回す。リディが言っていることを理解したのか、ルーシーも頭を上げて匂いを嗅いでいる。
魔力についてはリディの次に俺が感じ取れるはずだが、今は俺の目にも特に大きな変化はないように見えた。
それが鍛治に関係ないからという可能性も結構あるが。
ともあれ、俺で分からないなら恐らくは他の家族でも分からなそうだ。
いや、もう1人分かりそうなのがいる。
「マリベルはどうだ?」
「んーー」
マリベルは宙に浮いたまま、ぐるりと辺りを一周見回した。
すると、彼女はパンと両手を打ち合わせる。
「あー! わかった」
「おっ」
ヘレンが感心した声をあげる。喜色満面の笑みでマリベルが続けた。
「魔力が濃いんだ!」
「ああ、なるほど、そうですね。ほんの僅かですが」
リディがやや憂いを帯びた笑みを浮かべる。魔力が濃いのが分からなかったことより、起きている事態そのものを憂えているのだろう。
「さすがに我が家の周りほどではないですが」
「だね」
マリベルが大きく頷く。
「今いるこのあたりはもっと魔力が薄いはずなんですよ。と言っても、街や都と比べれば随分と濃いのですが」
リディは再び辺りをぐるりと見回した。
「家の周りは濃すぎるからか、さほど増えている印象もなかったですが、このあたりでこの量は……」
「広いしね」
「そうですね」
2人の会話を聞いて、俺はポンと手を打つ。
「それだけ広範囲で魔力が濃くなっている……つまり、それだけ魔力が増えてるということか」
「ええ」
リディは真剣な表情で頷いた。
ごくごく狭い範囲で魔力が濃くなるなら、自然な増減の範疇内なのだろうが、一部であっても広い区域で魔力が濃くなっているなら、かなり大量の魔力が増加していることになる。
「もしかして、こないだのリディの不調もそれが?」
「かも知れません」
例えば魔力が噴出しているところにリディが居合わせてしまい、魔力を身体に取り込んでいるリディの体調が悪くなった可能性は大いにある。
娘達も居合わせたはずだが、彼女たちはドラゴンだったり、魔物だったり、精霊だったりするので影響が少なかったのだろう。
「リュイサさんが出てこないのが気になるな……」
この〝黒の森の主〟である樹木精霊のリュイサさん。この状態であれば、すぐにでも彼女から解決して欲しいと依頼が来てもおかしくないのだが。
「とりあえず、今日のところはすぐに帰って、伝言板でリュイサさんに聞いてみるか」
俺が皆を見回して言うと、全員が――娘達も――頷いた。