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にじり寄る異変

 家に戻り、リュイサさんへのメッセージ——と言っても〝黒の森〟の状態について聞きたいことがある、くらいのものだが——を伝言板に残して少しの日にちが経ったが、リュイサさんからのコンタクトはない。

 その合間に妖精族の長であるジゼルさんが訪ねてきてくれた。もちろん、伝言板のリュイサさんへのメッセージを見てのことである。


 俺達家族はテラスのテーブルに集まり、ジゼルさんの話を聞いていた。


「ああ、それじゃあ皆さんもお気づきに?」

「ええ」


 井戸の底の方に降ろして冷やしておいた茶を一口(妖精族なのでとんでもなく少量である)飲んで、ジゼルさんは頷く。


「最近は森の様子がおかしいなと。それでも特に澱んだ魔力が増えたりしている様子もなかったので、我々もリュイサ様に確認しようとしてたんですよ」

「してた?」

「ええ」


 ジゼルさんが頷いた。


「皆さんには教えてさしあげられないのですが、我々からリュイサ様に連絡を取る方法がありまして。でも、それを使ってもお返事がなく」

「つまり、今は音信不通ってことですか」

「そうなりますね。それで皆さんが何かご存知でないかと伺ったところ……」

「伝言板にメッセージがあったと」


 再び頷くジゼルさん。


「リュイサさんが来ない、というより来られない理由があるのかしら」


 おとがいに手を当てて考え込むディアナ。


「そう考えるのが自然でしょうね」


 リディがそれを引き取り、サーミャが眉を顰める。


「となると、ちょっと厄介そうだな」

「〝黒の森の長〟が出張って来られない事態、ってことですものね」


 うんうんと頷くアンネ。


「大丈夫なんですかねえ」

「あんまり良い状況には思えねえよな」


 心配そうにリケが言って、ヘレンが腕を組む。娘達はあまり話の内容が分からないようで、互いに鼻を擦りつけたりしている。


「そうなんですよ。魔力が増えてることも見逃していいわけではないですが、リュイサ様の反応が無いことのほうが気がかりです」


 頬に手を当てて憂うジゼルさん。魔力が増えていること自体は自然な増減の範疇だと言われれば、それで納得できる、というかするしかないのだが、それも〝黒の森の主〟の言葉があればこそだし、その主に反応がないというのは尋常ではない。


 妖精族の皆さんが見回ってくれているからまだいいが、現時点ではこの広大な〝黒の森〟は本来の管理者不在という状況で、これはヘレンが言うとおり、良い状況ではない。


「いや、待てよ」


 俺はポンと手を打った。思っているより事態は深刻かも知れないことに思い至ったのだ。


「リュイサさんって〝大地の竜〟の一部ですよね」

「そうですね」


 言ってジゼルさんが小首を傾げる。


「そのリュイサさんが音信不通ということは、〝大地の竜〟に何か起きているのでは?」


 俺がそう言うと、ジゼルさんの目が大きく大きく見開かれたのだった。

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