「リュイサさん自身になにかあったか、〝大地の竜〟に起きていることの対応をしているか。どちらもリュイサさんが出てこられない理由としては可能性が高いかなと」
「言われてみれば、そうですね」
「先ほど仰ってた方法以外に、リュイサさんを呼び出す方法ってないんですか?」
ジゼルさんは首を横に振る。
「それで連絡を取れなかったことがないので、他にはありません」
「普段は妖精族のところを訪ねてきたリュイサさんと会話する感じですか?」
「そうですね。『外』の方々は〝黒の森〟は日々危険なことが起きていると思っているようですが、皆さんご存知のとおり、そんなことはめったにないので、ちょっとしたことを話すくらいなんですよね」
「ふむ」
この森に住んでいる獣たちが鹿も含めてなかなかに危険なのは確かだし、食物連鎖があるのも事実だが、他の地域と比べてそれが特に活発であったりすることはない。
ない、と言うよりも俺が見てきた範囲ではむしろ穏やかとすら言える。それに、例えば獣人族が滅びかけたとか、そういう話も聞いたことがない。
つまり、それなりの強さか能力があればむしろ「外」よりも平穏に暮らせるのがこの森で、であれば、リュイサさんに伝えることが「来たときで良いか」となるのも当然だと言えるだろう。
「しかし、〝大地の竜〟に何かあると言っても……」
「今は眠っているんでしたよね」
ジゼルさんの話に相槌を打ったのはリディだ。彼女の言うとおり、この世界は眠りについた〝大地の竜〟の上にできている。
この〝黒の森〟はその中でもかなり縁の深い場所にあり、それで魔力が他の地域よりも濃い、というのが俺が受けた説明だ。
「はい。勿論立ったまま寝る、などという、うちの里にもいる一部の者みたいな器用な真似をしているわけではありません」
「寝返りを打ったりしないのか?」
そうジゼルさんに聞いたのはサーミャだ。彼女の寝相は良くはないが悪くもない。
ごくごく一般的な範囲で寝返りを打ち、その際に多少手足の行き場がやんちゃではあるが。
それはともかく、眠る身体の上にできているとされるのであれば、寝返りを打てば世界が壊滅状態になることは間違いない。
「寝返りを打つ、とは聞いたことはないですね。時折、少しだけ身じろぎをすることはありますが」
「……もしかして、地揺れってそれ?」
ディアナが怪訝そうな顔をする。この世界でも地震がある。ただ、回数は少ないらしい。前の世界における日本のように、北方の地震が多いのかは知らないが。
今度、品をチェックして返すとき、カレンに聞いてみようかな。
「はい。大半はそうですね」
ジゼルさんは頷いた。
「とにかく、ただ寝てるだけの状態から何かが起きるのは考えにくいな」
俺が言うと、その場にいる全員が頷く。
「病にかかったとかはあるかも知れないけど……それなら今までに起こっていてもおかしくないわね」
アンネが言って、チラッとジゼルさんを見ると、彼女は首を横に振る。今まで〝大地の竜〟が寝ている最中に風邪をひいたとか、そういういことはなさそうだ。
「でもよ、そうなったら、もう1つしか残ってないんじゃないのか?」
そう言ったヘレンに視線が集まる。一瞬身を縮こまらせたヘレンだったが、すぐに話を続けた。
「寝てるとこから何かあるとしたら、そりゃもう後は『起きる』だけだろ」
「ああ、確かに」
どこかのんびりとしたリケの声。しかし、ジゼルさんは真剣な表情でジッと考え込むのだった。