「もしかしてですけど、リディさんが体調を崩されたことは?」
「え? ええ、ありますけど……」
ジゼルさんの質問に、リディが答える。
「それも今回のことが影響しているかもしれません」
少し前にリディが倒れたのは、〝大地の竜〟が目覚めかけていることが影響しているかも、と思ったが
「今は平気なんですよね?」
「ええ。特に異常はありません」
「ちょっと失礼」
ジゼルさんはそう言って、ふよふよと空中に浮かびながら、リディの頭の上から足先までをじっくりと見ていく。
その間、リディは居心地悪そうにじっとしていた。
「確かにお体に問題はなさそうですね。ご自身で見るのは難しそうですから、失礼ながら見せていただきましたが」
「ありがとうございます」
リディが頭を下げる。俺は少し食いつき気味にジゼルさんに聞いた。
「ジゼルさん、もしかしてエルフの身体の調子がわかるんですか?」
きょとんとしたジゼルさんは頷いた。
「え、ええ。それがエーテル……魔力によるものであれば、ですが。人間族でもかかるような病の場合もある程度は分かりますけど、熱があるから病だろうなとかなので」
「もしリディの身体に何かあったら、ジゼルさんにも見てもらうようにすることは可能ですか?」
うっかりしていたが、妖精族が魔力に関することに詳しくないはずがない。
そもそも、うちが妖精族と知り合ったのは、妖精族には魔力が抜けていく病があるからで、であれば、その前の状態や、よく似た症状などの知見も持っているはずだ。
随分と慌ててしまっていたことに、今更ながら気づく。
「もちろん。お急ぎであればリュイサ様経由でも……今はそれも難しそうですが、解決すればいつでも」
「ありがとうございます!」
「いえ、同じ〝森の仲間〟ですからね」
そう言ってニッコリと微笑むジゼルさん。しかし、その顔もすぐに引き締められる。
「今リディさんに問題はないとしても、リュイサ様と連絡が取れず、〝大地の竜〟が目覚めるかも知れない事態をどうすれば……」
「緊急時にはこうしろ、みたいなことを聞いていたりは?」
もし、緊急時の対応を〝黒の森〟の整備を任されている妖精族の皆さんが知らないとなると、リュイサさんにとっても、今の事態は想定外ということになる。
〝大地の竜〟がいつかは目覚めるが、それはもっともっと先の話で、このタイミングで目覚めるかも、というのは分かっていなかったのだとすれば、教えていなくても不思議ではない。
ジゼルさんはしばらく考え込んでいたが、やがて、何かを掘り当てたような顔になって言った
「かなり昔、そう、皆さんが生まれるよりも前くらいに一度、『もし、森のことで困ったことがあったら、ここにおいで』と言われた場所があります」
「それは……?」
ジゼルさんの顔に逡巡の色が浮かぶ。俺達にそれを教えていいかどうか、迷っているのだろう。
意を決したらしいジゼルさんが、俺の目を真っ直ぐ見据えて言った。
「〝黒の守り人〟たる皆さんには教えたほうが良いかも知れません。この世界の真ん中、とリュイサ様が仰っていたその場所を」