「世界の真ん中、ですか」
リディが少し身を乗り出してジゼルさんに迫る。リディはエルフだから……というよりは、個人的な興味がだいぶ勝っているように見えた。
自分の身体にも影響する話だと思うのだが、興味は隠しきれないらしい。
「ええ。皆さんこの世界が〝大地の竜〟の上に出来ていることも、それでこの〝黒の森〟の魔力が他の地域より濃いこともご存じかと思いますが」
ジゼルさんはそこまで言って一度口を閉じ、皆の顔を見回した。誰かの呑み込む唾の音が聞こえたような気がする。
「この森は、〝大地の竜〟の身体の中でも心臓と頭に近い場所にあるんです」
「それで魔力が濃い、と?」
「ええ」
俺が言うと、ジゼルさんは頷く。
「でも、心臓と頭ってどうやってだ?」
サーミャが何の気なしに聞く。ジゼルさんはニッコリと微笑んだ。
「ドラゴンには違いないので、首が長いんですよ」
「ああ!」
サーミャがぽんと手を打って、クルルのほうを見た。クルルは小首を傾げている。
確かにクルルが首を折りたたむように寝転がれば、頭と心臓が近づくか。
あるいは猫のようにくるりと丸まることが出来れば首が多少短かろうとも心臓辺りと頭をほぼ同じような位置にすることは可能だな。
「そういう特殊な条件だからこそ魔力が濃くて――」
「――〝世界の真ん中〟である、と」
ディアナが言って、アンネが引き取る。
ジゼルさんが頷いて続けた。
「はい。その中でも〝大地の竜〟に近い場所。そこが〝真ん中〟です」
おとがいに手を当て、ヘレンが言う。
「確証はなくても、そこに行ってみるしかない、か」
「かと思います」
再び頷くジゼルさん。俺たちは顔を見合わせて、頷き合う。
俺はジゼルさんに言った。
「そこに向かうまでの猶予はどれくらいあります?」
「そうですね……今までなかったことですから、明日にも事態が急変しないとはお約束出来ません。ただ、その可能性は低いように思います」
「分かりました」
そこまで聞いてから、俺は皆に向き直る。
「聞いての通りだ。ジゼルさんだけでは何かあったときに困るだろう。そこで、ジゼルさんが〝世界の真ん中〟に行くときについていこうと思う。俺たちも住んでる場所の話しだしな」
「もちろん、良いに決まってるだろ」
いい顔でサーミャがガッツポーズをする。ジゼルさんは驚いた顔をしていたが、すぐに、
「よろしくお願いします!!」
そう言って頭を下げてくれ、俺たちは「自分たちにも利のあることだから」と、すぐにその頭を上げて貰った。
「で、次の納品までにはどれくらいだっけ?」
「ちょっと日にちはありますけど、ちょっと頑張れば数は十分そうですよ」
リケが指を折りながら教えてくれる。
「よし、それじゃあ、少し前倒しで納品することにしよう。で、〝世界の真ん中〟の話まではしないが、〝黒の森〟の様子がおかしいので調査をする、ということはカミロとマリウスに伝えておこう。それで次回の納品は一旦飛ばして貰って、4週間後に納品とさせてもらうか」
俺がそう言うと、家族全員(もちろん、娘達も)から了解の返事があった。
「それじゃ、なるべく作業と同時進行で準備は進めますが、事態が逼迫したらすぐに言いに来てください。その場合は緊急で対応しますので」
「分かりました」
ジゼルさんは頷き、この場はお開きということになった。
さあ、ちょっと忙しくなるぞ。俺は心の中でだけ、腕まくりをするのだった。