俺達がジゼルさんから聞いた〝世界の真ん中〟は洞窟である、とのことだった。
ジゼルさんも妖精族数名で場所の確認に行っただけで、内部の確認まではしてないらしい。唐突に襲われた場合にひとたまりもなかったり、迷いやすいことなどもあって、基本的に妖精族で洞窟に立ち入ることはしないのだとか。
そう言えば、トロルが現れたときも依頼に来たのはリュイサさんが直接だったので、感知も難しいということなのだろう。まあ、妖精族の直接の上司(?)
今回、俺達がついていかない場合は、決死の覚悟で行くつもりだったと言うから、行くことを申し出て良かったな。
ジゼルさんと別れていくらかの日にちが過ぎた。いつも通りに納品物の製作をしつつ、合間をみて保存食の用意や、持って行く武器の選定なども進めていく。
その日もいつもの通り夕方よりも少し前、後の片付けは自分たちでやるから、先に準備をしておいてくれと皆に言われた俺とヘレンは、倉庫で2人、随分と量も数も増えた食料や薬草を前に話し合う。
俺は塊の干し肉――消費もしているので、そこそこ新しいもの――を手に、ヘレンに聞いてみた。
「前の時はどんくらい準備したっけ」
「すぐに終わるはずだからって、大して用意しなかったな」
「今回はどれくらい必要かな」
「規模が分からないからなぁ」
そこまで言って、ヘレンは腕を組んでから、続けた。
「それなりの量を用意して、どこまでいけるかをはかるのが良いだろうな」
「今回は調査も兼ねてになりそうだから、か」
「そうだな」
「だとすると、地図を描くためのものもいるな。これは鍛冶場のを使えば良いか」
話していると、鍛冶場の片付けを終えた皆も合流した。
「ディアナ、全員分の食料と水を持たせたとして、荷車なしだとクルルはどれくらい持てる?」
「そうね……」
俺が聞くと、ディアナはぐるりと皆を見回した。
「たっぷりなら2日、切り詰めるなら4日ってとこかしら」
「ふむ」
めいめいが自分でも持つとして、1~2日余計に活動するのが限界かな。
「薬草も持っていったほうが良いな」
「そうですね」
リディが強く頷く。棚を見てみると、コツコツと貯蔵していった薬草が所狭しと積み上げられている。
食料とは違い、こちらはほとんど減っていない。ごくたまにちょっとした怪我や、ごくごく軽い火傷をするくらいだからな。
今回も皆の実力を考えれば、そこまで大量に持っていく必要はないだろうが、万が一を考えれば持っていく量をケチることもできない。
俺と家族は、あれがいる、これはどうだ、流石にそれは不要じゃないか? と熱心に準備について話し合った。
更に数日が経ち、カミロのところへ納品に向かい、そこで詳細はボカして納品が遅れることを伝えた。
詳細については知りたそうだったが、終わったらちゃんと話す、と言うことで納得して貰った。
そんな悠長なことを言ってられなくなったら、その時はハヤテに頼むしかないな。
そして、準備が出来たことをジゼルさんに向けて伝言板に書いた。これでジゼルさんが読めば、いよいよ出発ということになる。
「〝世界の真ん中〟か……」
まだ見ぬそこへ向かう。その期待と不安に鼓動がいささか早めの鐘を打つのだった。