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いざ、〝世界の真ん中〟へ

 伝言板に準備が出来たことを記して、そう時間が経たないうちに、ジゼルさんはうちに来た。

 早速、翌日の打ち合わせ……と言っても、翌朝に早速出発しよう、くらいものなので、すぐに終わった。


 朝、持っていくぶんがあるので、その分の水汲みをしに湖へ行き、出かける前の飯をしっかりと食べたあとは、出かける準備だ。

 クルルに幾ばくかの荷物を持って貰い、自分たちで必要な分と装備を持って準備を整えた俺たちは、まだ朝の光が残る中、


「よし、それじゃあ出発だ」

『おー!』


 気合いを入れて、ジゼルさんを先導に出発した。

 先導するジゼルさんのすぐ後ろを、クルルを先頭に家族が続く。鬱蒼とした木々の間を縫うようにして進むその道は、家族の誰にも馴染みがないようだった。


「……こんな道あったかな」


 ぼそりとサーミャが呟くと、ジゼルさんがふわりと振り返って答えた。


「この辺りは普段は見えにくいようになっているんです。近づいても意識に引っかからないよう、魔法がかかっています」

「へえ」


 サーミャは感心したように頷いて、辺りを見回した。

 彼女が気づかないレベルだと、なかなか強力な魔法じゃないかと思うし、それならリディが気づきそうなものだが……。

 そう思ってリディのほうを振り返ると、首を小さく横に振っている。つまり、魔法がかかっていること自体を察知させないようにもなっている、ということだ。

 かなり高度な魔法なんだろうな。


 まだ昼にはかなり早いかな、といった頃、木々の間が少し開け、岩肌が露出した斜面が現れた。斜面の一角、苔に覆われた岩の裂け目が、まるで獣の口のようにぽっかりと空いていた。


「……ここですか?」


 思わず聞いてしまった。ジゼルさんは頷く。


「はい。これが〝世界の真ん中〟への入り口です」


 しかし――


「せまっ!」


 サーミャが素で叫んだ。確かに狭い。高さはクルルが荷物込みでなんとか入り口を通れそうだが、幅がそのクルルでギリギリに見える大きさだ。


「ほんとにここが“真ん中”なのか……?」


とヘレンがぼそりと呟くが、ジゼルさんは笑って、


「入ってしまえば広いですよ。外から見えないよう、わざとこうしてあるんです」

「なるほど……じゃあ、俺たちがこうして見えているのも、ジゼルさんが案内してるからですか?」

「ええ。私が許可を持っているので、今は皆さんの意識にも〝ここ〟が入っている状態なんです」


 そう言われて、俺はジゼルさんのすごさを改めて思い知る。妖精族の長は伊達じゃない。


「じゃあ、行こうか。クルル、入れそうか?」

「クルルルル!」


 クルルは嬉しそうに尻尾を振って、体をぎゅっとすぼめて先頭で中に入っていく。 

 その後に皆が続いた。俺も身体を縮めながら、冷たい岩の中へと足を踏み入れる。


 その狭い入り口を抜けると、


「うわ……」

「これは……」


 思わず全員が声を漏らした。そこには、入り口からは予想できないほどの空間が広がっていた。天井は高く、見上げても暗くて届かない。湿り気はあるが、どこか神聖な静けさが満ちている。


 洞窟の内部には光源がないはずなのに、壁面のそこかしこに淡い光を放つキノコかコケの様なものが生えており、全体がぼんやりと照らされていた。


「こんな場所が……」

「すごい……!」


 ディアナとリディがそれぞれ小声で感嘆を漏らす。サーミャは弓を握り直し、用心深く辺りを見回していたが、少し気を緩めて「悪くねえな」と呟いた。


「ここは〝大地の竜〟に近づいているはずですからね。なので、なるべく近づけないようにしているんですよ」


 ジゼルさんの言葉に、俺たちは納得しながら頷いた。

 内部は広く、しかし無数の枝道があり、どこを進むべきかは判断が必要そうだ。クルルとルーシーは鼻をひくつかせ、何かを感じ取ろうとしている。


「さて……じゃあ、進んで行こうか」


 俺がそう言ったところで、皆の顔に一瞬、緊張が走った。

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