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〝竜に巣くうもの〟との対峙

 記録を取りつつ、「ヤバそう」と思う方へを歩みを進めていく。皮膚を刺すような感覚はますます強くなっていく。

 魔力によるものだろう、肌に何かが直接触れるかのように強くなっていた。

 俺が魔力だと判断したのは、リディもジゼルさんも何も言わないが、顔には明らかな緊張の色が窺えるからだ。

 俺たちは、声を潜め、足音を殺しながら洞窟の奥へと進んだ。


 しばらく行くと、前方の通路がぽっかりと開けた空間へと続いていた。マリベルの放つ光がその広間を淡く照らし出す。


「ここ……」


 俺の口から自然と言葉がこぼれる。


 そこは、まるで誰かが意図して削ったかのように円形に近い空間で、天井は高く、周囲の壁には不自然な筋が無数に走っていた。

 それは、まるで巨大な何かが体を擦りつけながら這い回った痕跡のようだった。


「……ここが、〝あいつ〟の住処か?」


 俺が呟いた直後、ずるりと湿った布を引きずるような音がして、俺たちは身体ごとそちらへ向く。


「あそこ、動いてる!」


 アンネが叫ぶ。その瞬間、地鳴りのような音とともに、岩陰からヌルリと〝そいつ〟が姿を現した。


 巨大な、ミミズのような形状――いわゆるワームというやつだ――だが、明らかにただの生き物ではない。

 表面は半透明に脈動しており、内部に流れる魔力だろう、煌めく何かが「見えて」いる。まるで〝生きた魔力〟のような、異様な存在だった。


 その異容に誰かが息を呑み、それを合図にしたかのように、ヘレンが短剣を両方抜き、サーミャは即座に弓に矢をつがえる。

 俺も腰の〝薄氷〟に手をかけて、鞘を払った。

 こいつは見るからに魔物だが、ただの魔物ではない。これは、〝大地の竜〟に寄生しているらしき〝寄生虫〟だ。


(リディが倒れたのも……〝大地の竜〟が目覚めそうになってるのも、こいつのせいか)


 俺の頭を怒りが支配しようとするが、俺は頭を振ってそれを振り払った。


「みんな、構えろ!」


 俺の号令と同時に、ワームが咆哮のような唸りをあげてこちらへ向かってくる。その動きは信じられないほど速かった。


「リケ、皆と後ろへ!」

「わかりました!」


 リケはクルルやルーシー、ハヤテと後衛に下がった。ルーシーは下がりながらも低く唸りながら、合図があればいつでも飛びかかれるような態勢を取っている。


「アンネとディアナは側面へ回ってくれ!」

「わかった!」


 アンネとディアナが移動する間、サーミャの矢が続けざまに放たれ、ワームの体表に当たるが、どれも突き刺さるには至らない。

 だが、気を逸らせるには十分だった。ワームの速度が少し落ち、俺とヘレンはその隙を見逃さず、一気に間合いを詰める。


「行くぞっ……!」


 俺とヘレンの斬撃が、ワームの頭部(らしき箇所)に向かって走った。

 だが、次の瞬間、ワームの体表が波打つように変形し、〝薄氷〟やアンネの剣を呑み込むような動きを見せた。

 その動きを見て、俺たちは咄嗟に武器を引いた。刃を通じて触れた感触は、生きているというよりも、どこか「濁った液体に沈んだ膜」のような、奇妙に抵抗のあるものだった。


「……斬れねえな」


 ヘレンが短く呻く。その言葉が何より状況を的確に物語っていた。ワームの表皮は、見た目以上に柔軟で、なおかつ、内部の魔力に反応してか、攻撃を逸らすように「滑る」。


「どうする、これ。斬撃が通らねえぞ」


 ヘレンが苦々しく続けた。

 俺は奥歯を噛み、周囲を見渡す。ワームはなおもこちらを伺うように動きを止めず、壁際へと身体を滑らせていった。

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