咆哮としか言えない声が空間全体を震わせる。巨大なワームが、再び俺たちに迫ってくる。
なかなか攻撃が通らない事実が、全員の中に重く残っていた。だが、それでもここで退くわけにはいかない。
ここでヤツと出くわしたのは千載一遇のチャンスだ。ここで逃せば、どこまで広いか分からない〝世界の真ん中〟を、ヤツを探して彷徨わなければならないかも知れない。
「全員、冷静にな! あいつは確かに硬い。だが〝止まる〟箇所がある!」
俺の言葉に、皆の目に緊張と理解が宿る。
「身体をくねらせるときだ、一瞬だが……」
「固くなるんだろ?」
ヘレンが俺の言葉を引き継ぎ、低く笑った。
「面白ぇ……狙いがいがあるってことだな」
ワームが、天井すれすれまで身体を持ち上げるようにして威圧してくる。見上げる高さに、リケが思わず息を呑む。
「リディ! リケたちを前に出すな!」
「はい!」
リディが後衛を守るように立ち、ジッとワームを見ている。魔力の流れを見極めようとしているらしい。
彼女の目が、確信を持ったように細められ、
「今です、エイゾウさん!」
「行くぞ、ヘレン!」
俺とヘレンは二人で左右から飛び込む。一瞬、体が波打ったかと思うと、腹部の一点がピクリと硬直する。
「そこだッ!」
俺の刀〝薄氷〟と、ヘレンの双剣がほぼ同時に閃き、その一点を斬り裂いた。
ズン、と低い衝撃が手に返ってくる。硬い感触があった。斬れたかどうかは定かではない。だが、確実に「響いた」。
ワームの体がくねり、唸るような音を上げる。
「効いてるぞ!」
サーミャの矢が、今度は同じ場所を狙って放たれる。矢は、跳ね返されたが、ワームの動きが一瞬滞った。
「もう一度行く! ディアナ、アンネ、援護頼む!」
「任せて!」
「やってやるわ!」
左右から二人が踏み込み、それぞれの剣を振るう。斬撃は「固い」ところには当たらず、ワームの動きを止めるには至らないが、その意識を分散させるのには十分だ。
その間、俺とヘレンが再び接近し、あの「硬直の瞬間」を狙う。
「もう一度……!」
しかし今度は、ワームが素早く体をくねらせ、空間全体を揺るがすような力で反撃に出た。
尻尾が空気を裂き、石柱を粉砕しながら迫る。
「下がれ!」
俺たちは跳び退き、破片が飛び交う中、再び距離を取る。
「マリベル! 光を!」
俺に言われたマリベルが空中で手を掲げると、光が強まった。広間全体が明るくなり、ワームの体表の動きがよく見えるようになる。
「次、私が合図を出します!」
リディが声を張る。
「魔力の流れが乱れると、その直後に硬直が来るんです!」
その言葉に、全員がリディの言葉に集中する。
ワームの体が一際大きく蠢いた瞬間、リディが叫んだ。
「今です!」
ディアナとアンネが一斉に踏み込み、体の左右から斬撃を浴びせる。その一瞬、硬直が――
「ヘレン!」
「わかってる!」
ヘレンの短剣が滑り込み、俺の〝薄氷〟がすぐ後を追う。
鋭い刃が、今度は明確に「切り裂いた」。
ギィイイイイィッ!
耳をつんざくような音が響く。ワームがのたうち回り、体液とも魔力ともつかない光の波をまき散らす。
「やったか……!?」
そのままの勢いで追撃に移ろうとした瞬間、ワームが地面に身体を打ちつけ、周囲に土砂と魔力の波動が広がった。祭壇の前の床にクレーターのような穴が穿たれる。
「後退しよう!」
全員が一斉に距離を取る。ワームは膨張した体をくねらせながら、またもや暗がりの奥へと引いていく。
だが、その動きは明らかに遅い。
俺たちの攻撃は、確かに通じている。通じてはいるが……
「逃がす手はないよな?」
ヘレンが肩で息をしながら呟いた。
俺たちは、互いに視線を交わす。
次は、決着の時だ。