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第38話 二人は遂に……

性的表現が含まれます。苦手な方は飛ばしてください。



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「アルウィン……迷宮攻略が終わって、剣舞祭を突破したとしても私に近い場所に配属されるかは解らないんだ。私は……離れたくないよ」


 頬を赤らめ、けれども少しだけ不安と期待の入り交じっていそうな瞳を向けたオトゥリア。

 哀しさを含んでいるオトゥリアの表情。朱に染ったその頬が何とも色っぽかった。


 アルウィンはいつの間にか、込み上げてくる感情に流されるまま、彼女の腰に手を回し、無意識下で口を開いていた。


「オトゥリアは大切……いや、小さい頃からずっと一生を添い遂げたいと思うような存在なんだ。オレだって……離れたくないよ。だから……どこに配属されようとも王国騎士団に入ったら昇格しまくって中央を目指す。上手くいったら……結婚しよう」


「…………!!!!」


 その言葉にオトゥリアは目を見開き、そして手で口元を覆っていた。彼女の目尻から溢れ出した涙が頬を伝う。


「アルウィン……ありがとう。

 大好きだよ……上手くいったら……今度こそ一緒になろうね」


 オトゥリアはやや目線を上げた。

 その瞬間に、抱き寄せたまま、右手でオトゥリアの涙を拭ったアルウィン。


「ああ。絶対に……な」


 先程まで煌々と輝いていた月は分厚い雲に紛れ、シャンデリアの光が届かない箇所は真っ暗になっていた。




 泣いた跡の残る、可憐な頬。

 オトゥリアが放つ鈴蘭の匂いをもっと嗅ぎたいと、アルウィンは身体を密着させる。


「アルウィン……恋人同士になれて……本当に嬉しいよ」


 嬉しさを噛み締めるかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐオトゥリア。


「うん。オトゥリアはオレのものだ。他の男になんか取らせない。例え第2王子だとしてもな」


 覚悟を決めたのか、エメラルドグリーンの瞳は力強く光っていた。

 が───


「うん。私にはアルウィンだけ。あ、でも……」


「でも?」


 ───オトゥリアが濁した、「でも」という言葉……なんて意味なんだ!?もしかして……他にも男の影が……!?


 と、アルウィンは考えてしまったのだが、結論を先に言うとそれは思いこみ過ぎだった。


「ミルヒシュトラーセ様とアルウィンは、大切さで言ったら同格かなぁ……」


 頬を少し掻きながらオトゥリアがそう告げる。


 ───良かった。王女か。


 抱擁を解いて胸を撫で下ろすアルウィン。


「だったら、オレたちで第2王子をぶっ飛ばして王女サマを全力で助けないとな。

 あと、オトゥリアを大切にする気持ちは王女サマに負けるつもりなんて無いから」


 オトゥリアと同性だが、アルウィンは生まれつきの負けず嫌いが災いしてか対抗心を燃やすのだった。


「えぇっ、それは……嬉しすぎるよ。

 でも今夜は……漸くアルウィンと恋人関係になれたんだから、余韻に浸りながらいちゃいちゃしていたいな」


 オトゥリアは、髪の毛をくるくると弄りながら……上目遣いでそう答えるのだった。


 風呂上がりに香水を付け直したのだろうか。ふわりと香る鈴蘭の香りが、アルウィンの心を安らかな気持ちにしてくれる。

 そして同時に、それが男としての本能を狂わせていくのも事実だった。


 オトゥリアはもう一度抱き合いたかったのか、アルウィンに迫ってくる。

 彼女が密着してくると───彼の腕に触れたのは弾力があって柔らかい果実だった。


 ───触りたい。


 ゆっくりと腕をずらし、その禁断の房を我がものにしたいとそっと掴む。


 ───弾力と同時に……マシュマロみたいな柔らかさもある……


 彼女のネグリジェに深く皺が入り、アルウィンの指先に確かな感触を与えてくれた。


 オトゥリアは抵抗しなかった。

 寧ろ、更にうっとりとした顔をうかべ、全身に駆け巡る幸福感に浸っていたのだ。

 そんな彼女の吐息は、暖かく艶かしい。


 それは、アルウィンの脳天を蕩けさせるような正体不明の力に満ち溢れたものであった。

 その暖かさを知りたいと、アルウィンはオトゥリアの唇を自分のものでぴったりと覆う。


 オトゥリアも、その最高の悦びいっぱいにアルウィンを受け入れてくれた。

 互いをもう離すまいと、恋人繋ぎで密着した手と手が熱い。


 しばらく時間が経ったあとに。


「私を……味わってね」


 ベッドに仰向けに倒れ込んだオトゥリア。


 月が雲間から再び現れる。

 まだまだ夜は長い。

 二人きりの甘い夜が始まったのだった。







 ………………

 …………

 ……







 窓から差し込んで来る柔らかい日差しが眩しい。

 水没林の濁り水が陽光を乱反射しているためだろうか。

 一足早く起きたアルウィンは、少し伸びをした後に未だ可愛らしい寝息をたてるオトゥリアの瞼にかかるシルクのような金髪を払いのける。


 オトゥリアと結ばれたこと。

 それは、彼がずっと心の奥底で望んでいたことなのは疑いようもない。

 最初はオトゥリアが涙することもあったが、それでもアルウィンのすべてをを受け入れてくれた。

 水没林の向こうから聞こえるのは、囀る水鳥の声。

 その声に起こされたのか、オトゥリアがゆっくりと目を開ける。


「おはよう、アルウィン」


「いい朝だな。オトゥリア」


 昨夜のことを思い出して互いに照れながらも、ゆっくりとオトゥリアが起き上がり───アルウィンの唇の隙間に彼女のものを押し付ける。


「んっ……んんっ……アルウィン……」


 アルウィンはオトゥリアの頭を優しく撫でながら、彼女の巧みな攻撃を受け止めていた。


「んあっ……ぷふぁあっ……」


 そして遂に満足したのか、顔を離してニカッと笑うオトゥリア。

 その姿に、アルウィンは頬を染めて呟くのだった。


「さっきのアレは……脳が蕩けそうな程だった。

 おはようのキスは……暫く毎日のルーティンにしたいくらいだ」


「もちろん、そうしようね!」


 うっとりとしている二人だが、出発の時間は刻一刻と迫っている。

 朝食は騎士団の人が特別に作ってくれていたようで、扉を叩く音が僅かに聞こえるのだ。

 彼らは急いで服を着、現れた騎士からバスケットを受け取ってテーブルの上に中身を広げる。


「わぁ、綺麗だ!」


 開けた時のオトゥリアの感嘆の声は大きかった。

 中から出てきたのは小麦粉をまぶして焼かれた魚と茹で玉子を挟んだパンである。

 騎士団では簡易的に食べられる食事が好まれているため、主食のパンに野菜やら肉類やらを挟み込んで食べる食べ方が主流なようだった。


 十分ほどで全てを片付けると、ベランダで日差しを浴びていたゼトロスのもとへと向かう。

 ゼトロスには騎士団の面々が新鮮な肉を与えてくれていたようで、機嫌が良さそうに見えた。


「おはよう!ゼトロス!」


「……おはよ」


「主もアルウィンも、良い朝であるな」


「あぁ。いい朝だな……」


 初日は50層まで、二日目はここ70層までが目標地点だった。

 けれども、これから先は各層を突破する難易度が格段に上がってくるらしい。

 72層までは湿気と毒の襲い来る水没林が広がっているが、73層からは再び遺跡層に変化する。


 43層から49層まで続いていた遺跡は、三日毎に内部が変化するため、地図さえあれば迅速な攻略が出来た。


 けれどもこの後に続く遺跡は一時間で内部構造が変わってしまうらしい。

 更新された途端に新しく出来た壁に遮られ、冒険者パーティーが運悪く離れ離れになってしまうという話はどこにでも転がっている。

 これは密集を心掛けるか、はぐれた時の待ち合わせ場所などを決めておけば対策は可能だが、アルウィンらの問題は別にあった。


 それは、その迷宮にゼトロスを連れて行けないことにある。

 騎士団メンバーの話だと、迷路の天井がゼトロスが通れるほど高くないらしい。そうなれば、72層でゼトロスを置いていかねばならないのだ。


 元々のオトゥリアの計画では、ただの白仙狼フェンリルを使役し、使えなくなったら離す予定だった。

 けれども、オトゥリアが使役したのは特殊個体である辿異種、それも人間とコミュニケーションを取れるような個体だった。

 人間と言葉でコミュニケーションを取れる魔獣は、人間を誑かすことも可能であるため、南光十字教信徒ばかりの騎士団員には不快に思われている。


 オトゥリアがゼトロスを解放してしまったら、どうなるかは解らない。

 今までは近くにオトゥリアが居たために騎士団は手を出さなかったが、置いて行かれたゼトロスを騎士団が殺してしまうかもしれないのだ。


「ゼトロスの身は……今後どうなるんだよ」


「それに関しては、大丈夫だからね」


 オトゥリアには何やら算段があるようだった。

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