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第二章 王都反乱編

第1話 春が来て

長らくおまたせしました!!

ここから、本格的に戦記として戦争シーンが増えていきますのでよろしくお願いします!!



___________





 アルウィンは、領地経営の仕事をルディガーと共に、時たまにテオドールらにも手伝って貰いながら学んでいった。

 隣国ヴァルク王国とは、時折手紙を交わしていた。

 春が過ぎた頃にヴァルク王国の貴族の一部がアルウィンを呼び、暗君になる恐れのある現皇太子を倒すために王候補として立ち上がる───という予定となっている。


 そんなアルウィンが学んでいたのは、領地経営の方法だけではない。


 現在、彼はエヴィゲゥルド王国の東の国境沿いに居る。

 ヴェンデルから兵法を学んでいた彼は、現在エヴィゲゥルド王国の南東部、シュティレブルク郊外に侵攻してきたソルジメント王国軍3万3000と対峙していたのだ。

 シュティレブルクの東方は肥沃な土地が広がっており、そこが数十年という長い間、ソルジメント王国との係争地となっている。

 そこを奪われれば、国内に供給される穀物の物価が2割〜3割程度は値上がるだろうといわれる重要な地。

 絶対に死守しなければならないと、彼はヴェンデルに説明されていた。


 今の時期は春前の農閑期である。

 間もなく麦を植える時期に移るが、それまでは領地の仕事は少ない。

 そのため、庶務をルディガーに全て任せ、アルウィンはヴェンデルと共に南方戦線に赴いていたのだ。


「こちらの総大将はハベルリン将軍で、副将は私とシャイナンヘルムという将軍だ」


 防衛に回ったエヴィゲゥルド王国軍は急造の2万8000名。

 兵の数だけ見れば敵と5000名の差があるが、ゴットフリード領から呼んできた3000名に、追加で2000名を与えられて左軍を任せられたヴェンデルは明確な勝ち筋を描いていた。


「アルウィン。これからお前にゴットフリード軍の非魔法使いのみで構成された騎馬隊1000を与える。

 お前たちは樹海に潜んで、時が来るまでは一切動くな。その間、我々は劣勢のフリをして前線を下げていくから……解るな?」


 ヴェンデルの発言に、作戦をあらかた察したアルウィンはニッと口角を上げる。


「なるほど。

 で、敵を上手いこと誘い込んだ丁度いい塩梅でオレがフタをするということか」


「そういうことだ。

 お前にはソルジメント王国右軍7000を率いるデルサルト将軍を討つことを命じる。

 お前が突撃をかけたら、私は下げていた前線を右側だけ押し戻す。斜めに圧力をかけて挟み込んで、敵の方陣が崩れたときに生じた敵の混乱をお前が叩け」


「解った。1000人もの指揮は初めてだが……学んだことは全て生かしてみせる。任せてくれ」


「初陣でレフェリラウスを討ったお前には、今更大きな失敗を起こすことなどないだろう。働きを期待している」


 ヴェンデルの瞳には、アルウィンへの信頼が見える。

 期待を受け取った彼は、大きく息を吸い込んだ。


「よし……騎馬隊1000名、静かにオレに続け!」


 アルウィンは与えられた騎馬1000を従えて樹海に消えていく。


 ヴェンデルがエヴィゲゥルド王国軍に提出した作戦は、彼の率いる左軍が敵右軍を破り、敵中央の背後を突いて挟み込むというものだった。

 総大将のハベルリン公爵もその作戦を認めていたため、ヴェンデルの率いる左軍の働きが最重要だった。




 そんな中で───開戦を告げる激しい銅鑼の音が、両軍から沸き起こった。

 敵味方問わず右軍、中央、左軍ともに方陣が組まれ、激しい勢いで中央の丘でぶつかり合い、巻き上げられた砂埃が周囲を薄く覆っている。


 開戦して30分程度はどこの戦線も目立った動きはなく、崩せる隙を伺おうと前線の兵たちが槍を振り、後方の魔法部隊が射撃支援を行っていく。

 綻びが出たところにはすぐさま長槍ロングスピアを携えた騎馬部隊が突撃して、中央では敵味方共に騎馬が華々しい活躍を見せている。


 至る所で見られる均衡状態を横目に、アルウィンらは主戦場となる平原地帯の外側に広がる樹海を、敵右軍後方に回り込むために駆け抜けていた。


「見えた……!どうだ!?」


 アルウィンが樹海から戦場が見られる場所に陣取ると、ヴェンデル率いる左軍はじりじりと後退を開始していた。

 ヴェンデルの狙い通りか、こちらの意図に気が付いていない敵右軍はゴットフリード軍の左軍を強く押し込んでくれている。

 敵の数は倍近くあり、それが余計に押す力に勢いを付けていた。


「千人隊長、そろそろ攻勢をかけるべきでは?」


 騎馬隊の隊員がそう言うものの、このような局面での攻め方を教わっていたアルウィンはまだ早いと返して戦況の変化を見守っていた。


「敵右軍の最後尾が、味方中央の前線よりも前に押し込んで来たら……その瞬間に攻勢をかける。

 まだまだ動いたら駄目だ」


 アルウィンは隊員にそう指示すると、再度前線に視線を向けていた。

 敵右軍の中央には空色に塗られた旗が幾つも立てられていて、そこにデルサルト将軍がいるのだろうと判る。

 その方向をじっと見詰め、彼は息を長く吐いた。

 遠くの音に耳を澄ませ、攻撃のタイミングを伺っているのだ。



 デルサルト将軍の方陣は、綺麗な正方形の形を保ちながら、崩れていくヴェンデルの軍を破っていく。

 騎兵部隊もかなり深くまで進んでいて、ヴェンデルの本陣まではあと少しという所だった。

 かなりヴェンデルを押し込んでいるが、デルサルト将軍はこれも作戦の内であることを知らない。


「よし!」


 アルウィンの歓喜の声が小さく梢を揺らした。

 敵右軍の最後列はハベルリン公爵の戦う中央の前線よりも奥へと進んで、後退していくヴェンデルを深追いしていたのだ。


 アルウィンは馬の手網をグイッと引き、剣を引き抜きながら叫ぶ。


「今だッ!!

 総員ッ!突撃ッ!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!


 1000人の男たちの叫び声が森の中に轟いた。

 先頭を駆けるのは、この部隊の隊長であるアルウィンだ。


「ブリッツ!良い風だな!」


 彼は、愛馬の背中を優しく叩く。

 アルウィンによってブリッツと名付けられたその馬は、意気揚々と主を乗せて駆け抜ける。


 ブリッツは、彼が初陣時に使用した馬だ。

 矢傷を氷魔法で治療してもらったことが切っ掛けでアルウィンに懐いた馬。

 その馬は5年間でシュネル流の動きに完全に対応出来るようになり、またアルウィンを乗せる日を今か今かと待っていたのだ。



 彼の率いる騎馬隊1000が、砂塵を撒き散らしながら魚鱗の陣で樹海から現れる。

 その姿に真っ先に気が付いたのは、敵右軍の最後方を担っていた魔法騎槍ソーサーランスの防衛部隊だった。


「茂みの奥から新手が!挟まれたッ!」


 方陣という陣形は、最前に白兵戦を行う歩兵を、中列や側面には崩れた前線に突撃したり、横からの攻撃を防ぐために柔軟な動きが求められる騎兵を、後列には魔法や弓の部隊を配置することが多い。

 そう配置すると、前面や側面への力は強力になるのだが、後方は遠距離攻撃の部隊ばかりになるため弱点と成り得るのだ。


 けれども、敵将デルサルトは対策を怠っていなかったらしい。

 魔法も突撃もできる万能騎兵である、魔法騎槍ソーサーランス部隊が最後列で挟撃を防ぐために配置されていたのだ。


 その数は、推定800名程度。

 各々は即座に振り返り、駆けてくるアルウィンら1000名の騎兵に魔法の雨を浴びせようと魔力を魔法騎槍ソーサーランスに充填させていく。


「撃てェ!!!」


 魔法騎槍ソーサーランス部隊の隊長らしき人物が合図を放った途端、魔法騎槍ソーサーランスの先端に出現した魔法陣から様々な光を放つ魔法が放たれていく。


 だが。


「怯むなッ!突っ込めッ!!!」


 アルウィンは、その魔法の雨に一切臆すことなく、寧ろ馬の速度を更に早めさせるのだった。

 先頭のアルウィン目掛けて、左前方から、まるで虹のような幾つもの魔法が放たれていく。


 こんな多数の魔法に被弾すれば、氷魔法や風魔法で障壁を作れるような魔法練度に成長したアルウィンであっても防ぎようはなかった。

 障壁を破壊されて、敵の魔法に身体を貫かれてしまう。

 もちろん、シュネル流は剣に魔力を纏わない流派であるため、魔法を剣で防ぐことも難しい。


 そんな中で。


「〝海月星弾ジュエリーフィッシュボム〟!」


 アルウィンの少し後ろで、強大な魔力が揺らめいた。

 そして直ぐに、駆け抜ける騎馬隊の左側面に幾つもの巨大な水滴が出現する。


「フェトーラ、援護ありがとうな!」


 そう言いながらアルウィンは振り返る。


「えぇ。サポートは任せなさい!」


 吸血族ヴァンパイアのフェトーラ───今の姿は人間の見た目に偽装した冒険者アリアドネとしての姿だが、彼女はアルウィンのサポートをするためにこの戦に参加していたのだった。

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