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第11話 初めてのクエスト

 ハルヴァスに転移してから翌日、零夜たちはクローバールの街にあるギルドを訪れていた。強くなるためにはクエストをこなすのが効率的であり、そのためには積極的に取り組む必要がある。

 まずはどんなクエストがあるのか確認しようと、受付のメリアに相談することにした。


「あら、零夜さん。今回はどんなご用件でしょうか?」

「俺達、ギルドクエストを受けたいのですが……」

「それなら、こちらです」  


 メリアは視線を左に動かし、壁に貼られたクエストボードを指差す。そこにはスライム退治や荷物の配達、ゴブリン討伐といった簡単な依頼から、ドラゴン討伐や山賊退治といった上級クエストまでが並んでいる。

 クエストはFからSまでのランクに分けられており、上級のものに挑戦するにはランクを上げる必要があった。


「零夜さん、倫子さん、日和さんは最下級のFランクからのスタートになります。功績を積むごとにランクが上がりますが、昇級試験もあるので覚えておいてくださいね」  


 メリアの説明を聞き、零夜、倫子、日和の三人は真剣な顔で頷く。タマズサを倒すには実力を極限まで高めなければならず、最低でもSランクに到達する必要があるのだ。

 そのまま三人はクエストボードへと向かい、Fランクの依頼一覧を確認する。ちなみに、アイリンはすでにSランクだが、零夜たちのサポートのために同行することになっていた。


「色々あるわね……どれがオススメなのかしら?」  


 日和がクエスト一覧をじっと眺めるが、どれを選べばいいか迷ってしまう。そこでアイリンに相談すると、彼女は迷わず一つの依頼を指差した。  


「まずはスライム退治ね。初心者にもオススメだけど、スライムだからって油断は禁物よ」

「舐めてかかると痛い目見るかもね」  


 アイリンの言葉に、日和は真剣な表情で頷く。どんなに簡単なクエストでも、ミスをすれば命を落とす危険がある。

 それはギルドに限らず、どんな場所でも「安全第一」が基本であり、どの世界でも変わらない真理だろう。


「そういうことやね。じゃあ、受け付けておくから」

「ええ、お願いするわ」  


 倫子がクエストボードからスライム退治の依頼書を取ってメリアに渡す。メリアはパソコンを軽快に操作し、わずか一分で受注手続きを終わらせた。  


「はい! スライム退治、受理しました!」  


 メリアが笑顔で応え、カウンターのクエスト受注掲示板のウィンドウを指差す。そこには零夜たちが受ける依頼が表示され、「出発準備中」の文字が点灯していた。

 他にも冒険者たちがクエストを受注しており、進行中の者や帰還中の者もいる様子が映し出されている。


「ここからクエストが始まります。アイテムを準備したら出発してください!」  


 メリアの助言に、アイリンは冷静に頷き、零夜たちを連れてアイテムショップへ向かう。そこには魔力や体力を回復するポーション、秘薬、状態異常を治すアイテムがずらりと並んでいた。  


「アイテムは多めに買っておきなさい。スライムでも毒を持つ奴がいるからね」

「えっ? スライムにも毒があるのん?」 


 アイリンの言葉に、倫子が驚いた顔で首をかしげる。スライムに毒があるなんて初耳だったが、ヤツフサが冷静に補足した。  


「ポイズンスライムだ。そいつに攻撃されると毒状態になる可能性がある。近接攻撃は無謀で危険だな」  


 小型フェンリルであるヤツフサの真剣な説明に、倫子と日和はゴクリと息を飲む。スライムにも危険な種類がいることが分かり、油断すれば大変なことになると感じたのだろう。  


「今回のクエストにもポイズンスライムがいるなら、遠距離攻撃も考えないと駄目だな」

「そうね。さっさと買い物を済ませて、クエストに出発しましょう!」  


 零夜の提案にアイリンも同意し、彼女の指示で全員が素早く買い物を始める。ここで悠長にしている暇はない。迅速に行動することが何より大切だ。  


「道具も揃ったし、早速クエストに向かいましょう!」  

「気を付けて!」


 倫子の号令に全員が一斉に頷き、ギルドから出発する。彼女たちの背中を見送りながら、メリアは笑顔で手を振っていた。  


 ※


 クエストの舞台であるフルーダス平原に到着した零夜たちは、周囲を見回しながらスライムを探し始めた。そこは一面の草原に木がまばらに生え、中くらいの岩が点在する場所。モンスターが出てくるとすれば、そのあたりしか考えられない。  


「モンスターは大体草原とかに出てくる。いつ飛び出してくるか分からないからな」

「ああ。出るとしたら……そこだ!」  


 零夜が草原に向かって苦無を投げると、何かに命中し、風船が破裂するような音が響いた。零夜とヤツフサが近づくと、そこにはスライムの粘液、金貨、そして刺さった苦無が落ちている。おそらくスライムを仕留めたのだろう。  


「見事だな。敵の動きを読み、一撃で倒すとは。」

「大したことじゃないですよ。今回のスライム討伐数は三十匹。油断せずに倒していきましょう!」  


 零夜は苦無を拾い上げ、他に敵がいないか探し始める。すると、草むらから次々とスライムが飛び出してきた。その数、およそ十匹。  


「もう少し数が多けりゃ、目標までいけたけどな……」

「まあ、思い通りにはいかないからね。ほな、さっさと攻めていくで!」  


 零夜が複雑な表情でスライムの数に不満を漏らすと、倫子は苦笑いしながら彼を落ち着かせる。四人は一斉に駆け出し、スライムへと襲いかかった。  


「最初から攻めて倒すのみ! フレイムショット!」  


 日和が拳銃から炎の弾丸を連射し、三匹のスライムに命中させる。弾丸を受けたスライムは風船のようにはじけ、金貨と粘液となって地面に落ちた。  


「私も負けてられない! そこ!」  


 倫子は両手にリングブレードを召喚し、素早い連続斬撃で五匹のスライムを切り裂く。スライムのコアを正確に破壊し、一撃で仕留めたのだ。  


「じゃあ、残りの二匹は私がやるわ! 炎帝拳!」  


 アイリンが拳に炎を纏わせ、強烈な一撃で二匹のスライムを粉砕する。これで飛び出してきた十匹は全滅し、残りの十九匹を探しに向かうことになった。  


「さっきみたいに集団で襲ってくる可能性もあるが、でかいスライムが出てくるかもしれんぞ」

「確かに一理あるわね。さて、どこにいるのかしら……」  


 ヤツフサの言葉に、倫子はキョロキョロと周囲を見回す。すると日和が突然立ち止まり、敵の気配を察知した。  


「藍原さん、前方に敵が来ます! スライムなのは確かですが……」

「ん?」  


 日和が指差す方向を見ると、スライムの群れが姿を現した。そこには大型スライム、ポイズンスライム、そしてピンク色のスライムまで混じっている。  


「ゲッ! 変態スライムまでいるなんて……!」  


 ピンクのスライムを見たアイリンは、思わず冷や汗を流す。彼女の脳内には嫌な思い出が蘇り、トラウマとなりそうなレベルである。

 それを見た倫子と日和は不思議そうに近づき、質問を始めた。  


「アイリン、あのスライム知ってるのん?」

「ええ……あれはパーバートスライムよ! 女性に対して痴漢行為をする厄介な奴なの!」

「「ええっ!?」」  


 アイリンの説明に、倫子と日和は驚きを隠せない。零夜とヤツフサは真剣な表情でスライムの群れを睨みつける。パーバートスライムという厄介な敵の登場で、このクエストは簡単には終わらない展開になってしまったのだった。

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