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第12話 オーブによる武器変化

 零夜たちはスライムの群れと遭遇していたが、そこにはただのスライムだけでなく、巨大なスライム、ポイズンスライム、そしてパーバートスライムまで混じっていることが判明した。特にパーバートスライムは女性だけを狙って襲いかかる厄介な敵で、間違いなく手強い相手と言えるだろう。


「気を付けて。パーバートスライムは女性を見つけると真っ直ぐに襲いかかってくるわ。私もあいつにやられたことがあるからね……今でも思い出すとブチ切れそうになるわ……」


 アイリンはパーバートスライムについて説明すると同時に、背中から炎のようなオーラを放ちながら静かに怒りを滲ませていた。

 かつてアイリンがゴドムたちとパーティーを組んでいた頃、クエストの最中にパーバートスライムに襲われた経験がある。身体を触られ、粘液まみれにされた彼女が大泣きしてしまったのも無理はない。


「苦労したのね……でも、そういうことなら……ツノラビ、お願い!」


 倫子はバングルからスピリットを解放すると、そのスピリットは変形してツノラビへと姿を変えた。地面に着地した瞬間、彼らは角を前に突き出し、突進の準備を整える。主がピンチに陥れば黙っていられないと判断し、自ら行動を起こしたのだ。


「かかれー!」


 倫子の合図とともに、ツノラビたちは一斉に動き出し、次々と角でパーバートスライムたちのコアを貫いていく。スライムたちは風船のようにはじけ飛び、ここにいたパーバートスライムはあっという間に全滅してしまった。


「ふう……変態スライムはなんとか倒したみたい……」

「良かった……あいつらに襲われずに済んで……」


 倫子とアイリンはパーバートスライムがいなくなったことに安堵の息をつく。このまま放置していたら、粘液まみれになって大泣きするのは確実だっただろう。

 しかしその時、五匹ずつのスライムとポイズンスライムが彼女たちに襲いかかってきた。まだ敵が残っている以上油断は禁物だが、それを見た日和は銃を構え、戦闘態勢に入っていた。


「私がいることを忘れないで! スパークショット!」


 日和は雷の弾丸を次々と放ち、スライムたちに命中させては破裂させ、倒していく。地面には金貨とスライムの粘液が落ちていくが、中には毒の粘液も混じっていた。


「毒の粘液か。もしかするとこれは使えるぞ」

「魔術に使うの?」


 ヤツフサは毒の粘液を見て何か閃いたようで、日和たちはその意図を訝しむ。こうした素材は大抵、魔術に使用されることが多いのだろう。


「それは違う。零夜、忍者刀を出してくれ」

「あ、はい!」


 零夜はヤツフサの指示に従い、手元に忍者刀を召喚する。それを見たヤツフサは、柄の部分に黒いオーブが嵌まっていることに気づいた。


「ふむ。では、このオーブに毒の粘液を入れてみてくれ」

「オーブにですか? どれどれ……」


 零夜は疑問に思いながらも指示通り毒の粘液をオーブに注ぎ込む。すると忍者刀が光り輝き、変化を遂げ、毒属性を帯びた忍者刀へと姿を変えた。外見に大きな変化はないものの、刀身は紫色に染まっている。


「変化した! この忍者刀は一体……」

毒刃どくやいばだ。その忍者刀は敵に猛毒効果を与える力を持つ。場合によっては一撃で仕留めることも可能だろう」

「なるほど。では、使わせてもらいます!」


 零夜は自身の忍者刀が変化したことに驚きを隠せない中、ヤツフサは真剣な表情で説明を続ける。その内容を理解した零夜は、毒刃を構え、敵に鋭い視線を向けた。

残る敵は巨大なビッグスライムのみ。ビッグスライムは大きさに比例して防御力が高いのが特徴だが、弱点であるコアもまた大きく目立っている。


(相手はビッグスライム。デカいコアを破壊すれば勝機はある。やるなら……今しかない!)


 零夜は素早く駆け出し、毒刃を構えてビッグスライムに襲いかかる。だがビッグスライムは跳躍し、零夜を踏み潰そうと迫ってくる。


「ビッグスライムに潰されたらひとたまりもないわ! 下手したら死ぬ可能性もあり得るかも!」

「そんな! 零夜君、逃げて!」


 アイリンは冷や汗を流しながら状況を説明し、このままでは危険だと予測する。それを聞いた倫子は驚きのあまり、ビッグスライムに立ち向かう零夜に向かって叫んでしまう。

 だが零夜はビッグスライムの真下に移動し、刀を上へ掲げて跳躍を開始した。自殺行為とも言える行動だが、彼なりの計算があるのだろう。


「秘技! 昇天毒牙しょうてんどくが!」


 跳躍による強烈な突きがビッグスライムのコアを貫き、攻撃は見事に成功。ビッグスライムは風船のよう膨らみ、大きな音を立てて破裂してしまった。


「ひゃあっ!」


 倫子は驚いて尻餅をつき、慌てて岩の後ろに隠れてしまう。彼女は大きな音が苦手なため、驚いてしまうのも無理はない。


「倫子さん、驚かせてすいません。もう大丈夫ですよ」

「う、うん……」


 零夜は倫子に謝りつつ、もう敵がいないことを伝える。倫子はキョロキョロと周囲を見回した後、零夜のもとへ駆け寄ってきた。


「もう! ビックリして尻餅ついたじゃない! ビッグスライムを倒したのは良いけど、自殺行為は駄目だからね!」

「す、すいません……」


 倫子は頬を膨らませて説教し、零夜は縮こまりながら謝罪する。すると倫子は零夜をそっと抱き締め、そのまま彼の頭をポンポンと撫で始めた。


「でも、勇敢な行動を取るのは良かったわ。私達も見習わないとね」

「はい! 私も精一杯頑張ります!」

「私も初心に帰って頑張らないとね」


 倫子は零夜の行動を称賛しつつ、勇敢に立ち向かう決意を新たにする。日和はさらに強くなるため努力を誓い、アイリンも初心を忘れず取り組むことを決めた。

 すると、零夜の持つ毒刃が元の忍者刀に戻った。


「それにしても……オーブに素材を入れる事で、武器に変化が出るのは驚いたな……」


 零夜は忍者刀の柄を握りながら、自分の武器をじっと見つめる。素材をオーブに込めれば武器が新たな姿に変化する。新たな楽しみが増えたことで、零夜は笑みを浮かべていた。


「いいな……私達の武器にもオーブがあるのかな?」

「そうですね……すぐに確認してみましょう」


 倫子たちも自分の武器にオーブがないか確認すると、倫子のウィザードグローブ、日和の二丁拳銃、アイリンの左手首のバングルに、それぞれオーブが付いていることが分かった。


「あっ、私達の武器にもあるみたい」

「良かった……一時はどうなる事かと思った……」

「私達だけ仲間外れになったら、どうなるかと思ったわね……」


 倫子たちは自分たちの武器にもオーブがあることに安堵し、零夜だけだったら不公平だと感じていたのだろう。それを見たヤツフサは彼女たちに近づき、言い忘れていたことを伝えた。


「言い忘れた事がある。それぞれの武器にオーブが付いているのは、お前達八犬士のみとなっている。それ以外の者がその武器を使えば、一瞬で即死してしまう事になるが」

「防犯対策は大丈夫だけど、即死はやり過ぎでしょ!」


 ヤツフサの説明を聞いた倫子は、その内容にツッコミを入れる。確かに即死効果は防犯にはなるが、人を死なせる事件を引き起こしかねない。


「まあまあ。取り敢えずクエストもクリアしましたし、倫子さん達もそれぞれの武器に素材を入れておきましょう」

「そうやね。薬草などがあれば回収して、次々と試してみないと!」

「「賛成!」」


 零夜のアドバイスを受け、倫子はクエストの帰り道に素材を採集することを提案。日和とアイリンもそれに賛同し、早速行動を開始した。


「やれやれ……相変わらず行動力が早いな……」

「俺としてもこの件に関してはどうかと思うが……」


 零夜は苦笑いを浮かべ、ヤツフサは呆れ顔で倫子たちの後ろ姿を見つめるしかなかった。何はともあれ、最初のクエストは無事にクリアできたのだった。

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