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第18話 ロックマウンテンでの戦い

 零夜達は昇級試験としてCランクのクエストであるゴーレム討伐を受けることになり、目的地であるロックマウンテンへと辿り着いた。

 ロックマウンテンはその名の通り、切り立った岩山が連なる荒涼とした場所だ。岩肌が風に削られて鋭く尖り、足元の地面には大小の石がゴロゴロと転がっている。空気は乾いて埃っぽく、時折吹き抜ける風が低く唸りを上げる。ここに生息するモンスターは、空を切り裂くファルコスや、群れで襲いかかるゴブリン、そして鋭い牙を持つウルフなど多岐にわたる。場所によってモンスターの種類が異なるのも特徴で、まさにファンタジー世界の醍醐味が詰まった危険地帯と言えた。


「ここがロックマウンテンか……凄く危険なところだな……」  


 零夜は岩山の全景を見上げ、真剣な表情で周囲を観察していた。目の前に広がる景色は壮観だが、同時に不気味な静けさを孕んでいる。岩山の間には細い通り道がいくつか存在するものの、そのほとんどが狭く、足を滑らせれば即座に転落の危機が訪れる。さらに、頭上からは落石が落ちてくる可能性があり、崖崩れも頻発する要注意エリアだ。零夜は手に持った剣の柄を握り直し、気を引き締めた。


「ええ。崖から落ちて死んだ冒険者の数も、そんなに少なくないからね」  


 アイリンが隣で冷静に呟いた。彼女は猫の獣人らしく、鋭い黄金色の瞳を細め、耳をピクリと動かしながら危険を察知している。普段はツンとした態度が目立つが、こういう場面では頼りになる一面を見せる。尻尾が軽く揺れ、内心の緊張を隠しきれていない様子が零夜には分かった。彼女の言葉を聞いた倫子と日和は、顔を真っ青にして思わず抱き合った。二人の肩が小さく震え、ゾッとした表情が隠せない。

 ロックマウンテンの危険性は、地球の山々と何ら変わらない。落石、転落、野生動物の襲撃――自然の脅威はどこでも同じだ。真剣に話を聞いてしまった倫子と日和が恐怖で縮こまるのも無理はない。


「その対策をするとなれば……ファルコス、出てきて!」  


 倫子は気を取り直し、すぐに立ち直った。彼女はバングルを掲げ、真剣な眼差しで六個のスピリットを解き放つ。スピリットは光の粒子となって宙に浮かび、やがて輪郭を形成し、六羽のファルコスへと姿を変えた。鋭い爪と翼を持つ鳥型のモンスターが、キリリと鳴き声を上げて倫子の周囲を飛び回る。


「ウチ等が落ちそうになったら、しっかり支えて! アンタ等が頼りなんやから!」  


 倫子の頼みに、ファルコス達は首をコクリと振って応え、空を旋回しながら一行と同行する姿勢を見せた。自分を仲間にしてくれた主を死なせるわけにはいかない――そんな決意が彼らの鋭い瞳に宿っている。倫子は満足げに笑い、バングルを軽く叩いて褒めた。


「これで崖から落下する心配は無いみたいね」

「うん。でもファルコスだけじゃ心配だから、他のモンスターも付けた方が良いかもね……」  


 アイリンは倫子の行動を認めつつも、少し不満げに唇を尖らせた。彼女のツンデレらしい口調に、零夜は苦笑いを浮かべる。確かにファルコスは物を運ぶ力はあるが、体重の重い人間を長時間支えるとなると限界がある。空を飛べる別のモンスターを探し、彼らの負担を減らすのが賢明だろう。アイリンはそう言うと、尻尾をピンと立てて周囲を見回した。


「俺は空も飛べるし、元の大きさになれば人を乗せる事ができるが」

「俺も変化の術で様々な姿に変化できます!」

「じゃあ、その時はサポートお願いね」  


 ヤツフサが低い声で提案した。彼は小型フェンリルで、普段は零夜の膝ほどの高さしかないが、必要とあらば巨大化して空を飛ぶこともできる。灰色の毛並みが風に揺れ、鋭い牙を覗かせた口元からは頼もしさが感じられた。一方、零夜は変化の術を得意とし、状況に応じて柔軟にサポートできる。倫子が笑顔で頷いたその瞬間、一行の前に新たな脅威が姿を現した。

 現れたのはウルフとワイバーンの群れだ。ウルフは五匹、ワイバーンも五匹。ウルフは地面を這うように近づき、ワイバーンは翼を広げて上空から睨みつけてくる。緊迫した空気が一行を包んだ。


「モンスターは各二種類か。倫子、仲間にする事が可能か?」

「任せて! マジカルハートで数を減らさないと!」  


 倫子は即座に反応し、両手でハートの形を作った。ウインクを決めると同時に、ウルフに狙いを定める。戦いを有利に進めるには、まず敵の数を減らしつつ仲間を増やすのが彼女の戦略だ。


「マジカルハート!」  


 倫子が放った光のハートは、ウルフ2匹に命中。光に包まれたウルフは抵抗する間もなくスピリットハートへと変化し、彼女のバングルに吸い込まれた。仲間が2匹増えたが、残りはワイバーン五匹とウルフ三匹。まだ油断はできない状況だ。


「まだ数が残っているか……ワイバーンにも仲間にしておかないとね!」 


 倫子は勢いそのままに、再びマジカルハートの構えを取る。しかし、ワイバーンは彼女の動きを察知し、鋭い爪を振り上げて襲いかかってきた。スピードを増したワイバーンが牙を剥き、倫子に迫る。このままでは絶体絶命だ。


「そうはさせるか!」  


 零夜が素早く動いた。倫子をお姫様抱っこで抱え上げ、風のような速さでワイバーンの攻撃を回避する。数秒遅れていたら、倫子は噛みつかれていただろう。彼女は驚いた顔で零夜を見上げた。


「ありがとう、零夜君」

「いえいえ。けど、ワイバーンを仲間にするのは難しそうですね。そうなると罠を仕掛ければ良いのですが……」  


 零夜は真剣な表情で空を見上げ、ワイバーンを睨んだ。その直後、別のワイバーンが突進してきた。一行は素早く回避し、それぞれが地面に着地する。ワイバーンは中型モンスターで、レベルは15程度。レベル10の零夜達にとって、かなりの強敵だ。


「罠を仕掛ける技術があるのは誰もいないし……こうなると攻撃を当てて体力を減らす必要があるかもね」

「ええ。ある程度ダメージを与えたら、すぐにマジカルハートで終わらせましょう!」

「「「了解!」」」  


 日和が状況を分析し、零夜が攻撃を提案。倫子達も声を揃えて頷き、ワイバーンとウルフへの反撃を開始した。


「ワイバーンについては私に任せて! スパークショット!」  


 日和は二丁拳銃を構え、雷の魔法弾を連続で放つ。弾丸がワイバーンに命中すると、電撃が体を走り抜け、麻痺状態に陥ったワイバーンが次々と墜落し始めた。


「ワイバーンが墜落している今がチャンス! マジカルハート!」  


 倫子はすかさず動いた。両手でハートを作り、光線を放つと、三匹のワイバーンに直撃。彼らはスピリットとなってバングルに吸い込まれた。


「モンスターを仲間にする事ができたわね。私も負けられないわ!」  


 アイリンは目を細め、赤い昆を手に召喚した。猫のようなしなやかさでクルクルと昆を回し、戦闘態勢に入る。昆にはオーブが埋め込まれており、拳と同じく武器を変化させる能力を持つ。彼女はツンとした声で言い放つと、残りのモンスターに視線を移した。


「攻めるなら今! 風神乱舞!」  


 昆に風のオーラが宿り、アイリンが一気に突進。強烈な連続打撃がウルフとワイバーンを襲い、三匹のウルフと残りのワイバーンが倒れ、金貨と素材に変化した。


「よし! ここにいるモンスターは無事に倒したわ!」


 アイリンは昆を振り上げ、ウインクで勝利をアピール。倫子達も安堵の笑みを浮かべたが、クエストはまだ終わっていない。ゴーレムを倒すか仲間にしなければ、真のクリアとは言えないのだ。


「金貨と素材を回収したら、先に進みましょう。後でモンスターの素材を入れて自らの武器をパワーアップさせないと」

「手に入れたのはワイバーンの鱗、ウルフの毛ですからね。色々試してみましょう」  


 倫子の提案にアイリンと日和が同意し、地面に散らばる金貨と素材を回収し始めた。武器を強化したいという思いが強く、素材を一つも見逃すつもりはない。


「武器をパワーアップさせたい気持ちは分かるが、ここまで本気になるのはどうかと思うな……」

「ええ……ですが、その事を彼女達に言えば殺されますので、ここは黙っておきましょう……」  


 零夜とヤツフサは呆れ顔で倫子達を見つめた。ヤツフサの尻尾が軽く揺れ、彼もまた彼女達の熱意に圧倒されているようだ。ツッコミたい気持ちはあるが、逆にお仕置きを受ける可能性を考え、二人は黙ることにした。


「よし! 素材と金貨も回収したし、すぐにゴーレムのいる場所へ向かいましょう!」

「仲間にしてもクエストクリアですし、昇級するには必ずクエストクリアしないとですね」

「そうと決まれば早速向かいましょう!」  


 倫子達は回収を終え、意気揚々とゴーレムのいる場所へ向かい始めた。零夜とヤツフサも後に続き、試される戦いが目前に迫っていることを感じていた。

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