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第27話 ベルの新たな決意

 零夜たちはベルを仲間に加え、目的であるGブロック基地を目指して進んでいた。

 バイダル平原を歩む中、突如としてモンスターの群れが襲い掛かってきた。鋭い牙を剥くウルフ、巨体を揺らすミノタウロス、そして空を切り裂くワイバーンの咆哮。しかし、零夜たちは冷静沈着に立ち回り、次々と敵を撃破していく。刃が風を切り裂き、魔法の光が闇を照らす中、彼らの連携はまるで一つの生き物のように息づいていた。

 更に倫子がマジカルハートを輝かせると、リトルペガサス、ウルフ三匹、ミノタウロスがその力に引き寄せられ、仲間として加わることに成功した。戦力が一気に増強され、空気が勝利の熱気に満ちていく。


「よし! これでレベルも上がったんじゃない?」

「早速確認してみます!」  


 倫子はガッツポーズを決め、自身の成長を実感しながら目を輝かせる。日和も頷き、バングルの珠を軽く押すと、透明なウインドウが目の前に浮かび上がった。零夜と倫子も同様にバングルを操作し、それぞれのステータスが鮮明に映し出される。


東零夜あずまれいや

レベル20

職業:忍者

武器:忍者刀2本、手裏剣、苦無、火薬玉

スキル:隠密行動、変化術、属性忍法、自動回復術、モンガルハント、跳躍力

使用可能武器:毒刃

所持モンスター娘:ライラ(ヴァルキリー)  


藍原倫子あいはらりんこ

レベル20

職業:オールラウンダー

武器:ウィザードグローブ

スキル一覧:属性攻撃、ガードバリア、武器・モンスター召喚、料理、不屈の心、モンスター融合・進化魔術

所持モンスター:スライム×10、ゴブリン×10、ツノラビ×10、ファルコス×10、リザードマン×3、ウルフ×5、ワイバーン×3、ゴーレム、リトルペガサス、ミノタウロス  


有原日和ありはらひより

レベル20

職業:ハンター

武器:二丁拳銃、大剣

スキル:属性攻撃、ヒーリングソング、回復魔術、裁縫、不屈の心

使用可能武器:ワイバーンガバメント  


「全員20に上がっているわね。これなら悪鬼との戦いも大丈夫そうね」

「ええ。私もステータスは大丈夫なのか心配したけど、それなら異常ないと感じているわ」  


 ステータスを確認した零夜たちの様子を、アイリンとベルが静かに見守る。二人は安堵の笑みを浮かべていたが、その裏には微かな緊張が隠れていた。もしレベルが20に届いていなければ、次なる敵との戦いで命を落とす危険すらあったかもしれないのだ。


「因みに私のレベルはこのぐらいかな?」  


 ベルが軽い口調で呟き、右手首の赤いバングルに触れると、彼女専用のウインドウが現れる。零夜たちのバングルとは異なり珠はないが、その機能は遜色ないどころか、さらに洗練されたものだった。画面に映し出されたベルのステータスに、一同の視線が集中する。


ベル

レベル100(MAX)

職業:オールラウンダー

武器:ロングアックス、ハンマー

スキル:属性攻撃、魔術全般、蘇生術、料理、裁縫、誘惑、抱擁力、特殊建築  


「凄い! レベル100じゃない!」

「ベルもアイリンと同じくこんなに強かったんだね……」  


 倫子と日和は目を丸くし、驚愕の声を上げた。零夜、ヤツフサ、アイリンも同様に息を呑み、ベルの圧倒的なステータスを前に言葉を失う。レベル100――それはこの世界で到達可能な限界であり、彼女がどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたかを物語っていた。


「こう見えても元S級として活躍しているからね。あなたたちの仲間になった以上、またギルドで働かないと!」  


 ベルは母親らしい温かい笑顔で右目をウィンクし、力強くガッツポーズを決める。彼女はかつてギルドでS級戦士として名を馳せていたが、バルダとの結婚を機に引退していた。しかし家族を失い、リキマルの襲撃を経験した今、再び戦場に戻る決意を固めていたのだ。


「その方が死んだ家族も喜ぶと思うな。あと冒険者として復帰する前に、必要な物はあるのか?」

「あるわ。今から家に向かうから付き合ってね」  


 零夜の問いにベルは即答し、足早に自宅へと向かい始める。その背中を見つめながら、零夜たちも彼女を追うように歩き出した。だがその時、空に不穏な影がちらつき、一瞬だけ風が冷たく吹き抜けた。誰もが感じた――これから先、何かが待ち受けている予感を。


 ※


 ベルの家に到着した時、バルダたちの遺体はすでに消えていた。死後わずか数分で光の粒となり、空へと溶けていったのだろう。家の周囲には静寂が広がり、どこか寂しげな空気が漂っていた。


「遺体が無くなっているという事は……既に消滅したみたいだな……」  


 日和に抱かれたヤツフサが小さな体で真剣な表情を浮かべる。零夜たちは寂しそうな目で地面を見つめていたが、立ち止まる時間はない。Gブロック基地への道を進むため、ここで悲しみに浸るわけにはいかなかった。


「俺たちはバルダたちのお墓を作るが、ベルはどうする?」

「私は家族の遺品を整理しておくわ。すぐに終わるから、待っててね」  


 ベルは決意を込めた声で答え、家の中へと消えていく。室内は平凡な家庭そのものだった。リビングには家族の笑い声が響いていたであろう暖炉が、各自の部屋には生活の痕跡が残されていた。しかし、今はもうその温もりは感じられない。


「家族が死んだ以上はここには居られない。その未練を断ち切る為にも……作業を終わらせる!」  


 ベルは母親らしい強い眼差しで呟き、遺品整理に取り掛かる。家族の衣服、本、思い出の品々――それらを次々と片付けながら、彼女の心は過去と未来の間で揺れていた。作業は驚くほど迅速に進み、まるで彼女の決意が時間を加速させているかのようだった。


 ※


「皆、お待たせ!」  


 全ての整理を終えたベルが姿を現す。バルダたちの墓を完成させた零夜たちの前に立つ彼女の顔は、清々しさと前向きな笑みに満ちていた。


「もう大丈夫なの? 家族の遺品の整理で悲しい思いをしていたんじゃ……」

「ううん。私は既に前を向く事を決意したし、家族も私が冒険者に戻る事を望んでいるからね。心配しなくても大丈夫だから!」  


 倫子の心配そうな声に、ベルは優しい笑顔で応える。心の中では家族との思い出が残っているかも知れないが、今は前に進む事を強く決意しているのだ。

 その言葉に倫子たちは安堵の息をつき、彼女の強さに改めて感嘆していた。


「後は墓参りしておかないとね。死んでしまったバルダたちの魂を成仏させる為にも」  


 ツンデレ気味に照れながら提案するアイリンに、全員が頷く。バルダ、カプル、メイラの墓前に立ち、静かに黙祷を捧げる。自分たちにできることはこれしかないが、それでも家族は感謝していると信じていた。


(バルダ、カプル、メイラ……私はS級冒険者に戻り、零夜たちと共に新たな道に突き進むわ。だから……天国からずっと見守っていてね)  


 ベルは心の中で家族に語りかけ、目を閉じる。彼女の決意は揺るぎなく、今後は零夜たちと共に未来を切り開く覚悟だった。

 黙祷が終わり、皆が立ち上がる中、ベルは遺品をバングルに収納し終えていた。だが、目の前に残る家はどうするのか。


「家も収納しておくわ。このまま放っておく事ができないからね」

「へ? 家も収納できるの!?」 


 ベルの言葉に倫子たちが驚愕する中、彼女はさらりと頷く。道具ならともかく、家そのものを収納するなど想像もつかない。むしろあり得ないと言った方が良いだろう。


「ええ。ハルヴァスでは家も収納できるし、特殊建築で家と家を融合したりする事が可能なの。地球ではできない事が当たり前にできるからね」

「ま、マジかよ……」  


 アイリンが少し得意げに説明すると、零夜たちは呆然とするしかなかった。ハルヴァスの文化は彼らの常識を超え、未知の世界への扉を開く鍵のようだった。するとベルは家の周囲に手を翳し、粒子化させると一瞬にしてバングルに収納してしまう。


「これでよし。さあ、先に進みましょう」

「お、おう……」  


 ベルは満足げに笑い、零夜たちを促す。彼らは苦笑いを浮かべつつも、Gブロック基地へと進み始めた。だがその時、ベルがふと立ち止まり、後ろを振り返る。そこにはバルダ、カプル、メイラの墓が静かに佇んでいた。彼女の瞳に寂しさが宿り、微かな笑みが浮かぶ。


(さようなら、三人共。今まで一緒にいてくれてありがとう)  


 心の中で別れを告げ、ベルは零夜たちの元へと駆け出す。その背中を、太陽の光が墓を照らし、まるで家族が見送っているかのように輝かせていた。

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