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第28話 覚醒への道

 零夜たちはバイダル平原を歩きながら、Gブロック基地へと向かっていた。もう少しで基地に辿り着く距離だ。足元の草が風に揺れ、空には不穏な雲が広がり始めていたが、彼らの瞳に宿る決意は微塵も揺らいでいない。  


「もう少しでGブロック基地だ。しかし、コルマ、リキマルを倒しても、マーク、ベック、マキシを倒さなければ復讐は終われない」

「零夜の言う通りだ。特にマキシは手強いので、今のままでは苦戦を強いられる。今のままでは返り討ちにされるだろう」  


 零夜の言葉にヤツフサが頷きつつ、鋭い警告を発する。灰色の毛並みが風にそよぎ、小柄な体から放たれる眼光が仲間たちを貫いた。彼の声には切迫感が滲み、まるで迫り来る試練を予見しているかのようだ。零夜たちもその視線に真剣に応え、頷き合う。

 一部覚醒を果たしたのはコルマを倒した日和だけで、彼女はベアハッグで締め上げられたピンチを、自ら電流を放って切り抜けた。あの鮮烈な記憶が、今も仲間の胸に刻まれている。  


「一部覚醒しているのは日和ちゃんだけとなると、私たちも一部覚醒をしておかないとね」

「ふん、そんなの当たり前でしょ。私だって負けるつもりはないんだから」  


 倫子が危機感を滲ませた真剣な声で呟き、アイリンが闘志を剥き出しに言い放つ。彼女の尻尾がピンと立ち、不安と燃えるような意志が混じった表情が浮かんでいた。日和に先を越された悔しさと、マキシに敗れるかもしれない恐怖が二人を突き動かす。  


「俺も今のままでは絶対に駄目だ。リキマルとの戦いは一部覚醒せずに勝っていたが、今のままでは全然駄目だ。早く一部覚醒しておかないと……」  


 零夜も自らの力不足を痛感し、拳を握り潰すほどの決意を固める。リキマル戦ではど根性と鋭い見切りで勝利したが、マキシの圧倒的な力には及ばない。返り討ちにされる未来が脳裏を過り、彼の背筋を凍らせた。  


「確かにそうね。あなたたちのパワーを上げる事から始めましょう。まずは零夜だけど、正々堂々と戦うスタイルが問題だからね……」  


 ベルが低く響く声で提案する。その声は地面を震わせるほどの迫力を帯び、零夜たちも即座に同意した。

 特訓が始まる——まずターゲットは零夜だ。彼の素早さと諦めの悪さは武器だが、正義感ゆえに忍者らしい不意打ちを嫌う。それが闇の力を引き出せない壁だった。  


「俺は悪い事をするのが一番苦手だからな……けど、生き残る為ならどんな手を使っても構わないとなると、不意打ち攻撃を覚える必要があるだろう」  


 零夜は苦々しく呟きつつ、一部覚醒のためには手段を選ばない覚悟を決める。不意打ちの技を習得すべく実戦に移ろうとしたその瞬間——ズシンズシンと地面が揺れ、重々しい足音が響き渡った。  


「今の音……向こうからよ!」  


 ベルが鋭く叫び、音の方向を睨む。平原の彼方から巨大なオーガ族の戦士たちが姿を現した。巨体を揺らし、棍棒や斧を振りかざすその数は約三百。首に巻かれた血のように赤いスカーフには、悪鬼のエンブレムが不気味に輝いている。  


「悪鬼の手先か。相手にとって不足はない!」  


 零夜は迷わず忍者刀を握り、風を切り裂く勢いでオーガの群れへ突進した。三百もの敵を前に無謀にも見えるが、彼の瞳には確信が宿っていた。  


「素早く動いて敵を倒す……闇隠れ!」  


 バングルの珠が暗く輝き、漆黒の霧が噴き出す。霧は瞬時に広がり、オーガたちを飲み込んだ。視界を奪われたオーガたちは棍棒を空振りし、混乱の中で咆哮を上げる。そこへ零夜が疾風のように飛び込み、忍者刀が閃くたび、オーガが光の粒となって弾け飛び、草原に金貨と角を残して消滅した。血飛沫すら霧に溶け、不思議な静寂が戦場に漂う。  


「バングルが光り輝いているわ。零夜なら大丈夫ね」  


 ベルが左目をウインクし、零夜の覚醒成功を確信する。闇隠れを繰り出した今、彼に死角はないように見えた。

 零夜も自身の力を発揮した事を実感しているが、今は戦闘中なので、引き続き戦いに集中し始めた。


「零夜君が成功したのなら、私だって!」  


 倫子は零夜に負けられないと闘志を燃やし、バングルを掲げる。光が迸り、スピリットがバングルから放出。ウルフ、ファルコス、ゴーレム、ミノタウロス、リザードマン、ワイバーンが次々と召喚され、戦闘態勢に入る。  


「まずはウルフとファルコスを融合! モンスターフュージョン!」  


 倫子の叫びにバングルが眩しく輝き、ウルフとファルコスが渦巻くスピリットに変化。空中で交わった瞬間、轟音と共に白い翼を持つ巨狼——シルバーファルコンが誕生する。  


「そのモンスターはシルバーファルコン! 白翼狼と呼ばれていて、正義を司る狼と言われているわ!」

「シルバーファルコンか……さあ、攻撃開始!」

「心得た!」  


 シルバーファルコンが咆哮を上げ、翼を広げてオーガに突進。鋭い爪と牙が風を切り、オーガを翻弄する。切り裂かれたオーガたちは光の粒となって消え、金貨がキラキラと散らばった。  


「更にリザードマンとワイバーンを融合!」  


 倫子がさらに融合を進め、リザードマンとワイバーンが一つに。鎧を纏ったリザードマンがワイバーンに跨り、長槍を構える——リザードライダーが現れる。  


「我が名はリザードライダー! 主の為に戦う騎士なり!」  


 リザードライダーがワイバーンを駆り、空を裂いて突撃。長槍がオーガを貫くたび、光の粒が舞い上がり、敵は跡形もなく消滅した。咆哮と槍の連撃に、オーガたちは為す術もない。  


「僕たちも負けられない! すぐに急ごう!」

「ああ! 戦わずにはいられないからな!」 


 ゴーレムが巨拳でオーガを粉砕し、ミノタウロスが手に持つロングアックスで倒していく。シルバーファルコンとリザードライダーの活躍を見て、闘志に火が付いたのだろう。

 だが、地平線の彼方から増援が現れ、戦場はさらに混沌と化した。  


「私もここで負けられない! 誰も死なせない為だけでなく、皆と共に勝利を掴み取る為にも!」  


 倫子が決意を固めながらウィザードグローブに水滴を落とすと、青く輝き「アクアグローブ」へと変化。バングルの青い珠が共鳴し、一部覚醒が完成した。  

 自身の新たな武器を手に入れ、一部覚醒まで達成。倫子にとってこれ以上嬉しいことはないだろう。


「私の方も一部覚醒したみたいね。さっ、ここからが本番や!」  


 双剣を手にオーガへ飛びかかり、水流を纏った斬撃が敵を両断。切り裂かれたオーガは光の粒となって消え、水と光が混ざり合う幻想的な光景が広がった。

 その様子を見ていたアイリンは、心のなかで焦りを感じてしまう。仲間たちは一部覚醒できたのに、自分だけ置いてけぼりにされていると。しかし、アイリンは前を向いて真剣な表情をしながら、目の前にいる零夜たちに視線を移す。


(残るは私一人か……私も負ける理由にはいかないわ! 零夜たちと共に戦う為にも……あの様な思いは二度と起こさせない!)  


 アイリンが決意を固め、猫のような敏捷さで駆け出す。バングルの珠が輝き、全身に光のオーラが迸った。 それに気付いた彼女は心の中で嬉しさを感じるが、今は目の前にいる敵を倒す事に集中している。


「あれは光のオーラ……アイリンちゃんも一部覚醒したんだ!」  


 日和が歓喜の声を上げ、仲間全員が一部覚醒を果たしたことに笑顔が広がる。今いる八犬士全員が目標を達成した瞬間だった。  


「ラストは私が! 光翼連撃打こうよくれんげきだ!」  


 アイリンの叫びと共に、光の爪が無数に炸裂。オーガたちを切り裂き、最後の一匹まで全滅させた。敵は光の粒となって消え、戦場には角、牙、金貨が散乱し、静寂が訪れた。  


「これでオーガたちも倒したし、ここにいる八犬士たち全員一部覚醒したわね。お疲れ様!」  


 ベルが巨体を揺らしつつ笑顔で言う。零夜たちも達成感に満ちた笑みを浮かべていた。 まさかオーガとの戦いで全員が一部覚醒したのは予想外だったが、強くなったという実感を明らかに感じていた。


「だが、ここからが本番だ。これから向かうGブロック基地の討伐は、お前たち八犬士の実力が試される。しかし一部覚醒したお前たちなら、Gブロック基地を倒す事は可能だ。最後まで諦めずに立ち向かえ!」

「「「おう!」」」  


 ヤツフサの鋭い声に、零夜たちは一斉に応え、Gブロック基地へと駆け出した。だがその背後で、遠くの空に黒い影が広がり始める。Gブロック基地の門が軋みながら開き、マキシの哄笑が風に乗って響き渡った。平原に不穏な気配が漂う中、彼らの戦いは新たな局面へと突入するのだった……。  

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