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第29話 Gブロック基地への突入

 零夜達は目的地であるGブロック基地に到達し、真剣な表情でその外観を見つめていた。基地の建物は漆黒に塗られ、シンプルかつ無骨な軍事施設そのもの。鉄とコンクリートで固められた外壁は、まるで敵を拒絶する要塞のようだ。遠くからでも感じられる重苦しい空気と、微かに響く機械音が、彼らの心に不穏な影を落とす。


「ここがGブロック基地か……改めて見ると凄いところね……」

「この戦いこそ、八犬士としての素質を確かめる試練になる。心から覚悟しておく様に」


 アイリンは鋭い目で基地を見上げ、冷や汗を拭う仕草を見せながらも強がるように呟く。ツンデレらしい態度が滲み出ているが、その声には微かな震えが混じる。一方、ヤツフサは、灰色の毛並みを逆立て、低い唸り声と共に忠告を発する。彼の小さな体からは、獣としての鋭い気配が漂い、周囲の異常に敏感に反応していた。

 このGブロックでの戦いは、八犬士の実力を試す重大な試練であり、油断すれば命を落としかねない緊迫感が一行を包む。風が基地の外壁を叩き、まるで何かを警告するかのように不気味な音を立てていた。


「すぐ中に入るわよ。後は鍵がロックされている可能性もあり得るから、解除しておくわね」


 ベルが穏やかで母親のような口調で言うと、屈強な体を動かして扉の前に進み出る。首に掛けたカウベルが軽く鳴り響き、彼女は鋭い目で周囲を観察した。すると、扉の横にセンサーボタンを見つけ、その仕組みを瞬時に理解する。だが、その瞬間、基地のどこかから微かな振動が伝わり、一同の足元が僅かに揺れた。


「1から9までの暗証番号のシステムね。4桁の番号を入れて入力するシステムで、この番号は……分かったわ!」


 ベルは迷わず9646とボタンを押し込む。重々しい音と共に扉が開き、零夜たちは驚きを隠せなかった。扉が開いた瞬間、内部から冷たい風が吹き出し、金属の軋む音と共に何かが動き出す気配が漂う。

 ベルは手を叩きながら、このぐらいは余裕の表情を見せている。経験者としての素質があるからこそ、お手の物と言えるだろう。


「凄いな。こんな事もできるのか」

「冒険の経験があるからこそ、鍵開けも余裕でできるからね。さっ、入りましょう!」


 ベルの頼もしい笑顔に導かれ、全員が基地の中へ踏み込む。内部は冷たく無機質な軍事施設そのもので、鉄の回廊が続き、要塞のような構造が広がっていた。壁には無数の傷跡が刻まれ、過去の戦闘の激しさを物語っている。薄暗い照明が点滅し、不安定な電力供給が基地の老朽化を示唆していた。


「凄いところ……油断するとやられるから、用心して行かないとね」

「うん。それにしても基地の中ってこうなっているんだ……」


 倫子と日和は目を丸くして周囲を見回す。だが、戦闘員が潜んでいる可能性を考えれば、迂闊に動くのは危険だ。遠くから聞こえる足音と、金属が擦れる音が、彼らの神経をさらに研ぎ澄ませる。誰もが皆緊張しているのが丸分かりだ。


「ここは用心しながら進むのみだ。構造については3階建てである事も確認している」

「となると、ボスは恐らく三階にいるという事になりますね。一刻も早くその場所に向かいましょう」


 ヤツフサが鋭い牙を覗かせながら説明すると、零夜は決意を固めた目で頷き、三階を目指すことを決める。倫子たちも同意し、一行は基地の中を駆け出した。だが、その背後で、暗闇の中から何かが彼らを見つめているような気配が漂っていた。


 ※


 一階では戦闘員たちが訓練に励んだり、室内で授業を受けたりしている姿が目に入る。零夜たちは息を潜め、警戒しながら二階への階段を探す。訓練中の戦闘員たちの動きは機械的で、どこか人間離れした雰囲気を放っていた。しかし心の中では見つからないかの不安が漂っている以上、安易ではない事は確実だ。


「二階への階段はこの辺りには無いみたい。あるとしたら別の場所じゃないかな?」


 ベルが真剣な顔で推測する中、倫子が前方に視線を移し、あるものを見つける。それは二階へ続く階段だった。だが、その階段の周辺には奇妙な青い光が点滅し、何か仕掛けがあることを示唆していた。


「二階への階段があった! 行くなら今しかないよ!」

「おお! これはラッキーだな」


 零夜達が階段へと急ぐその瞬間、けたたましい警報が鳴り響く。敵は彼らの侵入に気付いており、わざと泳がせていたらしい。階段の青い光が一斉に点灯し、罠が作動する前兆のように見えた。


「こんな時に警報だなんて……もしかしてバレていたのかな?」

「そうかも知れません。こうなると戦うしか方法はないみたいだな!」


 零夜たちが戦闘態勢を取った直後、戦闘員たちが一斉に姿を現す。敵は八犬士の潜入を察知して待ち構えていが、彼らの目には感情がなく、まるでプログラムされた機械のようだった。

 しかし零夜たちはここで一歩も引くつもりはない。既に戦う覚悟は心の中で決めているからだ。


「まさかバレているとはね……けど、私達はこんなところで引かないから!」

「それもそう! 皆、攻撃開始!」


 アイリンが猫のような身軽さで跳び上がり、鋭い爪を構えながらツンとした声で叫ぶ。倫子はバングルからモンスターを召喚し、ゴブリン、スライム、ツノラビ、リザードマン、シルバーファルコン、ファルコス、ウルフ、ミノタウロスが次々と実体化。咆哮を上げて戦闘員に襲い掛かる。

 一方、ヤツフサは敏捷さで身を翻し、安全な場所に隠れたが、その鋭い目で敵の動きを冷静に観察していた。零夜たちなら勝てると心の中で信じながら。


「姐さんの為なら、全力で駆け出すのみ!」

「我々も立ち向かうのみだ! 攻めるなら今しかない!」

「援護は任せて!」


 モンスターたちの猛攻が始まり、戦闘員たちは次々と光の粒となって消滅していく。ゴブリンが短剣を振り上げると、戦闘員の体が輝きを放ち、スライムの体当たりで敵が散り散りに分解し、リザードマンの槍が触れた瞬間、光の粒子となって消えていく。ミノタウロスの突進が戦闘員を包み込むと、彼らは一瞬で輝く塵と化した。

 何名かがボスの元へ報告しようと逃げ出すが、ベルはそれを許さずに駆け出していく。


「そうはさせないわ! アックスブレイク!」


 ベルがカウベルを鳴らし、ミノタウロスの怪力を込めた一撃を放つ。巨大な斧が逃げる戦闘員たちを切り裂き、彼らは抵抗する間もなく、光の粒となって消滅。その光はまるで星屑のように美しく、戦場に一瞬の静寂をもたらした。


「ベル、お見事よ!」

「大した事ないわ。それよりも戦闘員の数を減らしましょう! これ以上騒動を起こさない為にも!」


 倫子に褒められたベルは穏やかに微笑むが、すぐに鋭い眼光で残りの敵を見据える。母親のような包容力と戦士の覚悟が同居した姿に、一同の士気が高まる。しかし油断は禁物なので、焦らずに立ち向かうことが重要となるだろう。


「私も頑張らないと! ロックパレット!」


 日和が二丁拳銃のオーブに岩石を浸透させると、武器が変形し、「ガトリングロックガン」となる。轟音と共に岩属性の弾丸が連射され、戦闘員たちに直撃する。弾丸が命中するたび、彼らは光の粒となって消え、壁にぶつかった粒子がキラキラと輝きながら落ちていく。その様子を日和は一瞬綺麗だと感じるが、今は戦闘中だという事を自覚して懸命に立ち向かう。


「皆頑張っているし、私も負けられないわ! 煉獄演舞!」


 アイリンも負けじと拳に炎を宿し、俊敏な動きで舞うように戦場を駆ける。炎の拳が戦闘員に触れると、彼らは炎に包まれることなく、光の粒となって消滅する。彼女のツンデレな態度は影を潜め、S級戦士としての実力が炸裂する。


「俺も一気に攻めさせてもらう! 毒牙!」


 零夜が毒刃を手に持つと、紫色の毒気を纏った刃が戦闘員を切り裂く。刃が触れた瞬間、敵は光の粒となって消え、最後の一人が消滅した瞬間、一階の戦闘は終結した。


「よし! 私達の大勝利ね!」


 アイリンが指を鳴らし、ウインクを決めると、皆が勝利の喜びを分かち合う。倫子と日和は抱き合い、零夜とベルはハイタッチを交わす。自分たちが強くなっていると確実に実感しつつ、楽勝ムードで浮かれているだろう。

 だが、ヤツフサが隠れ場所から現れ、冷静に警告を発した。


「取り敢えずは一階の敵は倒したが、ここにはマキシ、マーク、ベックの三人はいなかったな」

「ええ。何処にいるのか気になるけど……取り敢えず先に進みましょう!」


 倫子の合図に全員が頷き、二階へと向かう。楽勝ムードをしている場合ではないので、気を引き締めて立ち向かう決意を固め始めた。

 復讐者である三人を倒すため、ここで立ち止まるわけにはいかないが、新たな脅威が忍び寄っていることを、彼らはまだ知らなかった。


 ※


 二階に辿り着くと、そこには異様な光景が広がっていた。プロレスリングが設置されているのだ。悪鬼の基地にこんなものがある理由は謎となっているが、リングの真上にはスポットライトが設置されていて、リング中央を照らしていた。


「プロレスリング……どうやら俺たちを待ち構えているみたいですね……」

「そうやな……そういう事ならウチ等が行くしかないみたいやね」


 零夜の言葉に倫子と日和が同意し、リングへと歩を進める。ここがプロレスの戦場なら、本職と経験者である三人が挑むしかない。


「私も行くわ! アンタたちを見ると放っておけないからね! 心配している理由じゃないから!」

「私も協力するわ!」


 アイリンがツンデレ全開で叫びつつ、猫のような跳躍でリングに飛び乗る。ベルも決意の表情で続き、ミノタウロスの力強い足音が響く。すると、向こうの扉から重い足音が近づき、マキシ、ベック、マークの三人が姿を現した。


「久しぶりですね、皆さん。まさかここで会えるとは……」

「ついに来たか……マキシ! ベック! マーク!」


 マキシの邪悪な笑みに、零夜は鋭い目で応じ、三人の名前を叫ぶ。倫子たちもまた、マキシたちを睨みつけ、戦いの火蓋が切られようとしていた。

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