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第32話 驚愕の真実

 零夜とマキシの戦いが始まりを告げられ、因縁対決もラストスパートに突入する。

 二人の戦いは時間が経つごとに激しさを増し、お互い一歩も引かずに立ち向かっている。リング上でのこの勝負はどちらが勝ってもおかしくないほどの接戦だが、僅かに零夜がリードしているように見えた。

 観客はいないが、配信視聴者からの歓声がスピーカーから響き渡り、マキシを倒してほしいという熱い声援が零夜を後押ししている。


(なるほど。彼もまた、復讐の力と諦めない心でここまで来たのか。なら、私もここで本気を出すとしよう!)  


 マキシは心の中でそう予測すると同時に、強烈なパンチを零夜に繰り出す。だがその拳は零夜に手首をガッチリ掴まれ、動きを封じられてしまった。


「その程度じゃ俺は倒せないからな」

「禁忌の力はこんな物ではありませんからね。剛腕張り手!」

「ぐほっ!」  


 マキシが放った強烈な張り手が零夜の顔面に炸裂し、彼はプロレスさながらに勢いよく宙を舞い、リングの端まで吹き飛ばされてしまう。禁忌魔術で強化された腕から繰り出される一撃はすさまじく、紫色の霧が衝撃に合わせて広がり、リング全体が振動した。


「まだだ! 俺はここで倒れない!」  


 零夜は目を見開き、空中で華麗に回転しながらコーナーポストに着地。まるでプロレスのトップロープに飛び乗るような動きで、観客ならずとも息を呑む瞬間だ。復讐を果たすため、そして諦めない意志を貫くため、ここで倒れるわけにはいかない。

 配信視聴者たちもその姿に安堵の息をつき、スピーカーから歓声が再び沸き上がる。


「大丈夫みたいだけど、あのマキシという奴は手強いみたいね……」

「ええ。禁忌魔術で強化されていますし、効果時間を過ぎたらどうなるのか気になりますね……」  


 リングサイドで戦況を見守る倫子と日和は、冷や汗を流しながらマキシに視線を移す。禁忌魔術で鍛え上げられた技術は見事だが、その代償として弱体化のリスクも孕んでいる。


「さあ、次は誰が行きますか? 行かないのならこちらから参ります!」  


 マキシが腕を振り回し、リングを揺らすほどの迫力で攻撃を仕掛ける。連続パンチが零夜を襲い、彼は素早いフットワークで回避を続けるが、次第に防戦一方に追い込まれていく。鋼のような肉体を持つマキシに対し、零夜の拳は弾かれ、逆に手を痛める始末。このままではプロレスの「絶体絶命カウントダウン」のように、零夜の敗北も時間の問題だ。


「まずい! このままでは零夜がやられるのも時間の問題だ!」

「そんな! 早くあの禁忌の力を……あっ! それなら私にいい案があります!」  


 日和に抱かれているヤツフサが、鋭い牙をむき出しにしながら吠える。日和も冷や汗を流しながら策を模索する中、突然閃いたアイデアに目を輝かせ、倫子とヤツフサに視線を向ける。どうやらこの危機を打破する秘策があるらしい。


「何か方法があるの?」

「あの禁忌の力……もしかすると時間が経てば弱体化する方法もありますが、それよりも早く打ち消す方法があります!」  


 日和の説明に、倫子とヤツフサが食いつく。禁忌の力を攻略できるなら、それに賭けるしかない。


「その作戦は?」

「実は……」  


 日和が二人に作戦を耳打ちすると、倫子とヤツフサは納得したように頷き合い、即座に行動を開始する。この状況を打破するには、そうするしか方法は無いだろう。


「何をするか分かりませんが、終わらせてあげましょう!」  


 マキシがリング中央で力を溜め、プロレスのフィニッシュムーブさながらに零夜へ強烈なタックルを繰り出そうとする。零夜がそれをギリギリでかわした瞬間、日和が銃を構え、マキシに照準を合わせる。


「喰らえ! キャンセルバレット!」  


 銃口から放たれた弾丸がマキシの胸に直撃し、爆発と共に彼の身体が急激に萎んでいく。あっという間に筋肉隆々の肉体はヒョロヒョロになり、禁忌の力を失った哀れな姿がリングに残された。


「馬鹿な……! 私の身体が……」  


 マキシは信じられない表情で自らの手を眺める。そこに零夜が素早く間合いを詰め、日和が余裕の笑みを浮かべながら解説を加える。


「今放った弾丸は、魔法効果打ち消しを持つキャンセルバレット。これを喰らったら魔法効果打ち消しは確定で、弱体化も避けられないわ!」

「そ、そんな……!」  


 マキシがショックで硬直する中、零夜は一気に駆け寄り、後楽園襲撃の因縁を終わらせるべく渾身の一撃を放つ。


「マキシ! 殺された皆の怒りを思い知れ! 隼蹴りはやぶさげり!」

「ガハッ!」  


 零夜の膝蹴りがマキシの顎を捉え、彼はリングに背中から叩きつけられ、派手にダウン。ゴングが鳴り響き、零夜たちの勝利が確定する。スピーカーからは配信視聴者の大歓声が響き、零夜は拳を掲げて応える。復讐の第一幕が、ここで幕を閉じた。


「この私が……こんなところで……何を……間違っていたのだろうか……」  


 マキシは天井を見上げ、茫然と呟く。だが零夜は冷たく見下ろし、核心を突く質問を投げかける。


「後楽園ホールでの襲撃を起こしたのが原因だよ。その黒幕はお前なのか?」

「違う……私は実行役にしか過ぎない。黒幕は……バンドー様だ……」  


 真実を吐いたマキシは、光の粒となって完全に消滅し、リングに大量の金貨を残す。光の粒が星屑のように輝きながら空中に溶けてしまい、キラキラと輝いていた。

 倫子がすかさずリングに上がり、金貨を拾い始める。一見戦いが終わりを迎えたかに思えたが、真の黒幕「バンドー」の存在が明らかになり、復讐の道はまだ続く。


「黒幕が分かったが、ここからが最大の戦いとなる。零夜は覚悟を決めているのか?」  


 日和に抱かれたヤツフサが、鋭い目つきで零夜を見つめる。彼は前を見据え、決意を固めていた。


「ええ。黒幕がこのボスであるバンドーだと分かった以上、奴に対して立ち向かうのみです! これ以上犠牲者を出さない為にも……俺は奴を倒しに向かう!」  


 零夜が拳を打ち鳴らすと、倫子と日和も真剣な表情で頷く。真の黒幕・バンドーとの戦いは避けられず、彼を倒す覚悟は揺るがない。


「そうだな。しかし、バンドーはマキシと違ってそう簡単にはいかない。その事を肝に銘じて置くように」  


 ヤツフサが低い唸り声と共に忠告すると、零夜たちは息を呑む。だが覚悟は既に決まっているので、問題ない。


「アイリンとベルは今頃、奴隷たちを救出しに向かっているわ。私たちも急ぎましょう!」

「はい!」  


 倫子と日和が奴隷たちを助ける為、牢獄へと動き出す。今頃アイリンは牢獄に捕まっている奴隷たちを治癒していて、ベルは彼女たちに料理を作りながら体力を回復させているだろう。


「彼女たちについてだが、こういう事に関しては行動が早いな……」

「俺も同感ですが、戦いにも行動を早くすれば良いと思いますね……」  


 ヤツフサと零夜は呆れつつも、急いで倫子たちの後を追う。

 後楽園の襲撃実行犯・マキシは倒れたが、真の黒幕はGブロック基地隊長のバンドーと判明。零夜たちの復讐はエクストララウンドへと突入するのだった。戦いの先で待つバンドーが、ただの敵ではないことを示唆する不気味な気配が、彼らを待ち受けていた。

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