零夜たちは、悪徳貴族バンドーの卑劣な企みを叩き潰すべく、迅速に行動を開始した。セクハラを企むこの小太りで禿げ上がった男を成敗しなければ、義憤に燃える彼らの行動に意味はないと判断したのだ。
最初に立ち向かったのはアイリン。ツンデレな性格を隠しきれぬ怒りの表情を浮かべ、バンドーに襲いかかる。セクハラされそうになった怒りが心の中に宿っている以上、容赦なく蹴り飛ばそうと考えているのだ。
「セクハラをしようとした報いを思い知れ! はっ!」
「ぐほっ!」
アイリンの鋭い蹴りが、汗まみれのバンドーの顔面に炸裂。鈍い音と共に、彼は仰向けに倒れ込み、背中を床に叩きつけた。小太りな体が床に響き渡るほどの衝撃を受け、脂汗を浮かべて呻く姿は見るに堪えない。
「まだまだこれからよ! 私のプロレス技を喰らいなさい!」
アイリンは容赦なくバンドーを無理やり立たせると、猫のような身軽さで跳び上がり、禿げた頭を両足でがっちり挟み込む。そのままバク宙のような勢いで回転し、華麗かつ凶暴な技を繰り出した。
「あの技はもしかして!」
「その通り! フランケンシュタイナー!」
零夜が技を見抜いて叫ぶと、アイリンはニヤリと笑って応え、バンドーの脳天を硬い床に叩きつける。衝撃音が響き渡り、空気が一瞬震えた。
アイリンは初めてのプロレス技が見事決まり、思わず笑みを浮かべている。初めて実践した技が成功出来て、心から良かったと思っているだろう。
「ぐはっ!」
勢いよく床に叩きつけられたバンドーは、立ち上がるも足元がふらつき、脂ぎった顔に苦悶が浮かぶ。アイリンは冷たく見下ろし、素早く離れて日和にバトンタッチした。
「それじゃ、思う存分やっちゃって!」
「任せて! これ以上好き勝手はさせないからね!」
アイリンからバトンを受けていた日和は、素早くバンドーの背後に回り込む。そのまま両腋の下に腕を差し入れ、後頭部で手を組んで羽交い締めに固めた。小太りな体がじたばたと暴れるが、逃げ場はない。
「何をする気だ!? 止めろ……!」
「もう遅い! フルネルソンバスター!」
日和はバンドーを左サイドに担ぎ上げ、右腕のクラッチを解きながら体重をかけて背中から床に叩きつける。鈍い衝撃音が響き、床に微かな亀裂が走るほどの威力だった。
「がはっ!」
背中に激痛が走り、バンドーは片膝をついて立ち上がるが、もはや限界が近い。そこへ日和が疾走し、鋭い踵落としを放つ。後楽園の人達を殺した罪を償う為にも、この攻撃を外す理由にはいかない。
「女の怒りを思い知れ! Finally!」
「あがっ!」
怒りに満ちた踵落としが炸裂し、バンドーは再び倒れ込む。しかし攻撃は止まらず、日和は倫子にタッチした。その様子だとまだまだ攻撃は終わらないと言えるだろう。
「さてと、次はウチの番! やるからには本気で行かへんとな……」
倫子は鋭い眼光でバンドーを睨みつけ、駆け出しながら二段蹴りを繰り出す。彼女の得意技「新人賞」だ。跳躍力と正確さが融合した一撃が、バンドーの腹に突き刺さった。
「まだまだ! 最大奥義で終わらせたる!」
しかし倫子の攻撃は終わらない。後楽園の皆の痛みはこんな物ではないので、更に痛めつける必要があるのだ。
倫子はバンドーを前かがみにさせ、左腕を掴んで肩に右脚を絡ませ、右腕をコブラツイストの要領で固め、右手で天を指す。
「いきます!」
倫子が高らかに宣言した瞬間、右腕をバンドーの股下に回し、自分ごと前方に大きく空中回転。凄まじい勢いで彼を床に叩きつけた。
「がは……!」
「ケツァルコアトル」が炸裂し、バンドーは床に這うほどのダメージを負う。体力は残り三分の一に落ち込み、戦闘不能も時間の問題だ。倫子は笑顔でベルにタッチした。
「ベル。あなたもお願い!」
「ええ! ブルホーンスピアー!」
「ぐほっ!」
ベルが怒りを込めながら闘牛のように突進し、角と筋肉が織りなす強烈なスピアータックルでバンドーを吹き飛ばす。小太りな体がボールのように壁を転がり、連続で激突。体力はあと一撃で尽きる寸前だ。
「ラストお願い! 因縁を終わらせて!」
「任せてくれ!」
ベルの合図に零夜がグッドサインで応え、素早い回し蹴りをバンドーに叩き込む。さらにボディスラムの体勢で持ち上げ、高く跳躍。そのまま急降下しながら止めを刺そうとしていた。
「バンドー! お前の野望はこれで終わりだ! デッドファンタズマ!」
「ごはっ!」
零夜の新技であるプロレス技が炸裂し、頭から地面に叩きつけられたバンドーは完全ノックアウト。彼は戦闘不能となり、その場に崩れ落ちてしまった。
零夜はバンドーから離れたと同時に、安堵のためいきをついていた。これでようやく因縁が終わったと実感しているだろう。
「なんとか……倒したみたいだな」
「ええ。けど、まだ消滅しないなんておかしいわね。何か裏が……」
ベルが倒れているバンドーを見ながら不審に思い、零夜たちも気になる表情で彼を見つめる。普通なら倒れて消滅する筈なのに、消えないなんておかしいと感じているだろう。
すると倒れたはずのバンドーの身体から紫色の煙が発生され、そのまま身体ごと煙に包まれる。それを見たヤツフサが鋭く吠え、警告を発した。嫌な予感がするのは確実だと判断しているだけでなく、まだ戦いは終わってないと予測しているのだ。
「まずい! あの煙は禁忌の姿になるが、とんでもない魔獣になろうとしている! 近付いたら危険だ!」
「魔獣だと!? じゃあ、下手したらこの基地も崩れるのか!?」
リザードマンの問いに答える間もなく、紫の煙がバンドーを包み込み、巨大な黒い泥人形の姿へと変貌させる。煙が晴れた瞬間、そこには凶悪なダークゴーレムが咆哮を上げていた。
「グオオオオオオオ!!」
胸を叩き、咆哮を響かせるダークゴーレム。その圧倒的な存在感に、零夜たちは耳を抑えつつ真剣な表情で対峙する。特に倫子たちはダークゴーレムの姿に怯えそうになるが、直ぐに気を引き締めて敵に視線を移していた。
「ダークゴーレム。禁忌魔獣の一人であり、圧倒的な破壊力を持つ。しかし禁忌魔獣は仲間にできないのが難点であり、倒すしか方法はない」
「なるほど。つまりこの戦いこそ、Gブロック基地でのラストラウンドという事やね」
ヤツフサの説明に倫子が頷く中、ダークゴーレムが拳を振り上げて襲いかかる。零夜たちは危機感を察しながら素早く回避し、敵に向けて反撃を開始した。
「ダークゴーレムは水や草に弱い。それならこの忍者刀で!」
零夜は忍者刀に付いたオーブに、ポーションの水滴を一滴垂らす。すると刀身に水のオーラがまとわりつき、青く輝き始めた。これが水属性の忍者刀「水龍刀」であり、強烈な斬撃の威力を持っている。
「アクアブレイド!」
水の斬撃が炸裂し、ダークゴーレムに効果的なダメージを与えるが、その巨体はびくともせず耐え続ける。一度の弱点攻撃では十分な効果を発揮せず、何度も当てなければ倒せそうにない。
「やはり今の技では効かないみたいだ。こりゃ簡単に倒せないみたいだな」
「その通りだ。禁忌魔獣はSランクの強敵と言われている。総力戦になる事を覚悟しておいた方が良い」
ヤツフサのアドバイスに零夜たちが頷いた直後、基地が突然揺れ、天井がゆっくりと開き始める。さらに壁まで次々と崩れしまい、部屋全体が外に露出した。食料や財宝が地面に散乱している異様な光景が広がり、倫子たちは唖然としながら見つめるしかなかった。
「部屋全体が丸見えになっちゃった! 何を考えているの!?」
「分からないわ。恐らく禁忌魔獣となった事で、基地が変形してステージとなっているかも知れないけど」
予想外の展開にベルが驚く中、アイリンが真剣に考えながら推測する。恐らくゴーレムになった以上、基地を変形させる必要があると判断しているのだろう。
それを聞いた零夜たちは気を引き締め直し、目の前のダークゴーレムを真剣な表情で睨みつけた。相手が手強い以上、油断せずに立ち向かう必要がある。
「奴が何を考えているのか分からないが、ここからが本番だという事は間違いないかもな!」
「この戦いこそ、Gブロック基地での真のラストバトルとなる。必ず奴を倒して因縁を終わらせるぞ!」
「「「おう!」」」
ヤツフサの号令に全員が力強く応え、ダークゴーレムに立ち向かう。Gブロック基地は緊迫感に包まれ、戦いの火蓋が切られたのだった。