漆黒の巨体を誇る凶悪なモンスター、ダークゴーレムが零夜たちの前に立ちはだかっていた。その岩のような皮膚は刃を弾き、効果抜群の攻撃を叩き込んでも、不気味な赤い目がぎらりと光り、平然と立ち続ける。確かにダメージは通っているはずだが、この怪物は尋常ではない耐久力を誇り、並大抵の攻撃では膝をつかせることすらできない。基地の中が丸見えの戦場に響く低いうなり声が、空気を重く震わせていた。
「こうなったら回避しつつ、何度でも攻撃を当てるのみだ。攻めまくってダメージを与えなければ、奴は倒れないからな!」
零夜は両手に握った水龍刀を鋭く構え、全身に力を込めて跳躍した。空中で旋風のような連続斬撃を繰り出し、ダークゴーレムの硬質な表面に火花を散らす。鋭い金属音が響き渡るが、奴は低く唸るだけで微動だにしない。その巨体がまるで嘲笑うかのようだ。しかし、他に策はないのが現状である。
零夜の額に汗が滲み、息が荒くなる中、彼は歯を食いしばって次の攻撃を準備する。最後まで諦めずに戦う信念が、どこまで通じるかがカギとなるだろう。
「これはおまけだ! エアリアルスラッシュ!」
零夜が放った強烈な斬撃が風を切り裂き、ダークゴーレムの胸部に深々と突き刺さる。鈍い衝撃音と共に黒い破片が飛び散り、一瞬だけ希望が灯った。だが、次の瞬間、傷口が蠢き、みるみるうちに修復されていく。焼け石に水とはまさにこのことだ。しかし、零夜は確信していた――どこかに仕掛けがあるはずだ。この再生能力は異常すぎる。
「アイリン、弱点察知を頼む! 倫子さんはありったけのモンスターを召喚してください!」
「任せて!」
「ええ! 皆、攻撃開始!」
零夜の号令一下、アイリンは鋭い目でダークゴーレムを睨みつけ、弱点を素早く探り始める。彼女の尻尾がピンと立ち、ツンとした声に闘志が滲む。
一方、倫子はバングルを掲げ、スピリットを解き放つ。次々と現れた召喚モンスターたちが咆哮を上げ、ダークゴーレムに襲い掛かった。戦場は一気に混沌と化し、土煙と咆哮が交錯する。
「同じ大きさなら、戦いやすいかもね! ブレイクパンチ!」
倫子の召喚した巨大なゴーレムが、拳を振り上げてダークゴーレムの顔面に渾身の一撃を叩き込む。轟音と共に、凶悪な巨体がよろめき、後方へ吹き飛んだ。大きな敵には同等の力をぶつけるのが効果的で、ダウンを奪う可能性すら見えてきた。零夜の目が鋭く光る。
「ここは私も行くわ! ハンマーブレイク!」
「グォッ!」
ベルが雄々しく叫びながら跳躍。彼女の手には長柄斧ではなく、巨大なハンマーが握られている。母性溢れる表情とは裏腹に、戦士としての剛腕が際立っているのだ。
空中で一回転し、全身の体重を乗せたハンマーがダークゴーレムの頭部に炸裂。地面の震えで亀裂が走るほどの威力となっていて、その衝撃が炸裂する。ダークゴーレムの赤い目が一瞬揺らぎ、零夜たちの士気が高まる。
「二人共、ナイス連携! ん?」
倫子が指を鳴らして喜ぶ中、彼女の視線がダークゴーレムの背中に捉えられた。そこには紫色に怪しく輝く小さなダイヤが埋め込まれているのを発見したのだ。光が脈打つように点滅し、不気味な魔力を放っている。
そのダイヤを見た倫子は真剣な表情をしつつ、弱点ではないのかと推測し始める。
「紫色のダイヤがあるけど、これって弱点じゃ……」
「あのダイヤ? どれどれ……」
倫子の呟きを聞きつけたアイリンが、素早く視線を背中に移す。鋭い猫の感覚で確認した彼女は、すぐに確信に満ちた声で皆に説明を伝える。弱点が分かった以上、伝えなくてはいけないと判断しているのだ。
「間違いないわ! ダークゴーレムはこの宝石でパワーアップしているみたい! 奴が平然と立っているのも、あれが原因としか考えられないわ!」
「それなら彼女の出番だな。ライラ、頼む!」
零夜が手首のバングルを掲げると、眩い光と共にスピリットが解放され、ヴァルキリーのライラが現れる。背中に生えた白銀の羽が輝きを放ち、彼女は天を舞う戦乙女そのものだ。風を切り裂く羽音が戦場に響き、希望の象徴として全員の視線が彼女に集まる。
「狙いを定めて……スカルキックゼロ!」
ライラが羽を広げ、空を切り裂く速さで急上昇。背中の宝石を狙い、鋭い蹴りを放つ。だが、ダークゴーレムが咆哮と共に立ち上がり、巨腕を振り回して彼女を直撃。ライラは弾き飛ばされ、床に激突した。土煙が舞い上がり、一瞬、戦場が静まり返る。
「ライラ!」
「うぐ……私はここで負けません!」
地面に叩きつけられたライラだが、羽をはためかせて即座に浮かび上がる。零夜と同じく諦めの悪い性格だが、零夜の性格が感染している可能性が高いだろう。
ダークゴーレムの拳が再び襲い来る中、ライラは華麗な飛行でそれを回避し続ける。その動きはまるで舞踊のようで、敵の攻撃を紙一重でかわしながら反撃の隙を伺う。
「私が囮になって彼を誘き寄せます! 今の内に攻撃を仕掛けてください!」
「ええ! あなたがくれたチャンスは無駄にしない!」
ライラが空を舞いながら合図を送ると、日和がウインクで返しながら銃を構える。彼女は背中の宝石に狙いを定めるが、ダークゴーレムはライラを追うことに集中しており、簡単には狙えない。日和の指が引き金に掛かり、緊張が極限に達する。
「そのまま……追撃弾、発射!」
日和が真剣な表情で引き金を引くと、放たれた弾丸は直線ではなく、追尾するように背中へ向かう。宝石に命中した次の瞬間、強烈な爆発が起こり、紫の輝きが砕け散った。破片がキラキラと地面に落ち、全員が息を呑む。
「グオオオオオオオ!!」
「やった! 破壊成功!」
ダークゴーレムが痛みで叫び、日和が笑顔を見せながら指を鳴らす。ところが次の瞬間、ダークゴーレムの身体が異変を起こしてしまった。皮膚が鋼のように硬化し、アイアンダークゴーレムへと変貌を遂げたのだ。黒光りする鋼の巨体はさらなる威圧感を放ち、空気すら冷たく感じさせる。戦場に新たな恐怖が広がってしまい、零夜たちは変わり果てた姿に驚きを隠せずにいた。
「嘘!? いきなり鋼鉄化になるなんて! これじゃあ弾丸が効かない!」
「そんなのあり!?」
「いくら何でも予想外すぎるだろ!」
予想外の展開に対し、日和達が驚愕するのも無理はない。いきなり弱点を突いて倒したかと思ったら、強化してしまうとは想定外としか思えないのだ。
そんな彼女たちを嘲笑うかのように、アイアンダークゴーレムが片手で日和を掴み上げる。予想外の展開に隙を突かれた結果だが、鋼の指が彼女の身体を締め付けていく。
「しまった!」
「日和ちゃん!」
逃げ場がない日和は抵抗するが、鋼の指の強さで逃げる事ができない。このまま握り潰されるかと思いきや、アイアンダークゴーレムはもう片方の手で彼女のお尻をツンツンとつつき始めた。あまりの予想外の行動に全員が呆然としてしまい、ポカンとした表情で立ち尽くしてしまう。緊迫した空気が一瞬にしてシュールな雰囲気に変わった。
「嫌! 止めて! そこは触らないで!」
お尻をつつかれた日和が涙目で叫ぶ中、この光景に零夜たちは思わずズッコケてしまう。凶悪な外見とは裏腹に、中身がバンドーの性格を残しているらしい。一瞬呆れてしまうのも無理ないが、この奇妙な状況が新たなヒントを与えた。
「バンドーの性格がまだ残っているみたいだな……呆れて物も言えないのは無理もない」
「しかし鋼の身体となると、破壊するのは難しくなりそうだな……何か策があれば……」
零夜が眉を寄せる中、ヤツフサが鋭い牙を剥きながら低く唸る。倫子は真剣な表情をしながら、アイアンダークゴーレムの鋼の身体をじっと観察し始めた。その視線はまるで科学者のように鋭く、何かを探しているようだ。
「倫子、何か弱点が分かったの?」
「もしかするとゴーレムに弱点があるのかしら?」
アイリンとベルが尋ねると、倫子の頭に閃きが走る。彼女は倒し方を思いついたようで、そのアイデアは戦場に新たな展開をもたらそうとしていた。心の中でも勝てると言う自信があり、やるなら今しかないと判断しているだろう。
「そういう事ね! ワイバーン、アイアンダークゴーレムの身体に火を吹いて! それで日和ちゃんを助けられるわ!」
倫子の指示にワイバーンたちが応じ、一斉に炎を吐き出す。鋼の身体が赤熱し、灼熱の風が戦場を包む。アイアンダークゴーレムは耐えきれずに日和を手放してしまい、彼女は地面に落下してしまう。
「きゃあああああ!!」
「今がチャンス!」
ライラが白銀の羽を広げながら空を飛びつつ、日和をお姫様抱っこで救出。ワイバーンたちが炎を止め、戦場に一瞬の静寂が訪れる。だが、これはまだ序章に過ぎなかった。
「ありがとう、ライラ!」
「気にしないでください。あと倫子さんからの指示ですが、熱を帯びている部分にアクアキャノンをお願いします!」
「分かったわ!」
ライラからのメッセージを聞いた日和は、バングルから水のポーションを召喚し、銃のオーブに注ぐ。銃が青い銃である「アクアイーグル」へと変形し、水属性の連射が可能な武器へと進化した。彼女の目には決意が宿り、セクハラされた逆襲の時が来た。
「さっきのお返しよ! アクアキャノン!」
水の魔法弾が連続で放たれ、熱された鋼の部分に直撃。急激な冷却で鋼が脆くなり、防御力が大きく低下した。金属が悲鳴を上げるような音が響き、アイアンダークゴーレムの表面に無数のひびが走る。
「アイアンダークゴーレムの防御力が下がった!」
「奴は鋼でできている。そこに熱を浴びせて急速で冷やせば、当然強度も弱くなる。それを倫子が見抜くとは見事ね」
日和はアイアンダークゴーレムに罅が入った事に驚く中、アイリンが冷静に分析しながら倫子を褒めていた。しかし、心の中ではもっと褒めたい気持ちがあるが、それが伝えられるのは何時になるのやら。
しかし鋼は熱に弱い弱点を突くことができた為、戦場に新たな希望が芽生える。チャンスが今しかないと判断した以上、全員の動きが一気に加速する。
「ゴーレム。強烈な打撃で罅の部分を打ち込んで!」
「分かった! 弱点を狙えばこっちの物だ!」
倫子の指示でゴーレムが拳を振り上げ、脆くなった部分に全力の一撃を叩き込む。敵の鋼の身体が砕け散り、アイアンダークゴーレムは大ダメージを負ってしまう。飛び散った破片は床に突き刺さり、零夜達は後方へと回避しながら移動する。
「グオオオオオオオ!!」
激痛に耐えきれず、片膝をつくアイアンダークゴーレム。今が最大の好機だが、その赤い目が再び光り輝いている以上、何度でも立ち上がろうとする兆候を見せる。戦いがまだ終わっていない以上、油断は禁物と言えるだろう。
「アイアンダークゴーレムの動きが止まったわ! 攻めるなら今よ!」
「勿論だ! このチャンスを無駄にせず、奴の野望を終わらせる! そして……因縁を終わらせる為にも!」
アイリンの叫びに零夜が力強く応じ、水龍刀を握り直して突進する。刀身に水のオーラが宿り、彼の背後に龍の幻影が浮かぶ。日和たちも後に続き、戦いは最終局面へと突入した。果たして、この戦いの結末は――?