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第49話 ベルとのスキンシップ

「なるほど。レッドドラゴンはこの方であり、あなた達の仲間だったのですね」


 ロックマウンテンからギルドに帰還した零夜達は、これまでの出来事をメリアに報告していた。誰もがあのレッドドラゴンがマツリだとは気付いていなかったため、ギルド内がざわつくのも無理はない。むしろ、討伐せずに済んだことに全員が胸を撫で下ろしていた。

 ちなみに、二十匹のウルフたちはスピリットとなり、エヴァのバングルに収まっている。今はワンダーエデンで大人しく暮らしているようだ。


「では、零夜さん、倫子さん、日和さんはAランクへと昇級になります! また、マツリさんはこのギルド所属という事で宜しいですね」

「おう! よろしく頼むぜ」  


 メリアの言葉に、マツリはグッドサインで応え、エヴァは仲間と共に戦える喜びを感じていた。零夜、倫子、日和の三人はハイタッチを交わし、Aランク昇級を心から喜んでいる。


「クエストも終了しましたが、これからどうしますか?」

「家に戻ろうと思います。そろそろ夕方ですので」

「そうですか。では、明日も宜しくお願い致します!」


 零夜たちは家に帰ることに決め、メリアは丁寧に一礼してから受付カウンターへ戻った。彼らもギルドでの仕事を終え、そのまま帰路についた。


 ※


 クローバールの街中を歩きながら、零夜たちは市場で夕食の食材を買い込んでいた。メニューは野菜サラダ、鹿肉のステーキ、焼きたてのパン。シンプルだが満足度の高い献立だ。


「たまにはお米も食べたくなるな……日本食が恋しくなったし……」

「たこ焼きやお好み焼きは、クローバールに無いですからね……ハルヴァスにあるとしたら刺身かお米でしょうね……」  


 倫子がポツリと呟くと、日和が苦笑いを浮かべて同意する。クローバールは西洋文化が色濃く、和食はほとんど知られていない。お好み焼きやたこ焼きに至っては存在すらしないため、自分たちで作るしかないのが現状だ。


「日和の言う通り、刺身とお米はアタイがかつて住んでいた村にあるからな。しかしお好み焼きやたこ焼きは興味あるな」

「それならレシピを見て皆で作らないとね」  


 マツリはハルヴァスの食文化を語りつつ、お好み焼きやたこ焼きに興味津々。エヴァも頷きながら賛同し、皆で作ることを提案する。アイリンとベルも黙って首を振って同意していた。


「じゃあ、今度たこ焼きパーティーでもしようか。そうなると道具も必要になるし」

「そうね。たこ焼き器があるかどうかは、ハルヴァスの通販で確認しないと。たこ焼きを食べる為にも探さないと!」  


 零夜の提案に、アイリンが笑顔で応じる。だが、たこ焼き器は家にないため、この世界の通販で探すことに。なければパーティー自体が成立しないため、念入りなチェックが必要だ。

 すると、ベルが突然立ち止まり、寂しそうな表情を浮かべた。彼女は零夜の手をぎゅっと握り、なかなか離そうとしない。


「どうした、ベル? 寂しそうな表情を浮かべているが……えっ? 泣いている!?」  


 零夜がベルの顔を見ると、彼女の瞳から涙が溢れていた。家族との別れを乗り越えたはずなのに、その悲しみがまだ心に残っているのかもしれない。

 その様子に倫子たちも驚き、ベルを慰めようと自然と周りに集まった。


「ごめんなさい……実は……家族を失った悲しみが残っているの……前はスキンシップができていたのに……今ではできなくて……」

「リキマルによって家族は殺されていたからな……まだ心の傷が残っているのも無理ないな……」  


 ベルの言葉に、マツリは真剣な表情で頷いた。

 ベルはかつて人間族のバルダと結婚し、彼の連れ子であるカプルとメイラと共に幸せな家庭を築いていた。しかし、リキマルによって三人を奪われ、その悲しみは今も消えていない。


「その気持ちは分かるけど……なんで俺の手を強く握っているんだ?」

「うん……実は……あなたとスキンシップがしたいから……」

「「「!?」」」  


 零夜の問いに、ベルは頬を赤らめながら大胆な告白。皆は雷に打たれたように驚き、数秒間その場で固まってしまった。


 ※


 家に帰り、夕食を終えた後、零夜とベルは二人きりで彼の部屋にいた。プロレスのポスター、運動器具、プロレスや異世界ファンタジー系の漫画が並ぶ本棚が並ぶ、零夜らしい空間だ。


「なんで俺の部屋で?」

「あなたには悪いけど、この部屋でスキンシップがしやすいからね。さっ、始めましょう」  


 ベルは腰のエプロンを外し、首に掛けたカウベルをチリンと鳴らすと、零夜に全身で密着してきた。豊満な胸が押し付けられ、零夜の興奮が急上昇するのは避けられない。彼女の今の衣装は、裸の上に青いデニムのカーゴストライプオーバーオールだけという大胆なもの。お気に入りとはいえ、際どさが際立つ。


「い、いきなり密着するのは流石に……」

「これが私のやり方なの。その方が落ち着くからね。いい子いい子」  


 ベルは穏やかな笑みを浮かべ、零夜の頭を母親の如く優しく撫でる。相手に安らぎを与える彼女らしいスキンシップだが、零夜には逆効果で、顔が真っ赤になるばかりだ。


「う……倒れそうになるかも……」

「あらあら。それなら身体を動かしながら擦り合わせる方が良いわ。そうなると赤面も少しは収まるし」

「そんなやり方で効果が……人の話を聞けーっ!」  


 零夜が反論しようとした瞬間、ベルは彼の身体に自分の身体をスリスリと擦り始めた。制止の声も届かず、彼女は欲望のままに動く。こうなれば零夜が倒れるのも時間の問題だ。


「これじゃあ、ちょっと足りないわね……折角だから他の皆もちょっと呼びましょうか」

「おい! それってまさか!?」

「そのまさかよ。皆、入ってちょうだい! 今から皆でスキンシップを行うわよ!」  


 ベルが大声で呼びかけると、嫉妬で頬を膨らませた倫子が即座に部屋へ飛び込んできた。零夜が他の女性とスキンシップを取るのが我慢ならず、呼び声と同時に駆けつけたのだろう。


「倫子さん!?」

「零夜君……なんで他の女性とスキンシップするのかな……?」  


 倫子は笑ってない笑顔で零夜に近付き、額をくっつけて質問。背中から漂う怒りのオーラは、近づくだけで危険を感じさせる。


「いや、悲しんでいる人を放っておく事はできなくて……」

「そうなんだ……じゃあ、ウチもする!」

「倫子さん!? 止めてください!」  


 倫子も零夜に抱きつき、裸ロングオーバーオールの姿で全身を密着させてくる。またしても零夜は赤面し、興奮が抑えきれなくなる。


「あらあら。あなたも甘えん坊なのね。二人まとめていい子いい子」

「ベル、頼むから止めてくれ〜!」  


 ベルは零夜と倫子をまとめて抱き締め、全身密着でスキンシップを楽しむ。零夜にとっては大災難で、彼の悲鳴が部屋に響き渡った。


 ※


「様子を見に来たけど……まさかこんな事になるとはね……」  


 部屋の扉越しにこっそり覗いていた日和、アイリン、エヴァ、マツリ、ヤツフサは唖然としていた。巻き込まれたら大変だと、隠れながら避難を始める。


「俺も巻き込まれたら酷い目に遭うからな……」

「ヤツフサは小型フェンリルだからね……さっ、避難しましょうか」  


 ヤツフサは恐怖で震えながら呟き、アイリンが苦笑いで応じる。小型フェンリルゆえにスキンシップの標的になりやすい彼は、皆と共に各部屋へ逃げ込んだ。

 だが、エヴァだけは立ち止まり、零夜たちを眺めて頬を膨らませていた。尻尾がブンブン振れる様子からも、嫉妬が隠しきれていない。


「……ズルい」  


 エヴァは小さな声で呟き、回れ右してその場を去った。心の中で嫉妬の炎を燃やしながら。

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