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第60話 ギルドからの処罰

「では、これよりハインさんたちの裁判を執り行います」


 クローバールのギルド内に響くメリアの声は、静かながらも鋭利な刃の如き重みを帯びていた。一瞬にして静寂が場を支配し、ハインたちの裁判が始まるその時、誰もが息を詰めた。

 零夜たち冒険者、モールと衛兵たち、そして警備隊全員が集い、張り詰めた空気が会場を締め付ける。罪状は既に零夜たちから詳細に伝えられており、メリアとモールの視線がハインたちを貫く。彼らは額に滝のような冷や汗を流し、喉を鳴らして震えていた。


「この世界では奴隷制度は廃止されております。それにも関わらず、それを続けた罪は重く、関与した皆様にも厳しい処罰が下されます」


 メリアの言葉は冷たく、容赦ない響きを帯びていた。ギルド内にいる全員がその重さに顔を強張らせ、ハインたちはただ怯えるしかなかった。彼らの瞳には、これから訪れる破滅への恐怖が映り込んでいた。


「ギルド管理協会でも、奴隷に関する一切をお断りしております。クエストであれ、上層部からのご依頼であれ、そんな理由は通用いたしません。重罪となるのは確実ですので、覚えておいてください」


 その衝撃的な事実が明らかになると、零夜たちは目を丸くした。ギルドが厳格なルールで縛られているからこそ、今の秩序が保たれているのだ。アイリンとベルは事前に聞いていたので頷き、ヤツフサは冷徹な眼差しで話を聞いていた。しかし、ハインたちの顔からは血の気が引いていく。


「今回の件で、エヴァさんは被害者でいらっしゃいます。ルイザさんはエヴァさんの件で重罪に問われますが、同時に奴隷にされかけた被害者でもございます」


 ルイザは息を呑み、判決の行方を固唾を飲んで見守った。彼女は罪を償うために必死に動いてきたが、少しでも赦しが得られることを祈っていた。

 エヴァもまた、ルイザの罪が軽くなることを願い、マツリがその肩に手を置いて支えていた。会場は静まり返り、次の言葉を待つ空気が張り詰める。


「被害者への謝罪と和解、情報提供の実績、そしてハインさんたちとの縁切りが認められました。よって、ルイザさんは無罪とさせていただきます」

「ありがとうございます!」


 メリアが柔らかな笑みを浮かべて告げると、ルイザは涙を溢れさせ、感謝の言葉を絞り出した。エヴァも涙を浮かべながら笑い、マツリたちも安堵の表情を見せる。ルイザの行動が認められた瞬間だった。

 ルイザは二度と同じ過ちを犯さないと、心に誓ったに違いない。今後はギルドの為に精一杯働くことになるだろう。

 だが、次はハインたちの判決だ。誰もが息を止め、裁きの瞬間を待った。彼らの罪はあまりにも明白で、逃げ道はどこにもない。八方塞がりの中、モールが重々しく口を開く。


「ここはわしが告げる。ハイン、クルーザ、ザギル。お前たちの犯行は所属ギルドにも報告済みだ。怒りが収まらんのも当然……重罪は確定じゃ」


 モールの声は低く、まるで地鳴りのように響いた。ハインたちは俯き、冷や汗にまみれながら、もはや抗う気力すら失っていた。悪行の報いが、彼らを追い詰めていた。


「判決を申し上げます。まず共通する罪状でございます。ランク剥奪、ギルド追放、所持品の全没収。そしてクルーザさんとザギルさんには、無期懲役の強制労働を命じます」


 メリアの宣告に、ギルド内が一気にざわめきに包まれた。無期懲役の強制労働――それはギルド最大級の刑罰だ。死よりも過酷かもしれない。果てしない地獄のような労働が、死ぬまで続くのだ。観衆のざわめきが大きくなり、ハインたちの絶望が空気をさらに重くした。


「なお、脱走なさった場合、即死刑となります。不服がございますか?」


 メリアの視線は鋭く、クルーザとザギルを射抜いた。彼らは何も言えず、ただ首を振るしかなかった。零夜たちに敗れ、ギルドからも見放され、全てを失った今、もはや言い訳すら浮かばないのだろう。


「不服はございませんね。では、最後にハインさんです。あなたはプロレスの試合で観客からブーイングを受けた際、勝てば彼らを皆殺しにしようと企んでいらっしゃいましたね?」

「い、いや……そこまでは……!」


 ハインは冷や汗を流しながら目を逸らし、声を震わせた。その告発に零夜たちは驚愕し、ギルド内は騒然とした。あの試合で、彼は観客の声援に激昂し、心の中で殺意を抱いていたのだ。しかし、それが暴かれるとは夢にも思っていなかった。


「申し遅れましたが、私には人の心を読むスキルがございます。あなた方の企みは全て丸見えですので、誤魔化しは無駄でございます」


 メリアの衝撃的な告白に、ハインは膝から崩れ落ちた。顔は真っ青で、生気が消え失せていた。心の中まで見透かされ、観客を殺そうとした企みまで露呈した今、彼に抵抗する術はなかった。


「ハインさんは王都へ移送し、そこで裁判をお受けいただきます。死刑となる可能性は極めて高いですが、自業自得でございますのでご了承ください。警備隊の皆様、お願いいたします」


 メリアの合図で、数人の警備隊が項垂れるハインたちを連行した。外では護送馬車が待機し、彼らは次々とその中に押し込まれる。鍵が閉まる音が響き、馬車は中央都市メルドランへと走り出した。


「彼らの所持品は警備隊が没収し、後日手柄を立てた皆様に分配いたします」


 メリアの説明に、零夜が一礼で応える。同時にエヴァとルイザも自らの因縁が終わりを告げられ、心の中で安堵のため息をついていた。

 こうしてS級パーティー「オパールハーツ」は壊滅した。しかし、黒幕アリウスが暗躍する限り、エヴァとルイザの危機は続く。


「残りはアリウスだ。目的はペンデュラスだろうが、何か分かることはあるか?」


 零夜の問いに、エヴァとルイザが真剣な表情で考え込む。するとルイザが何かを思い出し、口を開いた。その様子だと何か心当たりがあるだろう。


「アリウスは元々、民に優しかったわ。領主になれば街は安泰だと皆が期待していたの」

「彼は人望があったのね……」


 ベルが真剣な顔で呟き、他の仲間たちも頷いた。

 アリウスはかつて、街の発展のために尽力する好青年だった。畑を耕し、建築を指揮し、設備を整えた彼が、なぜ今のような人物に堕ちたのか。


「性格が変わったのは一週間前。コパールレイクから戻った時、彼が変わったのを感じたわ」

「となると、コパールレイクに何か秘密があるのかも……」


 ルイザはさらに説明を続け、その内容にマツリが目を細めながら推測する。

 アリウスが変貌していたのがその場所であれば、念入りに原因を探る必要がある。彼が何者かに殺されてしまい、すり替わったという事例もあるからだ。


「明日、コパールレイクへ向かおう。アリウスの変貌の原因を探る必要がある」

「何者かが彼を殺し、成り代わっている可能性が高いわね。そうと決まれば行動あるのみ!」


 ヤツフサの提案に対し、アイリンは拳を握りしめながら決意を固める。倫子たちも同様に頷きながら同意している以上、明日はコパールレイクへ向かう事が決まったのだ。


「私もその件を徹底的に調べ、真相を明らかにいたします。情報が入り次第、すぐにお伝えいたしますね」

「分かりました。ここからが本当の戦いだな……」


 メリアも真剣な表情をしながら、アリウスの件について調べる事を決断。零夜も頷きながら応えた後、今後の戦いが厳しくなると推測した。

 だが、この時の彼らはまだ知らなかった。ペンデュラスの街で、新たな異変が蠢き始めていることを……。

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