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第63話 コパールレイクでの出会い

 零夜たちは目的地であるコパールレイクにたどり着き、周囲を見回し始めた。一見すると平凡な場所だが、どこからともなく漂ってくるカレーの匂いが特徴的だった。


「目的地にはたどり着いたけど……ここってよく見ると、そのまま……」

「カレーの池じゃないか!」


 その通り、コパールレイクはカレーの池として知られている。肉、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんといった具材が浮かぶこの池は、辛さは甘口レベル。さらにご飯の山まで用意されており、「おかわり自由」の看板まで立っているのだ。

 誰もが行きたくなるスポットとして知られているが、離れた場所にはモンスターがいる。其の為、冒険者で無ければこのスポットに行くことは難しいだろう。


「こんな場所に証拠なんてあるのかしら?」

「ええ、アリウスはこの場所に来ていたのは確かよ。もし彼がここで殺されていたなら、何か証拠が落ちているはずだからね」


 倫子の疑問に、ルイザは真剣な表情で答えた。アリウスが最後にこの場所を訪れていたなら、確かに何か手がかりが残っている可能性は高い。


「ここは手分けして探そう。俺とエヴァは特殊な嗅覚があるから、素早く調べてみる」

「そうね。私も匂いを正確に嗅ぎ分けてみるわ」

「私たちは索敵能力で探してみるわね」


 ヤツフサ、エヴァ、アイリン、ルイザの三人と一匹は、証拠集めのためにすぐに行動を開始した。

 特殊な嗅覚を持つヤツフサとエヴァは鼻を頼りに匂いを嗅ぎ始め、アイリンとルイザは索敵スキルを発動させながら歩き出す。四人はそれぞれの能力を活かしつつ、証拠となる手がかりを探し始めた。


「俺たちは地道に探すしかないか」

「そうね、他に方法もないし、地道に探さないとね」

「アタイらにはそんなスキルもないからな……羨ましいぜ」


 零夜たちは周囲を確認しながら、証拠となりそうなものがどこかに落ちていないか目を凝らした。コパールレイクは広い場所なので、落ちているものを見つけるのも一苦労だ。

 すると突然、エヴァが足を止め、クンクンと鼻を鳴らして正確に匂いを嗅ぎ始めた。どうやら何かを見つけたようだ。


「見つけたわ! 証拠の品だけじゃなく、彼の最期の場所も!」

「何だって!?」


 エヴァの報告に零夜たちは驚きを隠せず、彼女が証拠の場所へと案内する。三角形をした大きな岩がご飯の山の隣にあり、そこが本物のアリウスの死に場所だった。


「彼はこの場所で死んでいたわ。その証拠にこんなものが」


 エヴァは岩のそばに落ちていた証拠の品を拾い、零夜たちに見せた。それはペンデュラス家の紋章が刻まれたバッジで、金色にキラキラと輝いている。


「これはペンデュラス家の紋章! でも、アリウスはこんなものをつけてなかった……」


 ルイザはバッジを見て驚きを隠せなかったが、すぐに真剣な表情で考え始めた。すると、彼女の頭に閃きが走り、アリウスの正体を見抜く。


「分かったわ! ゲルガーはアリウスを殺した後、彼になりすましてこの街を支配しようと企んでいたのよ。このバッジが落ちているのもその証拠だし、真の正体を明かしてベイルを殺したのもそのためね」


 ルイザは真剣に推理を語り、皆は納得の表情を浮かべた。ゲルガーの行動を考えると、確かに辻褄が合う。


「その可能性は高いな。あとはゲルガーが本当にアリウスを殺したのか、しっかり確かめる必要がある」

「そうね。すぐにギルドに戻りましょう!」


 アイリンの合図で皆がギルドに戻ろうとしたその時、どこからか「スヤスヤ」という寝息が聞こえてきた。どうやら岩の反対側からだ。


「この寝息……誰かいるのかな?」


 日和が気になり、皆で岩の反対側を覗くと、そこにはドワーフの女性がスヤスヤと眠っていた。おそらくペンデュラスから脱走し、ここで休息をとっていたのだろう。


「あっ! あなた、ドワーフのエイリーンじゃない!?」

「むにゃ……その声は……ルイザさん?」


 エイリーンと呼ばれたドワーフの女性は目を覚まし、欠伸をしながらゆっくり立ち上がった。お尻についた服の汚れを両手で叩いて落としつつ、ルイザとエヴァに視線を移す。感激の表情で二人に抱きつき、涙を流しながら安堵していた。


「本当に無事で良かったです! あなたたちがいなくなってから心配で……」

「迷惑かけてごめんね、エイリーン」


 エイリーンは涙を流しながら二人の無事を喜び、ルイザは苦笑いしながら謝罪しつつ彼女の頭を撫でた。すると、エヴァがエイリーンの手首のバングルに目を留める。そこには「地」と刻まれた茶色い珠が嵌められていた。


「茶色い珠に『地』……エイリーン、あなたも八犬士の一人なの?」


 エヴァの質問に、エイリーンは涙を止め、二人から離れた。自身のバングルを見つめ、真剣な表情で頷く。


「八犬士って何かは分からないけど、いつの間にかこのバングルが嵌められていました。しかも、見たこともない力が発揮できたり、どんな物でも簡単に融合できたり、錬金術まで使えて……」

「それこそ八犬士の能力だ。エイリーン、お前も選ばれた一人だ」

「えっ!? 小さいフェンリルが喋った!?」


 エイリーンの話を聞いたヤツフサは真剣に彼女が八犬士だと告げたが、エイリーンはヤツフサの姿に驚き、尻もちをついてしまった。喋るフェンリルを見た瞬間、当然驚くのも無理はない。


「驚かせてすまない。俺はヤツフサ、八犬士のサポート役だ。お前が持つ珠は『地』で、大地の力を操れる。岩の召喚や地震、鉱山の探索、高度な錬金術も簡単にできる」

「そうだったのですね……じゃあ、私がすごい力を出せたのはこれが理由なのか……」


 ヤツフサの説明にエイリーンは納得し、再びバングルを見つめた。茶色い「地」の珠は八犬士の証であり、彼女は自分がその一人だと自覚した。すぐに真剣な表情で零夜たちの方を向く。


「私も八犬士である以上、あなたたちと共に戦います! 武器や防具のパワーアップは私に任せてください!」

「こちらこそよろしくな、エイリーン!」


 エイリーンは一礼し、零夜たちと共に戦うことを宣言。零夜は笑顔で応え、彼女と固い握手を交わした。

 七人目の仲間としてエイリーンが加わり、残りはあと一人。その人物の行方はまだ分からないが、近いうちに出会えるかもしれない。


「これでよし。あとはギルドに報告するか!」


 任務を終えた零夜が帰ろうとしたその時、エヴァたちは立ち止まり、カレーの池に目をやっていた。どうやらカレーが食べたくなったようで、エヴァに関しては口から涎をちょっと垂らしている。


「もしかして……食べたくなったのですか?」


 零夜の問いに倫子たちがコクコクと頷き、我慢できずにカレーを食べに向かった。お皿を取り、ご飯を盛り、カレーの池から柄杓でカレーをすくってかけ、一斉に食べ始めた。


「美味しい! カレー久しぶりだけど、いい味ね!」

「アタイは辛口が良かったけどな……」

「人の好みはそれぞれだからね……」


 ベルは笑顔でカレーを楽しみ、マツリは辛口でないことに少し残念そう。倫子は苦笑いしつつ、皆はカレーを食べながら笑顔になっていた。

 それを見た零夜とヤツフサは呆然と見つめるしかなかった。


「俺たちも食べるか?」

「そうしましょう……」


 結局、零夜とヤツフサもカレーを食べることにし、お皿を取りに向かった。彼らはコパールレイクでカレーを堪能した後、ギルドへと戻ったのだった。

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