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第65話 メタルモンスターに気をつけろ

 零夜たちは、ルイザ、エイリーン、エヴァの案内でペンデュラスを目指して進んでいた。道中、今のところモンスターの気配はなく、誰もがひとまず安堵の息をついていた。そんな中、ヤツフサは鋭い勘を働かせ、白い毛を風に揺らしながら平原の周辺を警戒するように見回していた。フェンリルの特徴である鋭い角、耳、尻尾がその敏感さを物語っている。


「今のところは異常がないが……どうもおかしいと感じるな」

「どういう事? 何か気になる事でもあるの?」  


 ヤツフサの言葉に、エヴァが銀色の尻尾を軽く振って首を傾げた。彼女の狼耳がピクリと動く様子に、倫子たちも疑問の視線を向ける。

 すると、案内役のルイザが何かに気づいたように目を細め、違和感の理由を説明し始めた。


「いつもならこの辺りはモンスターたちが大量にいる筈よ。なのに、モンスターが出ないという事は……恐らく何者かによってモンスターが回収されたに違いないわ」  


 ルイザの推測に、零夜たちは驚きを隠せなかったが、同時に納得の表情を浮かべた。確かに、何者かがモンスターを回収したのなら、この静けさにも説明がつく。


「もっとモンスター達を捕まえたかったな……新種がいるかと思ったのに……」  


 倫子は肩を落とし、盛大にため息をついた。アイリンがその様子を見て、「ったく、仕方ない奴ね」とツンデレっぽく呟きつつも、日和が優しく倫子の背中を撫でて慰める。


「まあ、仮にいるとしたらインプ、ゴブリン、ツノラビ、オオツノラビ、ハーピーレディ、ウルフ、ホルスタウロス、フェアリーぐらいかな。取り敢えずは先に進みましょう」

「そうだな。こんなところで道草なんか食っている場合じゃないし」  


 ルイザの提案に全員が頷き、再び歩みを進めた。するとエヴァが突然立ち止まり、鼻を動かして空気を嗅ぎながら銀色の尻尾を勢いよく振った。危機感を察知した証拠だ。


「どうしたの、エヴァ?」

「敵の気配がするわ。しかもモンスターよ!」

「なら、戦うしか方法はないかもな! 戦闘態勢用意!」


 エヴァの報告に零夜が即座に反応し、全員が一斉に武器を構えた。その瞬間、茂みからモンスターたちが姿を現し、襲い掛かってきた。インプ、ゴブリン、ツノラビ、オオツノラビ、フェアリーの五種類、総数およそ五百匹。数の多さに苦戦は必至だった。


「フェアリーに関してはウチがやる! マジカルハート!」  

倫子が両手でハートを作り、光線を放つと、フェアリーに直撃。しかしその余波でインプにも当たり、意図せず彼らまで仲間に変えてしまった。フェアリーとインプはスピリットに変化し、倫子のバングルに吸い込まれる。


「インプまで仲間にしてしまったけど……まっ、いっか! 仲間は多い方が良いからね」  


 倫子は笑顔で状況を受け入れ、バングルからモンスターを召喚した。シルバーファルコン、ツノラビ、ゴブリン、リザードマンのルーカスとジャイロ、ミノタウロスのジョージ、リザードライダーのエルバス、ウルフ、ファルコス、スライムが一斉に現れる。


「よし! 全員掛かれー!」

「「「おう!」」」  


 倫子の号令で召喚獣たちが動き出し、息の合った連携攻撃でモンスターの数を減らしていく。すると、ツノラビ五匹が光に包まれ、進化の兆しを見せた。


「これは進化……まさか!」  


 倫子が驚く中、ツノラビは進化を遂げた。オオツノラビが二匹、そして鎧を纏ったウサギの獣人戦士「ラビットナイト」が三匹に。戦闘中の進化は予想外だったが、今は驚いている暇はない。


「攻撃再開! 彼らを倒して!」

「「「了解!」」」  


 ラビットナイトたちが剣、槍、斧を手にモンスターに立ち向かい、オオツノラビも得意のタックルで敵を弾き飛ばす。忠誠心に溢れる彼らの動きは見事だった。


「なかなかやるわね! 私も倫子に負けられないわ! ナイフスロー!」  


 ルイザが感心しつつもナイフを投げ、百発百中の命中率でモンスターを倒していく。敵は金貨と素材に変わり、地面に散らばった。


「アタイらも行くぜ!」

「ここで一歩も引かないからね!」

「私も頑張ります!」

「ここで戦わなければ、女が廃るからね!」

「その意見に同意するわ!」

「これ以上好き勝手にさせないためにもね!」  


 マツリ、日和、ベル、エイリーン、アイリン、エヴァが次々と参戦。マツリは刀と盾、日和は大剣、エイリーンとベルはロングアックス、アイリンは拳、エヴァはクロー付きガントレットで敵をなぎ倒す。モンスターたちは逃げようとしたが、倫子が立ちはだかった。


「そうはさせへん! マジカルハート!」  


 光線が残りのモンスターをスピリットに変え、ツノラビ、ゴブリン、インプ、オオツノラビが各二十匹、倫子の仲間に加わった。これでモンスターは全滅となり、無事に先へと進む事ができる様になった。


「よし、先に……ん? 新たな敵が空から来るぞ!」

「へ? いきなり?」

「空から……って、何あれ!?」  


 マツリが空を見上げると、メカ化したモンスターが降りてきた。ウルフ、スライム、ゴブリン、インプが機械化され、特にサイボーグウルフは側面にアサルトライフルを装備している。見た目からしてもかなり手強さを感じているだろう。


「何なの、あのモンスター!?」

「あれはメタルモンスター! 機械系だけでなく、機械化されたモンスターもその部類に入ります。しかもウルフに至っては、サイボーグウルフとなっています!」

「「「ええっ!?」」」  


 エイリーンの説明に誰もが驚く中、サイボーグウルフが光弾を連射し、メタルスライムも襲い掛かる。形勢は一気に不利に傾いてしまい、あっという間にピンチとなってしまった。


「うわっ!」

「ひえっ! こっちに飛んできた!」

「くっ! ナイフ乱れ投げ!」

「乱れ手裏剣!」  


 ルイザたちが攻撃を仕掛けるも効果は薄く、苦戦を強いられる。誰もがやられそうになると感じる中、ベルの頭の中にある閃きがよぎっていた。

 ベルは零夜に視線を送り、彼を手招きし始める。その様子だと彼女に策があるのだが、どんなのかは気になるだろう。


「ちょっと来てくれない?」

「どうした、ベル? うわっ!?」

「「「!?」」」  


 疑問に感じた零夜が近づくと、ベルは彼を強く抱き締めた。豊満な胸が当たり、零夜は茹でダコの様に真っ赤に。驚く一同をよそに、ベルの身体から強烈な光が放たれる。その光は敵味方構わず包み込み、彼女は目を見開いて大技を発動させる。


「これが私の力! 聖母の裁きせいぼのさばき!」  


 ベルから放たれた光がメタルモンスターを消滅させ、素材と金貨を残した。味方の体力は回復し、攻撃力も向上。母性的なベルの大技は、味方を抱き締めることで発動するものだった。しかし味方が側にいなければ、発動は不可能である。


「よし! 任務完了!」

(((んなアホな……)))  


 ベルは笑顔で宣言したが、零夜たちは呆然と立ち尽くしてしまう。Gブロック基地でもマークを余裕で倒していたので、彼女の謎はますます深まるばかり。その正体は何時になったら訪れるのか……。

 そんな中、倫子はしゃがみながら、地面の金属塊を見つめていた。彼女の脳内では新たな閃きを得ていて、今こそ実行しようと考えている。

 その様子を見たベルは彼女に視線を移し、しゃがみながら声を掛ける。


「どうしたの? そんなに深く考えているけど……」

「うん……もしかするとこれ……モンスターの進化に使えるかも……」

「「「ええっ!?」」」

(まさか素材を見ただけで、モンスターの進化を見出すとは……只者ではないな)  


 倫子の言葉に驚く一同。ヤツフサは内心で彼女の観察力を称賛し、新たな展開を予感していた。この出来事によって、倫子のモンスターたちが新たな姿に進化する事を……。

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