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第69話 ライバルの降臨

「失敗か……さらに戦力も減らされるとは……クソッ!」


 Fブロック基地要塞の最上階。薄暗い部屋に響くゲルガーの苛立った声が、壁に反響した。彼は拳を握り潰すように締め、歯軋りしながら第一ステージの突破を許した事実を呪う。ゼルクスが使い物にならなくなった今、戦力は壊滅的に削がれていた。


「まあいい。次の手については考えてある。奴等と決着を着ける方法はいくらでもあるからな……」


 ゲルガーは唇を歪め、不気味な笑みを浮かべる。一度の策略が破られたくらいで挫ける男ではない。彼の頭脳は既に次の罠を編み始めていた。



 一方、零夜たちは要塞内部に突入し、息を切らしながら最上階を目指していた。ゲルガーを倒し、ペンデュラスを救うため、時間は一秒たりとも無駄にできない。焦りと緊張が彼らの胸を締め付けるが、誰も口には出さない。


「次のステージはどんなのか気になるが、何れにしても油断は禁物だ!」

「そうね。敵もゲルガー以外多くいるし、用心して進まないと!」


 ヤツフサが鋭い牙を覗かせ、低く唸る。それにアイリンが尻尾をピンと立て、ツンとした態度で頷く。だがその瞳は真剣そのものだ。

 その時、日和が突然足を止め、目の前の通路に目を向けた。そこには「この先二階への通路」と書かれた看板が不自然に立っている。


「恐らくこれは罠である可能性が高いわ。ゲルガーならこんな事を仕出かすだろうし、入ろうとしても何1つないからね」

「そうだな。他に2階へ続く道がないか見てみようぜ」


 マツリが頭の角を揺らし、姉御らしい口調で全員に指示を出す。日和の冷静な分析に誰もが頷き、別のルートを探し始めた。

 だがその瞬間、後方から戦闘員たちが現れ、銃口を揃えて一斉に構える。前には罠の扉、後ろには銃を持った敵。完全に挟み撃ちだ。


「やっぱりこうなると思ったわね……」

「そっちがその気なら! アラウンドバリア!」  


 ルイザのため息の直後、倫子の手から光が迸り、仲間全員を包む半透明のバリアが展開。戦闘員が発砲した銃弾が次々と弾かれ、金属音が響き渡る。


「バリアタックル!」

「「「がはっ!」」」


 倫子がバリアを押し出し、強烈なタックルで戦闘員たちを吹き飛ばす。彼らは壁に叩きつけられ、金貨と化して彼女のバングルに吸い込まれた。

 倫子が繰り出すバリアは、攻撃と防御に優れた威力を持っている。オールラウンダーである彼女だからこそ、この様なバリアを出す事も可能であるのだ。因みにレベルMAXであるベルの方がとても威力が高く、完全無敵の強さを誇っている。


「よし。早く別の道を探しましょう」


 倫子の声に全員が動き出そうとしたその時、罠の扉が軋みながら開き、黒い触手が飛び出してきた。ぬめり光る異形の腕が空気を切り裂き、零夜たちを襲う。


「扉の向こうから触手が出てくるなんて……」


「捕まったら何をされるか分からないからね。ここは逃げないと!」


 エイリーンが呆然と呟く中、エヴァが尻尾を震わせて即座に跳び退く。 倫子たちも逃げようとしたが、触手が零夜の足を絡め取り、扉の奥へと引きずり込む。


「うわああああああ!」

「「「零夜(君)!」」」


 扉がバタンと閉まり、零夜の叫びが途絶えた。倫子とエヴァは膝をつき、涙が溢れる。大切な人が連れ去られたショックは、とても大きすぎたのだろう。


「零夜君が……触手に捕まった……うう……」

「ヒック……どうしてこんな事に……うえ~ん……」 


 その様子を見たベルが、泣きじゃくる二人の肩にそっと手を置き始める。そのまま彼女たちを母親のような温かさで抱き寄せ、優しく背中を撫で始める。


「大丈夫。零夜はこんなところで倒れる輩じゃない。彼には諦めの悪さがある事を、皆は知っているでしょ?」

「「あ……」」


 倫子とエヴァはハッと顔を上げる。第一ステージを突破できたのは、零夜の執念と守りたい気持ちがあったからこそだ。しかし自来也によって味方を巻き込んだのは良くないが。


「そうだった……零夜君がいたからこそ、今のウチ等が此処におる……」

「となると、泣いている場合じゃないみたいね。このままだと零夜に心配されてしまうし」


 二人は涙を拭い、真剣な眼差しで立ち上がる。ここで立ち止まってしまえば零夜に心配されるのは勿論、ペンデュラスでさえ救う事はできないのだ。


「零夜君は大丈夫。私達は私達で頑張るしかあらへんよ」

「それに私達は彼に頼り過ぎている部分もあるし、今度は私達の手で彼を助けるわよ!」

「「「おう!」」」


 倫子とエヴァの決意に対し、ルイザたちも拳を掲げて力強く応える。全員が決意を新たに、次のルートを探し始めた。


 ※


 触手に引きずり込まれた零夜は、薄暗い部屋に放り出された。触手は彼を解放すると同時にスルリと消え去る。


「ここは一体……」


 零夜が辺りを見回すと、広大で殺風景な部屋が広がっていた。柱もなく、壁は無機質。だがその単純さが逆に不気味さを増す。


「ともかく今はこの部屋を出ないと。もしかすると仕掛けが何処かにある筈だ……」  


 零夜が慎重に歩き出した瞬間、何処からか低い声が響いた。



「八犬士の東零夜か……」

「ん?」



 振り返ると、魔法陣が光を放ち、一人の男が現れる。迷彩服に身を包み、両手にガントレットを装着した男が、冷たい目で零夜を睨む。


「あなたは?」

「俺の名前は神田裕二。さすらいの傭兵だ」

「神田裕二……俺と同じ日本人じゃないか!」  


 零夜が驚きに目を丸くしてしまい、裕二に視線を移していく。まさか自分たち以外にも同じ日本人がいるとは、予想外だと感じているのだ。

 しかし裕二は表情を変えず淡々と続ける。


「俺はあるお方の依頼で、お前を始末しに来たからな。今の触手も……俺が召喚したんだよ」

「じゃあ、あの二階に進む看板も、おまえが書いたという事なのか!」


 裕二は無言で頷き、両手に三本ずつ、計六本のダガーを構える。その鋭い刃が薄暗い光を反射し、殺意が零夜に突き刺さる。  


「その通りだ。東だけでなく他の八犬士が五人もいるが、特に要注意なのはお前なのでね!」

「だろうな……まあ、そう言ってくれるのであれば、ここで死ぬ理由にはいかないからな!」


 零夜は忍者刀を両手に召喚し、刃を握り潰す勢いで構える。室内戦に適したその武器が、彼の決意を象徴していた。  


「俺と戦うつもりか? 下手したら無様に死ぬことになるぞ?」

「俺がそんな脅しに通じると思うか? 俺は仲間を見捨てて死ぬ理由にはいかないからな。甘く見るのはアンタの方だよ!」


 零夜の言葉に、裕二の目が一瞬細まる。同時にニヤリとあくどい笑みを浮かべ、目の前にいる敵を睨みつけてきた。


「そうかそうか……無様に殺される覚悟は出来ているのか……なら、徹底的に殺すのみだ!」 


 裕二が殺気を爆発させ、六本のダガーを手に零夜へ突進する。その動きは獣のように荒々しく、一撃で仕留める気迫に満ちていた。


「おっと!」


 零夜は素早く身を翻し、忍者刀を構え直す。裕二の目が爛々と輝き、殺意が空気を切り裂く。


(こいつ、ただの傭兵じゃない……経験者だ。だが俺はこんなところで仲間を裏切らない!)  


 零夜は心の中で決意を固め、忍者刀を握り直す。仲間との再会を信じ、裕二との死闘に身を投じた。

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